表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/50

第33話 天地無用

「そんなわけで、坊やを助けたければ私に保護させるのが一番、いや、これがたった一つのさえたやり方よ」


 聖女であるソアラは力強く言った。

 しかし、俺はそれに賛成は出来ない。なにせ、こいつの目的は可愛い男の子たちを集めることだ。パサートが何をされるかわかったものじゃない。いや、わかっているか。


「本人の意志も含めて確認しなければならないだろう」

「そう。でも、国王の狙いを知らされれば、仮に正式に領地を継承した後も命を狙われるでしょうね」

「なんだよそれ。じゃあ、俺はいいのかよ」

「あんたは元々排除しようとして狙われているからいいの」


 言われてみればその通りか。俺は知らなかったとしても、命を狙われる運命だ。


「命の保証があったとしても、お前の目的を知ってしまうとなあ」

「じゃあいいわ。私が直接聞くから」


 ソアラは俺たちに背を向けると、みんなが待っている方へと歩いて行った。

 俺は慌ててそれを追いかける。

 ソアラはパサートの前に立つと、値踏みするように彼を上から下へと見る。

 見られる立場のパサートは緊張していた。

 値踏みが終わるとソアラがフフフフフと笑う。


「この、聖女豊田ソアラが名付け親になってあげるわ。そうね、メキシコに吹く熱風という意味の『サンタナ』というのはどうかしら」

「だから、そういう名前だろう」


 俺は後ろからつっこんだ。

 やれやれだぜ。

 パサートが意味が分からず固まっているのが見える。なんとかして毒牙から守ってやらないと。

 そう思ったとき、騎士団に動きがあった。


「サイクロプスを発見!」


 そう、サイクロプスがまた出たのだ。


「やっぱり複数いたモビ」

「またあれをやるのか」


 と思っていると、俺より先にソアラが動いた。

 まるでドイツ兵の敬礼のように右手を伸ばすソアラ。


「我がトヨタの支援魔法はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ」

「おおシュトロハイム」


 俺が呟くと、彼女がそれに反応した。


「誰が天地無用よ。聖属性魔法の詠唱がこれだから仕方がないじゃない!」


 その言葉に戦慄する。俺のセリフはついでにとんちんかんの天地無用がシュトロハイムの真似をしたときに、抜作先生が言ったセリフだからだ。それを見抜かれるとは。

 そこに更なる聖女の言葉が来た。


「お前の次のセリフは『まさかこの女、ついでにとんちんかんを知っているのか』…という」

「まさかこの女、ついでにとんちんかんを知っているのか」


 見事にセリフを当てられた。


「本当に19歳か?」

「そうよ」

「2025年に19歳でついでにとんちんかんを知っている、いや、それだけではなく細かいところまで読んでいる奴が、世界に何人いると思っているんだ」


 俺の言葉に対し、聖女が馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「たとえ、その存在の可能性が微粒子レベルだったとしても、あるならばあるということよ」

「ぐっ」


 そう言われては黙るしかなかった。

 不良発生の可能性が6σ以下だったとしても、不良が出るときは出るのだ。散々経験してきたことだ。

 製造業では不良の確率にσを使う。6σは不良率が約0.00034%であり、百万個生産した時に3.4個の不良が出るという計算である。

 そんな工程を作ったとしても、不良が出るときは出てしまう。しょせんは確率であり、絶対に大丈夫というようなものではないのだ。

 その経験があるからこそ、聖女の言葉には反論が出来なかった。

 俺が黙っていると、彼女は背を向ける。

 その視線の先にはローゼンリッターとサイクロプスがいる。支援魔法で底上げされたローゼンリッターはサイクロプスを圧倒し、あっという間に倒してしまった。

 が、無傷というわけにはいかない。

 数名がサイクロプスの攻撃で怪我をしていた。

 そこで聖女がまた魔法を使う。


「我がトヨタの回復魔法はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ」


 すると、光が怪我した騎士を包み、傷が回復した。

 そして、何故か勝ち誇ったようにこちらを見てくる。

 その態度にイラっと来た。


「ゆるせねえ!美人なだけになおさら怒りがこみあげるぜ!」

「あんたのことなんてどうでもいいの。さあ、そこのぼうやを私に託しなさい」


 聖女が手を差し伸べる仕草をする。俺はパサートを背中に隠すように、その前に立ちはだかった。


「アルト、どうしたの?」


 事情が分からないパサートが訊いてくる。顔は見えないが、不安そうな雰囲気が伝わってくる。


「パサート様、詳しくは言えないが、今が貴方の人生の大きな分岐点だ。命の保証があるだけの生活か、危険に晒されるが自由か。どちらかを選ぶっていうな」

「アルトは、どっちを選べばいいと思うの?」

「俺にはそれを選ぶ権利はない。他人の人生に責任を負えないから」

「どっちを選べばいいのかわからないよ」


 パサートはそう答えた。

 聖女はパサートを誘う。


「私と一緒に楽園で暮らしましょう」

「パサート、それは家畜の安寧だ。それだけは言える」


 俺がそう言うと、聖女はクスクスと笑った。


「私の誘いは地に墜ちた鳥が待ちわびる風。毎日私とともに神に祈り、不安の無い暮らしがそこにあるというのに」

「祈ったところで何も変わらない。不本意な現状を変えるのは戦う覚悟だ」


 俺は聖女の言葉を否定する。

 その時、騎士たちが再びざわめいた。


「巨人だ!巨人が何体も進撃してくる」


 見ればサイクロプスが三体こちらに向かってきていた。

 そういえば、アルがサイクロプスは一匹いたら、五十匹いると思えって言ってたな。

 騎士たちはすぐに迎撃態勢を取る。聖女もそちらの支援をしなければならなくなり、俺の前から去っていった。


「俺たちは今のうちに逃げよう」


 聖女がサイクロプスの相手で手を放せないのをいいことに、その場から逃げ出すことに成功した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ