第43話 アルミラージとエルフ
矢を向けられた状況に俺は焦る。矢でも鉄砲でも持って来いと言ってジュラルミンの盾を出したいところだが、今からやったのでは時効硬化が間に合わない。夢の金属ジュラルミンなのに。なお、パチンコ用の金型で使ってみたが、1000ショットくらいで摩耗して、バリが酷いことになったので、夢の金属ではないと思います。
「俺たちはこの大森林を抜けて隣国に行きたいんだ」
「何故こんなところを通り抜けようとする?街道の方が安全だろう」
「国に追われているからだ」
「何故だ?」
こちらの返答に対して、毎回何故を繰り返してくる。お前らなぜなぜ分析かよと言ってやりたい。
「アルト、話しても無駄モビ」
「そんな雰囲気だよなあ」
アルが俺の肩に乗ってそう話すと、相手が動揺した。
「まさか、その一角兎はアルミラージ?」
「そうだが」
「何故お前たちがアルミラージを連れている?」
「アルトが出すアルミが美味しいからモビ」
アルの返答を聞いたエルフたちがざわつき始めた。
「どういうことだ?」
俺はデーボに訊ねる。
「エルフは鉄を嫌う。しかし、金属は便利なので使っておる。アルミが好物のアルミラージとは相性がいいんじゃよ」
「へえ。どういうことか。因みにどんな金属を使っているんだ?」
「アルミ、銅、マグネシウム、ステンレスじゃな」
「非鉄商社みたいなラインナップだな」
ていうか、ステンレスがあるのかよ。
「特に、オーステナイト系のステンレスが人気じゃな」
オーステナイトというのは鋼の組織の種類であり、他にはフェライトとマルテンサイトがある。マルテンサイトは硬くて脆いが、オーステナイトはそれよりも靭性があり伸びる。それと、オーステナイト系ステンレスは磁石につくが、他はつかないという性質もある。
「アルも知っているモビ。ニッポン放送、伊集院光の」
「それはOh!デカナイト。今言っているのはオーステナイト。っていうか、なんでラジオ番組を知っているんだよ」
「アルの角はアンテナになるモビ。AMの電波は遠くまで届くから、ここでも受信できるモビ」
「流石AM。利益の観点から、廃止してFMに統一するのはやめてほしい。カーラジオはどうなるんだ?」
俺は電波に詳しくないが、重力波は時空を超えるというし、きっとAM波も時空を超えていくんだろう。億光年も軽やかに飛ぶはずだ。
「でも、アルはニッポン放送よりTBSの方がお気に入りモビ。日曜大将軍もいいけど、朝からおはよう一直線・スタンバイ・ゆうゆうワイドを聞いているモビ。遠藤泰子さんの声がスタンバイから7円の唄まで聞けるし、秋山ちえ子の談話室もおすすめモビ。でも、年齢の関係で、スタンバイもゆうゆうワイドもおはよう一直線より先に終わっちゃうと思うと悲しいモビ」
「あ、そうだな」
ゆうゆうワイドが最初に終わって、おはよう一直線はパーソナリティが変わって継続になるんだけどな。いつ頃の電波を受信しているのかわからないが、今のことを伝えるのも気が引ける。
「番組で宣伝している痛散湯は心の痛みにも効くモビ?コンプライアンス違反のあれこれを受けた被害者や、急遽番組を降板させられたパーソナリティの心の痛みにも?」
いや、こいつ絶対に今の情報を知っているだろ。
※連載開始時期はまだこの件は表沙汰になっていなかったけど、まあ。
俺たちがそんな会話をしていると、向こうの一人が近づいてくる。
「人間は信用できないが、アルミラージの言葉であれば信用できる。それで、アルミラージに相談があるので、我らとともに里まで来てほしい」
という申し出を受けた。
「エルフにたして随分と信頼があるんだな」
「そうモビ。7と11は相性がいいモビ。ところで里はどこに有るモビ?」
アルの質問にエルフがこたえる。
「すぐそこ」
「サンクスモビ」
「7と11はどこに行ったんだよ!」
これはつっこまずにはいられない。
「里は森のほっとステーションモビ。そこに行けば、エルフとコンビに」
「近くて便利ではないし、いい気分にならないかもしれぬがな」
「そこが一番大事だろ!っていうか、さっきすぐそこって言ったばかりじゃねーか!」
このエルフも信用らなんな。
アルの仕込みじゃないのか?と思えた。
まあそんなやり取りはあったが、いまだ警戒されたままエルフの里に連れていかれる。
「ここで待て。長老を連れてくる」
と言われて待っている。待っている俺たちの周囲には、見張り役のエルフたちが張り付いているので居心地が悪い。
しばらくして金髪美女がやってきた。
「あれが長老なのか?」
「そうモビ。1000年ぶりに見たモビ」
そうか、アルは一度会ったことがあるのか。
やはりエルフは外見では年齢はわからんな。あれで1000歳を超えているというのだから。20代前半にしか見えないぞ。
長老はこちらに来ると手を前に出した。
他のエルフたちもそれに倣う。
「我らがビッグホーンのために」
長老がそういうと、エルフたちも同じ言葉を口にする。
「我らがビッグホーンのために!」
俺はビッグホーンが何かわからず、アルに訊ねた。
「ビッグホーンってなんだ?」
「神が最初につくったとされるエルフモビ。エルフは神ではなく、その始祖を信奉しているモビ」
「なるほどねえ」
その儀式が終わって長老が俺たちに話しかけてくる。
「アル、久しいですね」
「フローリアンは全然変わってないモビ」
そうか、フローリアンっていう名前なのか。
「どうしてこのフジサワの森に?」
「アルトと一緒に隣国に行くためモビ」
「そうきいていましたが、本当なのですね」
「モビ」
アルは全身を使って頷いた。
「その前に、どうか我々を助けてはくれないでしょうか?奴隷狩りは見たでしょう。今までも多くの仲間が連れていかれました。このままでは、この里も終わってしまいます。お礼ならこの森で採れたアルミニウムを差し上げますが」
「生憎と、アルミは間に合っているモビ。アルトから無尽蔵に出てくるモビ」
まあ、無尽蔵ではないんだがな。対価としてこちらの国の金を払っているわけだし。
アルに拒否されたことでフローリアンの顔が曇る。
「我々だけでは人間の攻撃に負けてしまいます。どうか」
それを聞いて俺はフローリアンに質問する。
「それって、人間の国を亡ぼすっていうことか?」
すると、フローリアンは頭を振った。
「奴隷狩りをしているのは、どうやらサンデー伯爵の独断のようです。だから、彼を止められれば、国を亡ぼす必要はありません」
「そうは言っても、結局伯爵領は亡ぼすことになるんじゃないのか」
国か、地方の貴族の領地かということだが、全面戦争の当事者になるっていうことか。
「まあ、その伯爵とやら個人を倒せばええんじゃろ。犯罪ギルドとも関係がありそうじゃし」
デーボが口を開くと、ドワーフ風情がという声が聞こえてきた。仲が悪いんだなあと実感する。しかし、今はドワーフを嫌っている場合じゃないだろうに。
そんなエルフたちにいらっときたので、ついきついことを言ってしまう。
「俺の大切な仲間をドワーフ風情と言うなら、このまま通りすぎるだけだ。自分たちだけでなんとかすればいい」
「申し訳ございません。無礼を詫びます」
長老は頭を下げた。それを見ては、他のエルフもデーボに対して何も言えなくなった。
俺はため息をついてアルを見た。
「どうするんだ?」
「強くなければ生きてはいけない。でも、優しくなければ生きている資格は無いモビ。だから、フローリアンを助けようと思うモビ。あ、チキンのアルトは怖いモビ?逃げたいならそう言うモビ」
「ちょっと待って!今の言葉プレイバック、プレイバック」
こいつ、俺を挑発しやがって。そこまで言うならやってやろうじゃないか。
こうして、奴隷狩りをしている領主と戦うことになった。