第32話 あのこをペットにしたくって
「さて、残るは二人か」
俺は残った二人の闇夜の鴉を見た。と、同時にマグネシウム爆発を使う。
二人がいた場所から爆音と閃光が発生した。
「いきなり攻撃とは、恐れイリヤの騎士ボジン、モビ」
「えっと、こっちにもそんな言葉があるのか」
「あるモビ。外国の宗教の神話モビが、ボジンっていうたいそう腕っぷしが強い暴れん坊がいたモビ。それがイリヤって神様に諭されて真面目になって、イリヤを守る騎士になったっていう神話があるモビ。それと恐れいったっていうのを掛けた洒落モビ。国によっては神殿にイリヤと一緒にボジンが祀られているモビ」
「騙してない?」
「本当モビ」
俺たちが会話をしていると、デーボが割って入ってきた。
「一人、まだ動いておるぞい」
言われてそちらをみれば、アトレーが腕がもげながらもこちらを距離を取って、応急処置をしているところだった。
すごい形相で睨んでいる。
「やはり、貴様は危険人物のようだな。いずれ、排除させてもらう」
そう言うと、姿を消した。
「あれもマジックアイテムか?」
「そうモビ」
「やれやれ、連中の狙いは俺か。これは早いところサンタナ領に行って、そこから国境を目指さないとな」
俺はそう言ってサニーを見た。
なんとなくだが、サニーとはいい雰囲気な気がする。美人の彼女に脈があるなら交際を申し込みたいところだが、国から狙われる身ではそうもいかないか。
俺がサニーを見ていると、その隣のパサートが不安そうに俺を見る。
「アルト、国を出るの?」
「そうだな。この国の王朝が変わらない限り、俺は狙われ続けるだろうからな。それに、みんなを巻き込む可能性もある」
「僕は、ずっとアルトと一緒にいたい」
パサートが必死の形相でせがんできた。サニーも
「ずっと、我が家にいてくれたよいのですけど」
などと言ってくれる。ありがたい申し出だが、やはり国との関係がなあ。
「では、そろそろまいりましょうか」
ハーディに促され、会話をやめて進もうとしたとき、こんどは金属鎧に身を固めた一団と遭遇する。ゲームに出てくる重騎士みたいな連中だ。見れば、彼らが持つ大盾にはバラの紋章が描いてある。
「ローゼンリッター!?」
サクラが驚きの声をあげる。
「知っているのか?」
「ええ。王国にある騎士団の一つよ。私も騎士を目指す者。いつかはあのバラの盾を持ちたいと思っているわ」
「へえ」
古代魔法王国時代の容量の単位と同じ名前なんだけど、そこは触れないでおこうと思った。
それと、ローゼンリッターなのに武器はハルバードではなく、ロングソードを持っている。お前ら、本当にローゼンリッターなのか?いや、その理屈ならゼッフル粒子も装備していなければならないのか。
俺がローゼンリッターをみていると、その中に見たことのある顔があった。
この世界で見たことがあるなんてのは、殆どないが、召喚された初日に隣にいたのでよく覚えている。聖女だ。
向こうもこちらに気づいたようだ。話しかけてきた。
「あら、まだ生きていたの」
随分な言われようである。
「生憎とな。ついさっき、闇夜の鴉とやらを追い払ったところだ」
俺の言葉にローゼンリッターからどよめきが起こる。
「あの、闇夜の鴉をか」
「すると、あれがサンタナ子爵」
などと聞こえてくる。
「そう、あんたと一緒にいるあの男の子がサンタナ子爵ね。私好み。間に合ったということかしら」
聖女の目が、何となく獲物を見つけた蛇か猛禽類のそれに見えた。
「間に合ったとは?」
「そうね、それは二人で話し合いましょうか」
聖女はあごで俺を促す。
慌てて騎士の一人がよってきた。
「聖女様、そんな男と一緒では危険です」
「危険ではありません。能力が無く、不要とされた者に私が劣るとでも?」
「しかし」
「これから二人で話すことは、あなた方の権限を越えること。それを知りたいというのですか?」
聖女にそういわれると、騎士はしぶしぶ下がった。
俺はアルを抱きかかえ、聖女と二人で少し離れたところに移動した。
サクラやサニーが心配そうにこちらを見ている。
「で、どんな用だ?」
「この国はやばいわ。私たちを召喚するために、三千人を生贄にしているの。それだけでは足りずに、追加で召喚しようとしているのよ。その理由は魔王軍だけではなく、他の人間の国にも戦争を仕掛けようとしているから」
それを聞いて、なおの事この国から早く出たいと思った。
「やばいのはわかったが、俺には関係ないことだろう」
「ええ。関係あるのはあの子爵の坊やね」
「なんでだ?」
「あの子を叔父が暗殺しようとしていることは、国王も把握しているわ。で、暗殺が成功したら、その罪で叔父を断罪し、領地を没収するつもりなの。そして、そこの領民を召喚の生贄にしようとしているのよ。流石に、他の領地を持っている貴族から無理矢理っていうのは出来ないし、直轄領の住民を生贄にすれば、自分のところの収入が減るから」
「そういうことか」
「そうよ。で、闇夜の鴉は坊やを暗殺するために送り込まれたの。誰が殺したって、罪は叔父にかぶせるつもりだから」
「狙いは俺じゃなかったのか」
俺はパサートに申し訳ないと思いつつも、若干安堵した。
しかし、その安堵もすぐに終わる。
「いえ、あんたも対象よ。追い出したはいいけど、どんな能力を持っているかを把握していなかったから。万が一有効な能力を持っていて、他国にでも渡られたら厄介じゃない」
やっぱり俺も対象か。がっかりだ。
俺はため息をつきながらローゼンリッターを指さす。
「あれも俺たちを殺すために連れて来たのか?」
その質問に聖女は首を横に振る。
「違うわよ。サイクロプスとかいう災害級のモンスターが出たらしいから、その討伐に来たってわけ。私は彼らの回復役よ」
「そうか、それなら俺が倒した」
「へえ。やるじゃない。やっぱりすごい能力を持っていたのね」
「どうかな」
まさか、不良の経験があるものしか使えないスキルだとは言いにくい。
「しかし、よくそんな国王の事情なんか知っているな」
「私相手にはよく喋るのよ」
「まさか、愛人になったとか?」
俺が訊くと、彼女はすごく嫌そうな感じで、眉間にしわを寄せた。
「まさか。あんなのの愛人になるくらいなら、飛び降りて死んだ方がマシよ。私の回復魔法を使ってあげる条件として、情報の提供をお願いしたのよ。あと、あの子爵の坊やの身柄もね」
「暗殺するって言ってなかった?」
「死んだという情報だけが必要なの。死んだことにして私が飼っていてもいいわけ」
飼う?
なんか変な言葉が聞こえたが。
「飼うって言った?」
「そう。私の夢は可愛い男の子たちをペットとして飼うことよ。この国に豊田ソアラのペットの楽園『トヨペット』を作りたいの」
「その楽園の名称はやめておけ」
「何でよ」
「色々と問題があるだろーが!」
「じゃあ、ネバーランドで妥協するわ」
「どこから怒られるんだろうな」
俺は会話につかれた。そして、この聖女はやばいと気づいた。
「しかし、そんな楽園作ったら捕まるだろう」
「いいえ。この国には悪法である児童保護法も青少年保護育成条例もないわ。まさしく、どこかにあるユートピア。愛の国巌娜亜羅」
「なんだその皇帝である玄武帝に追放された拳法の総本山みたいな名前は。というか、法律が無くても倫理的にダメだろう」
呆れてものが言えないとはこのことだが、俺の指摘に聖女はキレた。
「うるさいわね。あんたなんなの、学校の先生?私の親?」
「いや、品管だけど」
「でしょ。関係ないのよ。あんまりうるさいこと言っていると、あの騎士団を使って、そこの兎と交尾させるわよ」
「やめてくれ。そんなことをされたらアルミラージファッカーとして一生十字架を背負ってしまう!!!」
うん、ソアラだ。