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第28話 血染めのテニスコート

「大丈夫ですか?」


 俺はまだへたりこんだままのサニーに手を差し伸べた。

 彼女は俺の手を取ると笑顔になった。


「ありがとうございます。お強いのですね」

「貴女の護衛ですから、何が来ても守れるくらいには」


 などと、咄嗟に思いついた臭いセリフを言ってみたら、サニーの顔が真っ赤になった。笑われるかと思ったが、意外な反応に俺は戸惑う。

 すかさずガブリエルが


「お嬢様、御身のお立場をお忘れなきよう」


 とくぎを刺した。

 すると、サニーの顔に凛々しさが戻る。


「わかっているわ」


 サニーはそう言うと、スッと立ち上がった。そして、ハーディに訊ねる。


「話が途中になりましたが、領地の方はどうなっているのですか?」

「ミハイルが残って、アレックス殿の勢力拡大を妨害していおりますが、パサート様が戻られぬことには、こちらとしては勢いがつかず」


 熊本弁はどこに行った?

 まあ、それはいいが、どうにも劣勢のようだ。

 神輿として担ぐパサートが地元にいないことで、勢力をまとめるのが難航しているのか。

 それにしても、俺たちに対して刺客を送ってくるような連中だ。そのミハイルとかいう人も襲撃されているんじゃないだろうか?それを訊ねる。


「なあ、そのミハイルって人は大丈夫なのか?敵対すれば命を狙われるだろ」

「ミハイルは元々ヤクトゲヴェールという二つ名で知られた闘士なので、余程のことが無い限りは大丈夫かと」

「それなら、どうして二人の護衛につけなかったんだ?死んだアンディって人よりも強いのか?」


 俺がそう言うと、ハーディは黙ってしまった。

 その様子を見たサクラに叱られる。


「アルト、言い過ぎよ」

「あ、申し訳ない。ただ、そのミハイルって人が殺されていた場合、領地はアレックスって叔父さんに支配されているかもしれないんだろ。そんなところに帰るのは心配だ」


 ちらりとサニーを見ると、彼女は頷いた。


「一族の者たちは、殆どが中立です。どちらかに肩入れしてしまえば、肩入れしていない方が領主となった時に、ひどい扱いを受けるから。パサートに味方が少ないのはそのせい。ここでミハイルが殺されて、叔父が優勢だと見られれば、中立の者たちも叔父になびいてしまうかもしれません」

「しかし、相手がすでにその状態にしているのであれば、急いで帰るのは危険では?」


 俺の懸念にハーディがこたえる。


「われらが先行して帰還し、ミハイルの状況を確認します。そして、お嬢様と連絡を取って、危険が無ければお戻りいただけばよろしいかと」

「そうは問屋が卸さねえ」


 意外なところから否定の言葉が飛んでくる。


「誰だ?」


 これの方を振り向くと、黒装束の四人組がいた。

 俺は急いで、アルを見る。アルが何も言わないってことは、危険が無いからかもしれないからだ。


「アルも気づかないくらい、綺麗に気配を消していたモビ」


 希望はむなしく打ち砕かれた。超危険人物じゃねーか。


「アルミラージに気づかれなかったとは、我らの技術も中々ではないか」


 若い男の声でそう言われた。言葉の端々に自惚れのようなものを感じるぞ。俺はそういう感情には敏感なんだ。


「で、どちらさんで?」

「ナカツ王国特務機関、『闇夜の鴉』」

「闇夜の鴉ですって!?」


 サニーが驚き声をあげた。


「有名なの?」

「国王直属の暗殺機関、よ」


 そう教えてくれたのはサクラだ。

 彼女の雰囲気も重く、言葉に勢いがない。


「闇夜の鴉なんて、注文されても切れないダメな名前じゃないか」

「紙きりの大道芸人と一緒にしない方がいいわ。狙われたら最期、生き延びたって話は聞かないもの」

「へえ。そんな連中がどうしてここに?言い方は悪いが、子爵の弟程度が動かせるような組織だとは思えないけど」

「それはそうね」


 国王直属の暗殺組織が来たとなると、狙いはサンタナ姉弟よりも、俺の方な気がする。

 さて、連中に何しに来たのかを訊いてみるか。


「人違いじゃないか。俺たちがそんな組織に狙われる理由はないが」


 すると、先ほどの若い男の声を出した奴が、俺の質問を無視する様に自分の後ろの奴に訊ねる。


「アトレー様、奴らの始末はこのタフトにお任せを」

「うむ。しかと役割を果たせ」

「はっ」


 なんだか知らんが、相手は一人でかかってくるらしい。

 俺としては誰が狙われているのか知りたいのだが、それには答えてくれないようだ。

 タフトと名乗る男が前に出てくる。


「単に刺し殺すのではつまらぬ。古代魔法王国にて考案された決闘方法、躰仁棲ていにすで戦おうではないか。拒否すれば殺すが」


 そういうと、男の手にテニスラケットのようなものが二つと、足元に鉄球が出現した。


「躰仁棲だとモビ!?」

「知っているのか、アル」

「勿論モビ」


――躰仁棲――


 古代魔法王国では貴族の間で血を見るのは最高の娯楽とされていた。そんな古代魔法王国においてテ・ニス男爵により考案されたのが躰仁棲である。それは、マジックアイテムのラケットで鉄球を打ち合い、相手の体に打ち込んで倒すというものであった。なお、躰仁棲においてノーダメージのことをラブというが、これはテ・ニス男爵の夫人と不倫をしていた男が、夫人と駆け落ちをして捕まった際に、この躰仁棲で夫人との打ち合いをさせられた時、自らは攻撃せずに、夫人がノーダメージだったことに由来する。(ミュンヘハウゼン男爵著『古代魔法王国異聞』より)


「うそくせえ」


 俺はアルの説明を聞いてそう思った。小学生だったら信じているかもしれないが、大人になった今では騙されないぞ。


「信じる信じないは勝手モビ。でも、目の前にあるマジックアイテムは否定できないモビ」

「まあそうだな。しかし、そんな決闘なんてなあ」


 俺が躊躇していると、サクラがその相手を買って出た。


「私がやるわ」



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