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第27話 目的地までは何マイル?

 森の中の街道を行く俺たちの前に二人の男が立ちはだかる。

 といっても、敵意があるようには見えない。一人は白髪交じりの50歳くらい、もう一人は30代後半くらいに見える。


「サンタナ家の馬車とお見受けいたす」


 白髪交じりの方が、そう声を掛けてきた。

 サクラは警戒して、剣の柄に手をやりながらこたえる。


「いかにも。そちらは何者か?」


 そう問われると、二人は頭を下げた。


「よかったばい」


 と、若い方が小声で言ったのが聞こえた。

 なんか、語尾が熊本弁みたいだなと思う。


「サンタナ家の家臣であるハーディと申す。こちらはガブリエル。そちらにサニー様とパサート様はいらっしゃいますでしょうか?」


 俺は御者台から降りて、サニーにハーディとガブリエルと名乗る者が来たと伝える。

 すると、彼女は顔を見たいからと外に出てきた。


「お嬢様!」


 ハーディの方がサニーに声を掛けた。


「ハーディ、それにガブリエルも。どうしました?」

「実は、アレックス殿がサンタナ家の実権を握ろうと画策しており、このまま領に戻られるとまずいかと思ってお伝えに来ました。アンディや他の者の姿が見えませぬが」

「アンディや他の者たちは、雇った護衛とともに襲撃者から私たちを守って死にました」

「なんと!」


 サニーの説明に驚く二人。

 アンディというのは死んだ御者だったかな。たしか、一度聞いた気がする。

 サニーと二人の態度からして、こちらの味方だとは思うが、演技の可能性もあるので俺は常に二人の動きを見張る。

 その後も三人が会話をしていると、アルが突然別方向を睨んだ。


「アルト、厄介なのが来るモビ」


 その言葉の直後に現れたのは、一つ目の三メートルはあろうかという巨人だった。


「あれは?」

「サイクロプスたい。我々がこちらに来るときに、前の街で目撃情報があったと聞ちょったが、タイミングが悪か」


 ハーディが説明してくれる。

 そうか、一つ目の巨人はサイクロプスか。そりゃあ、ハーディにガブリエル、死んだのがアンディに、アルミラージのアルがいるとなれば、サイクロプスも出てくるよな。仕方がない。


「デーボ、馬車で逃げろ」

「わかった。アルトは?」

「倒せるかわからないけど、時間は稼ぐ」

「無理はせんようにな」

「ああ」


 俺の言葉を受けてデーボは逃げる準備をする。

 すると、サクラが


「私も残るわ」


 と言い出した。


「駄目だ。君までここに残ったら、依頼主の護衛はどうなる?」

「でも、相手はサイクロプスよ」

「こっちは大丈夫だ。アルだっているんだから」

「任せるモビ。ただ、あいつの一撃を食らうとミンチよりもひでぇよって状態になるモビ」

「休業災害どころの話じゃないな」


 アルの話を聞いて、俺も一緒に逃げたくなった。

 だが、誰かが時間を稼がなければならない。誰かがこれをやらねばならぬ。期待の人が俺たちなのか?たぶんそうだろう。

 期待されているかなと思い、ちらりとサニーを見る。

 すると、彼女は腰を抜かしてその場に座り込んでいた。


「お嬢様!」


 ハーディとガブリエルが支えようとするが、その間にもサイクロプスが迫ってくる。


「アルト、逃げるのが間に合わんぞい」

「わかっている。デーボ、パサート様を外に出してくれ」


 俺はデーボに指示を出した。逃げられない馬車よりも、外の方が安全だと判断したからだ。

 もう、サイクロプスを倒すしかない。

 覚悟を決めて、サイクロプス身向かい合う。


「でっけえ顔して歩くんじゃねぇ、この田舎もんが!」


 俺はそう叫ぶと、思いつくだけの毒劇物を購入して、サイクロプスの顔目掛けて納品させる。

 トリクレン、苛性ソーダ、シンナー、塩酸、硫酸、フッ化水素、硫化ナトリウム、硝酸、ピクリン酸、トルエン、メチクロ。

 それらがサイクロプスの顔に命中した。


「グオオオオオオオ!!!」


 サイクロプスが苦悶の表情となり、叫び声をあげる。その声は森の木々を揺らすほどの大声だ。

 思わず耳を塞ぐ。


「くっ、すさまじい咆哮だな」


 サイクロプスを睨みつけていると、隣にサクラがやってきた。見れば、剣が震えている。


「思いつくだけの毒劇物をぶつけたのに、まだ立ってやがる。怖いなら下がっていた方がいい。恐怖は心を殺す」

「そうかもね。でも、ここで引くわけにはいかないわ。ただ、死ぬ前に王都の商店街でトライデント焼きを思うさま食べておきたかったわね」

「生きていたら奢ってやるよと言いたいところだけど、生憎と王都に戻るつもりはないんでね」

「それなら、サンタナ領の食堂でご飯におよそ思いつく限り全てのトッピングを施した、豪華なメニューを堪能させて」

「わかった」


【マグネシウム爆発】


 俺はサクラとの会話を終えると、マグネシウム爆発でサイクロプスを攻撃した。凄まじい爆発に襲われても、サイクロプスは立っている。


「ちっ、これじゃあ水蒸気爆発でも集じん機爆発でも一緒かな」


 攻撃が効かなかったことに舌打ちする。


「私が攻撃するから巻き込まないでね」

「わかった」


 サクラはそう言うとサイクロプスに向かって走り出す。

 サイクロプスのすねに斬撃を見舞うが、硬い皮膚に弾かれてしまう。あの爆発に耐えるような皮膚だし、当然と言えば当然か。

 サクラは諦めてこちらに戻ってきた。悔しそうな表情である。


「災害級のモンスターに私の攻撃が効かないのね。まだまだだわ」

「災害級?」


 聞きなれない単語に、俺はきき返した。


「そう。アルミラージやサイクロプスみたいなのは、台風や地震と同じ災害扱いなの」


 それを聞いて俺は閃いた。

 災害をぶつけてやれば、あいつにも効果があるんじゃないかと。


【アースクエイク(新潟県中越地震)】


 不良にまつわるエトセトラで、大地震をサイクロプスの周囲にだけ発生させる。ただ、マグニチュード6.5の威力はこちらにも影響があり、地面が激しく揺れた。


「きゃあ」

「うわあああ」


 サニーやハーディたちからも悲鳴があがった。

 いきなりこんな揺れが発生すれば当然か。

 こいつが何故不良にまつわるかといえば、あの地震で新潟にある協力工場が被災。前日までに作った部品だけでも欲しかったのだが、関越自動車道が通行不能になり、宅配便などが全てストップしたという状況だった。さらには一般道の交通規制もあった。

 なので、会社の品質管理部門が協力メーカーに連絡を取り、福島で落ち合って製品を検査して良品だったら持ち帰るということになったらしい。

 らしいというのは、当時から会社にいた人から聞いた話だからだ。

 そして、製品は落下時の衝撃で変形しており、不良だったというのである。

 そんな自然の驚異がサイクロプスを襲った。


「ガアアアアアアアアアアア!!!!」


 揺れによって転びながらも、叫び声をあげるサイクロプス。


「もっと強いやつでどうだ」


【アースクエイク(新潟県中越沖地震)】


 今度はさらに強いマグニチュード6.8の地震で攻撃する。これが使える理由も先のスキルと一緒だ。この時は被災したサプライヤーに対して、トヨタ自動車は本社から250人、グループ企業から80人の計330人をリケンに派遣した。日産自動車100人、三菱自動車40人、ホンダ30人と、ライバルメーカーも同様に派遣している。

 あれが転機で、災害や事故が起きると自動車メーカーが復旧支援をする流れが出来た。

 まあ、俺の会社はそんな規模ではないので、被災状況を確認して相手が立ち直るのを待つだけだが。

 そんな地震がサイクロプス中心に発生し、地面が割れる。

 サイクロプスはその亀裂に呑み込まれて見えなくなった。

 俺は亀裂を眺め呟く。


「あのサイクロプスが最後の一匹だとは思えない」

「そうモビ。サイクロプスが一匹いたら、五十匹いると思えって言うモビ」

「ええ、本当?嘘だと言ってよ、バニー」

「アルはどちらかと言えば、バニーよりラビットモビ」


 なんにしても、危機は去った。


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