第36話 決着
前回のあらすじ
シェーンっぽい会話をするサンタナ姉弟。からの、アルトとアルの遥かなる山の呼び声みたいな黄色いハンカチの話。そこから、幸福の黄色いハンカチのファミリアにつながり、ファミリアに関係するエスコートとレーザーの名前のキャラが登場。最初の段階ではシェーンのスターレットとの関係で、ファミリアとスターレットを間違うボケが入っていたけど、脱線甚だしいので削除。レーザーブロードは宇宙刑事がやりたかったのではなく、姉妹車のレーザーがあったから、たまたまそのネタになっただけ。たぶん書かないと誰にも気づかれないので、ここで。
魔法が付与され銀色に輝く鎧は、不思議と体にフィットした。動きが邪魔になるようなことはなく、重さも感じられない。
「冷酷非情なナイフ使いの殺し屋。しかし、その腕前はナカツじゃ二番目だ」
俺の挑発に眉毛がピクリと動くクレスタ。
「じゃあ、一番は誰なんだ!」
そう訊かれると、俺は口笛を吹き人差し指を一本だけ立てると舌打ちしながら左右に振った。そして、今度は親指だけを立てて自分を指す。
「それが口だけかどうか、試させてもらおう!」
クレスタの足が動く。普段なら目でとらえられないであろう速度ではあるが、今の俺にはそれがはっきりと見えていた。
そして、奴の手に持っているナイフは、俺の鎧の関節部を正確に狙ってきていることも。
あと少しで、そのナイフが刺さろうかという時、俺の手に持っているレーザーブロード(ソード)がそれを弾いた。
「なにっ!?」
クレスタが驚きの表情を見せた。
今の一撃に相当な自信を持っていたのだろう。それもそうか。なにせ闇夜の鴉の首領すら一撃で倒す実力なのだ。俺程度大したことないと踏んでいたのだろう。
ところがどっこい、魔法の鎧のお陰で俺の身体能力もかなりアップしている。今の一撃すら、見てから動いて防げるのだ。
【インフレーター破裂】
俺はスキルを使う。空中にエアバッグのインフレーターが出現する。世界的なリコールとなったあのエアバッグの異常破裂不良のスキルだ。鉄パイプの底部にある火薬が爆発し、破片を射出する。その威力、実に60MPa。死者も出ている不良だ。直撃すれば、クレスタとて無事では済まないだろう。
しかし、そんな破片をクレスタはナイフで受け止めた。
「普通の相手なら十分だが、この俺にはこんなもの通じぬぞ」
【インフレーター破裂試験】
俺はさらにスキルを使う。再びインフレーターが出現し、底部が爆発して破片を飛ばす。
「通じぬと言ったはず」
クレスタは今回も先ほどと同じように、ナイフで破片を受け止めようとする。
だが、今回は破片が当たった瞬間にナイフが砕けた。そして、破片はそのままクレスタの右肩に命中した。
「威力が違うだと!?」
「そうだ。先ほどの威力は60MPaだったが、今回は250MPaだ。そんなナイフじゃ止められはしない」
インフレーターの破壊試験で、パイプに掛ける圧力は各社基準があるだろう。そして、今回の不良は25000kPaをメガに変換するときに、読み間違えて設定したことによる破裂事故の経験からくるスキルだ。実験用の容器の壁に、破裂したインフレーターの破片が突き刺さっていたのを見たとき、死ななくてよかったと思えた。
こいつをいきなり使って避けられるとまずいので、先に威力の弱い方を使って、油断させたのが見事に成功した。
【インフレーター破裂試験】×200
スキルを多重発動させる。200個のインフレーターが出現し、その先端をクレスタに向けた。そして、底部が一斉に爆発する。
が、クレスタの姿は消え、破片はクレスタのいた場所を通過しただけだった。
「また逃げられたモビ」
「まあ仕方がないか」
俺は周囲を警戒しつつ、サンタナ姉弟のところへと移動する。そこで魔法鎧は消えて、元の姿に戻った。
「よくぞ御無事で」
サニーが俺のところに駆け寄ってくる。その体を俺は受け止めた。
「二人が同時に襲い掛かってきていたら危なかったでしょう。連中が敵対してくれて助かりました」
ちょっといい雰囲気になる。サニーの匂いが鼻孔をくすぐり、ずっとこのままでいたいと思った。それを邪魔したのはデーボだ。
「ああ、エスコートが動いたぞい」
「生きていたのか」
俺は咄嗟にサニーを背中に庇う。そして、エスコートの方を向いた。
そこに見えた姿は、弱々しい生まれたての子鹿が震えながら立つようなものだった。とても攻撃できるようには見えない。
「レーザーのブロードソードに……そんな魔法が付与されていたとは……な。それを使えていれば……」
言葉も時々途切れる。
どうやら、死んだふりをしてクレスタがやられるのを見ていたようだな。こちらに攻撃してくる気配はないが、警戒を緩めるつもりはない。
「今はそれをあずけておこう」
そういうと、エスコートの姿は消えた。
「これも、例の古代魔法王国時代のマジックアイテムか?」
「そうモビ」
アルに訊ねると、肯定された。古代魔法王国時代のロストテクノロジーで作られたマジックアイテムなのに、そんなにぽんぽん使えるほどあるのなら、俺にも一個くらい回ってきてもいいよな。そのうちどこかで入手できないものだろうか。
まあ、なんにしても危機は去った。安堵のため息が出る。
「ふう、あきれちまうぜ、悪って奴は。倒して倒して倒しても終わらないぜ」
「アルト!」
俺のところにパサートが駆け寄ってくる。
「さっきの鎧を着たのはどうやって?」
「なんか、あいつから奪ったブロードソードがマジックアイテムで、魔法の鎧が出てくるらしいな。そうだ、パサート様にこのブロードソードをプレゼントしましょう。そうすれば、俺がいないときに襲われても安心だ」
「でも、これがないとアルトが危ないんじゃ」
「心配するなよ。追い詰められてもそのたび俺は強くなるから」
そう言ってパサートの頭に手を置く。
「そうだ、変身してみようか」
「どうやって?」
わくわくした顔で俺を見てくるパサート。こういうところは、子供だ。
「ブロードソードに魔力を流せば、あとは自然と変身の言葉が出てくる」
「やってみるよ」
パサートはそういうと、ブロードソードを手に取った。
「愛着!」
「ええええ」
俺の時とは違うが、魔法の鎧が出現し、それがパサートに体を包む。
「出来た。すごい、体が軽い」
「アルトの場合は、他に土着、瞞着、粘着、不時着があるモビ」
「うるせーよ」
嬉しそうに体を動かすパサートを横目に、俺はアルに怒鳴った。