第3話 アルミラージ
俺はとりあえずアルミがあるのかわからないので、それを訊くことにした。
「なあデーボ、この国にアルミはあるのか?」
「アルミか。まあオリハルコンなんかと同じくらい貴重じゃが、あるにはある」
うお、マジか。アルミがオリハルコンと同じ価値とか。じゃあ、このビールの缶だけでひと財産だな。
「これはそのアルミで作った缶だ。それにエールが入っている」
「何!?」
驚くデーボ。
「アルミにエールを入れるとか、王侯貴族でも出来ぬぞ」
「そうか。中身は売るけど、缶は別料金でいい?」
「もちろんじゃ。というか、他の者に狙われるぞ」
高額なものだからしょうがないな。どうしようか。周囲を見れば、他の客たちも俺たちの会話を聞いており、アルミ缶に目が釘付けになっている。
「それに、とんでもないものを呼び寄せることになる」
「とんでもないもの?」
俺がそれを訊こうとしたとき、森の中から■ボドリルくらいの大きさの兎が飛び出してきた。そいつは額に長い角が生えているので、兎と言ってもよいのかはわからないが。
「アルミラージ!?」
兎を見たデーボが驚く。なるほど、こいつはアルミラージというのか。
俺がそいつを見ていると、向こうがしゃべった。
「人間よ、僕にそれを食わせろ」
「これ?」
俺がアルミ缶を指さすと、アルミラージは頷く。
デーボが俺の袖を引っ張る。
「言うとおりにせい。アルミラージはアルミを主食にしておるらしい。まあ、伝説の生き物じゃから本当のところは知らぬが。で、あれがアルミラージなら国ひとつを造作もなく滅ぼす力をもっておる」
「なるほど」
俺はアルミ缶をアルミラージに差し出す。
奴は前足でそれを押さえると、かじり始めた。そして直ぐに食い終わる。
「純度は高いけど、足りないなあ」
「ちょっとまってて。デーボこいつを売るから、代金を」
俺はデーボにビールを売って銀貨を受け取ると、その銀貨を使ってネットストアからA5052の平板を購入した。残っているアルミ缶より、こちらの方がいいだろうという判断だ。そして、それをアルミラージに渡す。
「美味しい。お代わり!」
「もうお金がない」
「お金ならある。昔襲い掛かってきた人間を返り討ちにしたときに手に入れたのが」
俺がそう言うと、アルミラージはどこからか金貨を取り出した。
その金貨をウィンドウに挿入すると、75,000円になる。これならばかなり購入できるな。
「それじゃあどうぞ」
俺は追加で購入して、それをアルミラージに渡した。
「これでもいいけど、さっきの方が美味しかった。黒みがかっている方が美味しい」
アルミの味なんぞわからないが、黒みがかっているというのでなんとなく理由がわかった。アルミメーカーの違いだ。メーカーによって色が違うので、そのことを言っているのだろう。ネットストアではどこのメーカーという指定をしなくても購入できるので、購入するたびに違うメーカーのアルミになるのかな。
まあ、そう言いながらもアルミラージはお代わりを繰り返す。そのたびに金貨を受け取るので、俺のネットストアの購入可能額は1億円を超えた。
「ゲプッ。美味しかったぞ。それにしてもお主、これだけのアルミを所持して僕を満足させるとは中々やるな。お主と契約してやろう」
「契約?」
「従魔になると言っておるのだ」
これはテイマー的なあれか。
「よし、じゃあそうしよう。名前は」
「お主が決めてよいぞ」
「うーん」
少し悩んで決めた。
「アルミラージだからアルにしよう。俺がアルトでその従魔がアル」
「わかった」
「いや、返事は『はいっす』だ。わかったか、アル」
「はいっす」
「ある」
「はいっす」
これなら黒いアルミが好きな理由になるな。いや、まてよ。アルト、アル、そしてデーボ。これだと突飛なスキルで異世界工業飯と思っていたが、あるある冒険隊になっちゃうな。
「主、みんながソードワールドRPGのリプレイ第1部を知っているという前提はおかしいぞ」
「俺の心を読んだ?」
「うん。従魔は主と意思疎通できるから」
「てか、どうしてそんなことを知っているの?」
「長く生きていると異世界からの漂流物を目にすることもあるから」
そういうもんなのね。
「にしてもでかいなあ。明日から馬車で一緒に移動ってわけにもいかないだろう」
「そこは任せて」
そういうとアルは小さくなった。丁度、本物の兎くらいの大きさだ。角は体の縮小よりも小さくなっている。
デーボが言う。
「アルミラージの角は万病に効くというからの。狙う馬鹿な連中もおるじゃろう」
「まあ、一緒に旅をしている人たちには見られているけどね」
そういって視線をそちらに送ると、みんなが目をそらした。関わりたくないということか。まあそれならそれでよし。こうして俺はアルミラージのアルを従魔にして隣町を目指すのだった。
年末、想定以上に忙しくて、書きたいことはたくさんあるけど何も出来てないな