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第30話 栄養ドリンク

 どうすればと焦るが、こういう時こそ基本に立ち返るべきだと気が付いた。


「三現主義を忘れていたよ」

「モビ?」

「現場・現物を見て現実を知り、その上で問題を解決しようってことさ」


 俺はサクラを測定した。


サクラ

年齢:20

職業:剣士

レベル:12

状態:毒

体力:556(-550)

魔力:10(-9)

攻撃力:235(-220)

防御力:156(-150)


 マイナスは毒による減少の値か。かなりひどいな。

 こいつをなんとかしないとならない。しかし、マジックアイテムは手助けを許してはくれない。どうすれば。

 マイナス表示を消す方法があれば。


「あ、そうだ!」


 俺は開始前にサクラに栄養ドリンクを渡したのを思い出した。

 あれなら栄養ドリンクによるバフが毒によるデバフを打ち消してくれるのではないだろうか。

 あれは24時間戦うためのものだ。

 黄色と赤は不良のしるし、24時間以内に報告書。アタッシュケースに対策品を入れて世界で戦えますよ。対策品に希望を乗せて、武漢・メキシコ・タイ・インドネシア。アゲイン、アゲイン、対策品から同じ不良がアゲインだ。朝焼けそらに苦笑いはした。ルールを無視した加工の進め方、私には許せませんが、そうでもしないと出荷が出来ないのが問題だ。

 あれ、なんかCMで流れていた歌とちょっと違うか。

 いや、今はそんなことはいい。


「サクラ、さっき渡した奴を飲め」

「わかった……」


 サクラはなんとか動く指で栄養ドリンクのキャップを開けると、一気に飲み込んだ。


サクラ

年齢:20

職業:剣士

レベル:12

状態:毒

体力:556(+850)

魔力:10(+890)

攻撃力:235(+920)

防御力:156(+750)


 再び測定したサクラのステータスがとんでもないことになっている。24時間どころか、365日でも戦えそうな感じだ。そんなことをしたら、労基との戦いになるだろうけど。


「力が漲ってくる。なんか、戦い始める前よりも調子がいいわ」

「だろうな。今ならエンシェントドラゴンでも、素手で殴り殺せると思うよ」

「そんな気がするわ」


 サクラは手の動きを確認するため、握って開いてを繰り返す。数回やったのちに、足元の小石を拾い上げると、それを握りつぶした。


「常人では30%しか引き出せない潜在能力を100%引き出したような力強さだな」

「伝説の、デンジャラス・呼吸法・オブ・転龍モビね」


 俺の独り言にアルがのってきた。

 なんだその、一子相伝の暗殺拳のようでもあり、プロレス技でもあるみたいな名前は。

 名前からして呼吸法なんだろうけど。ケンシロウなのか、ゲンイチロウなのかはっきりしろ。


「そんなのがあるのか?」

「あるモビ。人間の潜在能力を引き出す代わりに、体がその力に耐えられないことが多いという、危険な呼吸法モビ」


 なんか、色々と言いたいことはあるが、脱線しそうなので無視してサクラを応援する。


「サクラ、次にもう一撃くらうとやばいぞ。ダメージを回復する薬とは違うからな」

「わかったわ」


 サクラの見る先にはタフトが苦虫を嚙み潰したような顔をして立っていた。その後、視線だけで人を殺しそうな厳しい目つきでサクラを睨む。


「毒の効果が消えたとはいえ、俺の秘儀は防げまい。この秘儀はこちらの体にもダメージが出るから使いたくはなかったが、そうも言ってられないようだ。こいつで終わりにしてやる」


 そう宣言したタフトは、鉄球を高く放り投げた。


「くらえ、『覇道球』!!!」


 ラケットを両手で持ち、落下してくる鉄球を打つ。今までには無かった威力なのは、見ているだけでわかる。というか、早すぎて見えない。

 だが、次の瞬間タフトの腹から何かが背中にかけて飛び出した。


「秘儀『覇道球』をあの若さで極めるだけでもたいしたものモビ。だけど、サクラはそれを難なく打ち返したモビ」


 見えていたアルが解説してくれた。


「『覇道球』?」

「体内に宿る精霊エナジーを両腕に集中させ、打球の威力を増す技モビ。精霊のバランスが崩れるから、体に良くないのと、エナジーが集中した腕の負担、打撃の反動とかで術者自らも傷つく禁断の秘儀モビ。極めると数が四十八とか百八くらいになるモビ」


 よくわからないが、兎に角危ない秘儀だというのはわかった。サクラはそんなものをよく打ち返せたな。栄養ドリンクの効果恐るべし。

 などと思っていると、四角い磁場が消えた。勝負がついたということか。

 見れば倒れたタフトが血だまりの中にいた。

 俺は戻ってくるサクラに話しかける。


「大丈夫か?骨が折れて肺に刺さったりしてない?」

「今のところ大丈夫よ。むしろ、渡されたポーションの効果が強すぎて、副作用が心配になるわ」

「それは大丈夫だろう。俺も散々飲んできたけど、特に副作用はなかったからな」


 まあ、あんなにステータスがあがるようなことはなかったが、とは言えなかった。

 サクラは気になるのか、今も体のあちこちの動きをチェックしている。

 俺たちがそんなことをしていると、


「タフトの奴め、しくじりおって」


 とタフトにアトレーと呼ばれていた相手から、怒りの混じった声がした。


「奴は毒に頼り、自らの力を向上させることを怠った愚か者。この中では一番の小者、次は私にお任せを」


 そう言ったのは女の声だった。


「失敗は許さんぞ、ミュルザンヌ」

「お任せを」


 恭しく頭を下げた後、顔を覆う布をとると、綺麗な金髪のお姫様みたいな女性の顔が出現した。

 それを見たサクラが動揺する。


「まさか、貴女なの?ミュルザンヌ」

「ええ、久しぶりね、サクラ。まさかこんなかたちで再会することになるとは」


 まさかのサクラの知り合いか。

 ミュルザンヌと呼ばれた女性は片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の膝を軽く曲げた。

 この挨拶、本物を見るのは初めてだな。


「ほう、初めて見るが見事なものだな。ケーティーシーは」

「それは工具モビ。あれはカーテシーって言うモビ」


 俺は恥ずかしさから、海に飛び込みたいと思った。


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