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第38話 少年

 クレスタと闇夜の鴉を撃退した俺たちは、ハーディたちの帰りを待っていた。しかし、三日経っても戻ってこない。もう三日目の夕暮れであり、これは何かあったのかと、不安が広がる。


「ハーディたちが戻ってこないが、明日の朝までに来ないようなら、もう待つのはやめて領地に入るか?」


 俺が問うと、パサートは姉を見た。

 領地に戻れば当主になるのだから、こうした状況での判断は自分で下せるようにならないとまずいんじゃないか。パサートを見ていると心配になる。

 サニーもそう感じたのか、普段よりもキツイ口調でパサートに話しかけた。


「パサート、もう自分で判断なさい」

「姉様、それは」

「それはではありません。もう、ここから領地に戻ればあなたが当主なのです。これからこうした難しい判断をする場面が何度も来ることでしょう。そのたびに、貴方は私に判断を求めるのですか?」


 サニーに言われて涙目になるパサート。その表情を見ていると、守ってあげなくてはという気持ちにさせられる。保護欲を掻き立てる顔だ。

 パサートは少し考えて、俺に質問してきた。


「アルト、ハーディたちはどうなっていると思いますか?いくつかの可能性があると思いますので、それを教えてください」


 単に判断を求めるのではなく、情報、状況を確認しようということか。それならば。


「まずは、敵に捕まっているということ。それで、こちらの居場所をはいていれば、すでに敵の動きがあるはずだけど、それがない。だから、白状していないか、言えない状況になっているかだな。あとは、追われているから、こちらに逃げて来られないってこと。まあ、なんにせよ戻ってくるという約束が守られていない以上は、予定外の事がおこったってことだな」


 他にも裏切った可能性もあるのだが、それについては言わないでおく。

 俺の意見が終わると、サクラが口を開いた。


「ここで待っていても状況は変わらないわ。選択肢は三つ。このまま進むか、誰かを新たに偵察に送り込むか、戻るか。居場所が相手に知られたとしたら、ここにいるのは危険よ」


 サクラの提示した選択肢を聞いて、パサートは考え込む。その際、何度かこちらをちらちらと見てきた。

 意見が欲しいのか?と思ったが、ちょっと違う気もする。

 気になるので訊いてみようとしたら、向こうが先に口を開いた。


「僕はみんなを危険に晒す決断は出来ません。だけど、僕が領地に行かないと終わらないこともわかっています。どうしたら……」


 泣きそうな顔でそう言われると、決断しろと言い出せない。

 だから、優しく語り掛ける。


「何があっても俺が守ってやるから大丈夫だ」

「本当に?今までの相手よりも強いのがいたとしても?」

「勿論だ。それに、今までの相手にはすべて勝っているから、それより強くても俺より弱いってこともあるだろう」


 サクラとデーボも俺の意見に合わせて頷く。

 アルも気を利かせて、パサートの肩に乗ると、頬擦りをして見せた。それがくすぐったかったのか、パサートは笑う。


「わかりました。危険かもしれませんが、明日領地に行きましょう。そこで僕が領主となる宣言をします」


 パサートはそう言った。そのすぐ後で


「アルト、ちょっとふたりで話したいことがあるんですけど」


 と誘ってきた。


「わかった」


 俺はその誘いを受ける。

 アルはパサートの肩に乗ったままだが、一人とカウントされていないらしく、そのままにされていた。

 他のものたちは気をつかって離れていく。

 パサートは俺の顔を見てから話し始める。


「昨日、夢を見ました。夢の中では青い空を自由に歩いていたのだけど、夢から覚めたら飛べなくなっているどころか、自分の領地すら自由にあるけない現実です。今も、夕焼け空があんなに遠い」


 話しかけられるというより、独白に近い。


「さっきも、自分で判断することが出来ませんでした。でも、大人になると自分で判断しなければならないのですよね」

「そうだな。もう、保護者に頼らない、頼れないのが大人だからな」

「だとしたら、僕はいつごろ大人になれるのでしょうか?」


 そう訊かれて答えに窮する。


「単に年齢でいえば、子供を作ることが出来るようになれば大人かもしれないが、判断を出来るようになるというのが大人の条件だとしたら、今さっき大人になったってことじゃないかな。最後は自分で判断したじゃないか」

「そうですか」


 パサートは頷くと黙った。

 しばしの黙考の後、再び口を開く。


「僕はどうして大人になるんでしょうか?子供のまま、父や姉とずっと暮らしていたかったのに」

「どうしてと言われると、誰もが子供のままでは世界が回らないからだな。大人になって自分の子供が大人になれるように育てるのが、親としての役割だから」


 子供を持ったことのない俺が言っても説得力はないが。


「楽しい子供時代が終わるのは少し悲しいですが、それもしかたないですよね。明日、僕の判断で誰かが死んだり傷ついたりしたら、それも僕の責任として受け止められるでしょうか」


 パサートの頬に光るものが見えた。

 俺がそれを見ていることに気が付いたパサートは、急に空を見上げる。


「もう星が見え始めましたね。瞬きするたびに形を変えてキラキラ光ってます」

「綺麗だな」

「アルトのいた世界も、あの星のどれかなのかな」

「どうだろうなあ」


 魔法があるってのが、同じ宇宙だとは思えない。まあ、それでも宇宙は広いから、同じ宇宙にこんな星があるのかもしれないけど。

 二人して空を眺めていると、アルがパサートの頬をぺろりと舐めた。

 そして、俺の肩へと飛び移る。


「アルえもん、アルトのリト――――」

「40ヘルツの振動で擦れて黒くなったA3003-Oをあげるので、少し黙っててもらえるかな」

「モビ」


 アルは俺の差し出した黒ずんだアルミパイプをかじり始めて、それ以降しゃべることはなかった。


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