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第42話 奴隷狩り

 俺たちはサンデー伯爵領にきていた。ここには大森林があり、そこを抜ければ隣国となる。いまは冒険者ギルドで依頼の完了手続きをしているところだ。ここまでの道中、ただ移動するのではもったいないからと、商人の護衛を受けてきたのだ。

 美人の受付嬢は書類を確認すると、こちらに報酬を渡してくれる。その際、小声で注意事項を教えてくれた。


「現在ここの大森林でエルフの奴隷狩りが行われています。当然違法行為なので、冒険者がかかわったら、こちらとしても厳罰に処す必要があります。なので絶対にかかわらないでください」

「奴隷狩り?」


 俺は初めて聞く単語であり、デーボとサクラに説明を求めた。


「この国では奴隷は認められているは。でも、それは借金奴隷か戦争奴隷よ。お金が返せなくて奴隷になったか、戦争で捕虜になって捕虜交換で金銭が支払われなかったものが奴隷になるってパターンね」

「ここで言う奴隷狩りとは、そうした者たちではなく、人さらいのような連中によって連れ去られることじゃよ。当然国も禁止しておる」

「へえ。じゃあ、何も小声で言うようなことでもないんじゃないか」


 内容を聞くと犯罪行為なので、小声で言うようなことでもないというのが俺の感想だ。

 それに対して受付嬢が補足してくれる。


「どうも、一部の兵士たち、それもかなり上の方がかかわっているようで、冒険者ギルドにも圧力が加えられています。兵士たちはエルフを叛乱勢力に指定して、それを鎮圧するという目的ですが、エルフが叛乱しているという事実はありません」

「独立勢力のギルドに圧力か」

「ええ。冒険者ギルドもまとまればそれなりの勢力ですが、支部単体では領主や国の圧力をはねのけるのは難しいので。あなたたちは別の街から来たので、注意喚起をさせていただきました」

「なるほどねえ」


 俺たちは報酬を受け取ると、一度冒険者ギルドを出た。

 そこで一台の馬車が目の前を通過する。荷台には幌があるが、その隙間からちらりと中が見えた。そこには金髪で耳の長い美女がいた。ただ、薄汚れたような感じであったように思える。一瞬しか見えなかったので、見間違いかもしれないが。

 仲間にそのことを伝える。


「今通り過ぎた馬車の中に金髪で耳の長い美女がいたんだけど」

「おそらくはエルフじゃな。奴隷狩りというのも、おおかたエルフの女が狙いじゃろう」

「エルフもいるのか。精霊魔法使ったりする?」

「ああ。そして、ドワーフとはそりがあわん。あやつらは鉄を嫌うでな」

「へえ」


 なんかイメージしているエルフまんまで安心した。


「やっぱり森の中で暮らしているのか?」

「そうじゃ。これから行こうとしている大森林は、あやつらの大規模集落がある。たしか、フジサワとかいったはずじゃ」

「フジサワかあ」


 エルフがいっぱいいそうな地名である。


「さて、街道を使わずに大森林を抜ければと思っていたけど、波乱の予感がしてきたね」


 ここまでの状況をみると、この波乱の予感は当たると思う。

 すると、アルがすたすたと歩きだした。


「アルトの道程は遠いモビ。そして、その大道はないモビ。自らが全身の力で拓いていかねばならないモビ。歩け、アルケ、どんなものが出てきても、乗り越して歩けモビ」

「そうだな。僕の前に道は無い。僕の後ろに道は出来る。道は僕のふみしだいてきた足跡だ」

「どうしたんじゃアルト。一人称が僕になっておるぞい」


 デーボが心配そうに俺を見てくる。

 何も心配はないんだよな。アルが変な言い回しをしたのに付き合っただけだから。


「あ、うん。予定通り行こうと思ってね」


 特に街にいる必要もないので、すぐに出発して大森林へとはいる。

 大森林というだけあって、木々が鬱蒼と生い茂っており、鳥や虫、野生生物を頻繁に目にした。

 デーボが木の上を指さした。そこには黄色と茶色の縞模様の小さなリスっぽいのが群れでいた。


「キツネリスの親子じゃな」

「へえ、可愛い外見だな。ペットにしてみたい」

「外見だけはな。しかし、あれは危険じゃ。強い光を当てないこと、水に濡らさないこと、深夜に餌を与えないことを守らんと大変なことになる」

「めんどくさい生き物だな」


 なんて言いながら見ていると、そのキツネリスに襲い掛かる奴がいた。四枚の羽が生えたトンボのような虫だが、顔つきがかなり凶悪だ。複数の目を真っ赤にしている。


「カイザーヤンマは森の掃除役、凶悪なハンターじゃ。こんな浅いところに出てくるようなもんではないんじゃが」

「森に異変が起こっているってことか?」

「かもな」

「あんなのがいるって知っていたら、ここを抜けようなんて言わなかったかもな」


 俺はこの大森林を抜けようと言ったことを後悔していた。ちょっとファンタジーが過ぎる。いや、日本の森も十分に危険だけれど。その認識を忘れていた。

 カイザーヤンマがキツネリスを食べているうちに、その場を離脱して奥へと進む。

 すると、剣戟の声と怒号が聞こえる。


「To LOVEるの予感」

「発音がおかしいモビ」


 アルに突っ込まれるも、他の二人は音のする方を見る。

 金属鎧を着た集団と、革鎧の集団が戦っていた。


「エルフと人間じゃな」

「金属鎧の方は街にあった紋章と同じ旗を持っているわ。伯爵領軍ね」


 金属鎧の方は人であり、一方の革鎧の方はエルフだ。人の方が体格が良い。エルフは主に弓矢で攻撃しているが、数名はレイピアのような細い剣で切り結んでいる。そして、所々魔法による爆発が起こっていた。

 技量は人の方が上で、エルフは次々と斬り伏せられていった。


「惰弱なイレブンめ」


 と人が残酷な笑みを浮かべて言うと、エルフの女性が怒ったように言い返す。


「私たちはイレブンじゃない!エルフだ!」


 その意味が分からず、俺はアルに訊ねた。


「なんでエルフがイレブンなんだ?」

「人間の神話だと、神が最初に作ったのは人間で、その後色々な種族を作ったモビ。エルフは11番目に作られたことになっているモビ。で、最初に作られた方が優秀だっていうことらしいモビ。因みに、アルミラージは7番目に作られた特別な種族で、ウルトラセブンって呼ばれているモビ」

「最後が無ければ信じていたよ」


 ちなみに、ドイツ語で11はエルフなのだが、これは妖精のエルフとは別物である。エルフはアルフと同じで古代ノルド語のアールヴ、異なるものという意味から来ている。エイリアンの所ジョージがアルフなのも、それと同じ由来だ。

 こんな事を言っても、誰も信じてくれなさそうだが。


「これが冒険者ギルドで言っていた奴隷狩りか」

「狩りっていうより戦争みたいね」

「関わりたくないな――――」


 と言ったそばから、人の中に見知った顔を見つける。


「クレスタ!」


 そう、犯罪ギルドのクレスタがいたのだ。

 となれば、人の方が悪なのは確定だ。


【マグネシウム爆発】


 俺は直ぐにスキルを使う。人の集団の中心で爆発が起こり、そちらは大混乱に陥る。



「また、貴様らか!」


 クレスタは憎々しそうにこちらを見たが、形勢不利を悟って逃げ出した。

 殺せなかったのは残念だな。

 そして、エルフも想定外の爆発に、一瞬攻撃の手が止まった。


「貴様ら、何者だ!?」


 と、どちらの陣営からも訊ねられる。


「通りすがりの冒険者。ただし、犯罪ギルドの構成員を見つけたから攻撃したまでのこと。そして、貴様らもその一味ということだな」

「違う。我らは領軍である」

「そうか、それなら見逃してやる。すぐに消えろ」


 俺に言われて連中はすごすごと引き上げていく。クレスタが逃げ出すような相手と認識されたんだろうな。

 さて、これで一件落着。

 と思ったら、エルフの皆さんが、こちらに向かって矢をつがえているじゃないですか。


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