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第4話 長期在庫

 アルミラージのアルの食事が終われば、今度は人間様の番だ。ネットストアから食材と調味料を調達して、それを同じく調達したフライパンで調理する。

 まあ、調理といっても肉を焼いて塩コショウで味付けしただけのものだが。カセットコンロも調達したのだが、これはアルからもらった金貨のお陰である。

 それがなければ、スキルはあっても調達が出来なかったはずだ。

 そんな調理作業を見ていたデーボが顔を近づけてくる。


「旨そうな匂いじゃな。それに、使っているのは魔道具の類か?」

「魔道具ってあるんだ」


 やっぱりファンタジー世界なんだなと感動する。いつかはそんな魔道具も見てみたいぞ。


「まあ、とても高価で中々お目にかかれんがのう」


 なんだ、ちょっとがっかり。上がったテンションが下がったぞ。

 まあ、それはそれとして肉を焼き終わると、匂いにつられた同乗者たちも寄ってきた。みんな、話しかけるのをためらって見ているだけだが。

 そんな空気の中、子供が口火を切る。やはり、子供はこうしたことに遠慮がない。

 そんな遠慮のないのは、見た目8歳くらいの少女だ。


「お肉食べたい」

「いいよ」


 俺は肉を一切れその女の子に差し出す。自分の持っている皿でも持ってくるのかと思ったら、少女はそのまま手づかみをした。


「あつっ」


 と言いながらも、落下させることなく口の中に放り込んだ。


「美味しい」

「それは良かった。コショウを使っているから、子供には刺激が強いかと思ったが」

「コショウ!?」


 俺の言葉に両親が驚く。


「ええ。コショウですが、何か?」


 宗教的な禁忌だとしたら申し訳ないことをしたと思ったが、次の言葉でそれが勘違いであるとわかる。


「そんな高価なものですと、お金をお支払いすることが出来ません」

「あー」


 俺は納得した。地球でも昔はコショウと金が等価だった時代があったとか。この国でもコショウは貴重なのだ。一応そのことをデーボに確認する。


「デーボ、ひょっとしてコショウはとても貴重なのか?」

「もちろんじゃ。庶民の口に入ることなんてありゃせんぞ。王侯貴族や豪商だけが口にできるんじゃ」


 うーん、やはりそうだったか。それがネットストアだと一瓶1,000円くらいで買えるんだよな。銀貨2枚程度のお値段だ。乗合馬車で隣町まで移動するよりも安い。

 まあ、これが商売の基本なんだろうけど。安く仕入れて高く買ってくれるところに持っていく。俺の場合は仕入れにかかる手間なんぞないので、ぶっちゃけこれだけで生きていける。

 そんなことを考えていると、デーボがさらに付け加える。


「コショウと一緒に使っていた白い粉はなんじゃ?」

「塩だけど」

「塩じゃと!?あんな白い塩なんぞ見たことないぞ」


 確か、中世ころだと塩を作った時に不純物が混ざるから、真っ白ってわけじゃなかったとかなんとか。それとも、ピンク岩塩が蔓延している世界なのか?


「これは忠告じゃが、あんまり見せびらかさんようにした方がええ。力づくで奪おうとするヤカラがでてくるかもしれんからの」

「忠告ありがとう。でも、買ったやつを仕舞うのもなあ」


 袋を購入して入れてもいいのだが、簡単に盗られてしまいそうだ。

 俺が悩んでいるとアルがアドバイスをくれる。


「スキルで収納すればいいモビ」

「モビ?」


 アドバイスよりも聞きなれない語尾が気になった。


「小さくなったことでマスコット的な位置を確立するため、一人称を僕にして、語尾にモビをつけることにしたモビ!」

「あざとい」

「心の声が漏れてるモビ」


 アルの言った理由に、つい心の声が漏れてしまったようだ。いかんな。

 それに、こいつはどんなに可愛い言葉を使ったところで、一国を滅ぼす力を持った危険な存在である。それを忘れてはならない。


「大いに油断していいモビ。僕は心を入れ替えたモビ」

「そういうことにしておこうか。それで、スキルってなんだ?」


 気持ちを切り替えて、スキルのことを訊く。


「不良にまつわるエトセトラは、今まで経験した不良をスキルとして使えるモビ。アイテムボックスは使えなくても、長期在庫としては使えるモビ」

「長期在庫かあ」


 俺は感心半分、呆れ半分となる。

 長期在庫とは長期間保管している製品、もしくはそれによって不良となった製品のことである。過去の事例では、製品に貼ってあるシールが、夏場の倉庫に長期間保管していたせいで、粘着力を失って、はがれてしまったというのがあった。

 アイテムボックスだと格納した時から時間が止まるのがふつうらしいが、長期在庫は格納後も時間が経過する。

 食品などならば腐ってしまうということだ。


「時間が経過するっていうのは、何も悪いことばかりじゃないモビ。たとえば、ジュラルミンだったら時効硬化がちゃんと発生するモビ」

「それはそれで悪くもないか」


 ジュラルミンに限ったことではないが、時効硬化というものが存在する。時間とともに金属の硬さが増すという現象だ。これを考慮して、生産後にひと月倉庫で眠らせる製品もある。これが時間経過のないアイテムボックスだったら、いつまでたっても時効硬化など起きない。

 だから、悪いことばかりではないのだ。それでも、錆や腐敗するのは何とかしたいところだが。

 試しに長期在庫と唱えると、調達したコショウや塩、カセットコンロなどを格納することが出来た。

 なんとなくだが、不良にまつわるエトセトラの使い方がわかったぞ。


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