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第26話 震えるぞハート(不良の連絡があったので)

 カンダから二日ほどの距離にあるコクラの街。本来はここで宿に泊まり、ゆっくりと休みたいところではあるが、今はそんな危険は冒さない。

 食料品と寝具は俺が調達するので、街で補給するような必要はない。そう、寝具も調達しているのだ。今は目覚めたところであり、寝具から出るところだ。

 ベッドにマットレス、敷きパッドに毛布に布団。ばねの入ったマットレスはこの世界にはない快適な眠りを提供してくれる。その寝心地に感動したサニーなど


「是非とも売ってください。屋敷に置きたいのです」


 などとお願いしてきた。

 サクラは依頼主の手前、安眠を求めるようなことは口にしないが、きっと同じように考えていることだろう。

 パサートも口にはしないが、布団から出るときに名残惜しそうにしているので、言い出せないだけだろう。

 俺はそんなパサートに訊ねる。


「サニー殿がああ言っているが、パサート殿もこれが欲しいですか?」

「僕も欲しいです」


 パサートはおずおずとこたえた。その姿がなんとも艶っぽいので、思わず心が惹かれそうになる。禁断の扉を開けてしまいそうなほどに。

 まあ、その直前で踏みとどまれたのだが、多分扉には鍵はかかっていなかったので、あと少しで簡単に開いてしまっただろうなとは思う。

 さて、俺がなんとか落ち着きを取り戻そうとしていると、デーボがコクラの街について説明してくれる。


「コクラは労働者の街なんじゃ。だから、荒っぽい男たちであふれかえっておる。当然そこでは飲む打つ買うの三拍子が盛んで、犯罪ギルドも深くかかわっておるんじゃ。そんな街じゃから、立ち寄らん方がええ」

「そうだね。教育には良くなさそうだ」


 この世界でも犯罪ギルドというマフィアの主な仕事に口入屋のようなものがあるらしい。コクラの街は王都近郊の仕事をする者たちが隔離された街であり、王都にいては治安を悪化させそうだということで、この距離に街を作ったのが始まりとのこと。

 そこでは日雇いや短期の雇いが盛んにおこなわれ、雇用主と労働者を結ぶ仕事も沢山あるというわけだ。日本でもドヤ街、世界各地にも似たようなところがあり、総じて治安が悪い。そんなところに立ち寄るわけにもいかないよなと、デーボの説明を聞いて思った。

 朝食をとり、出発してすぐに、その治安の悪さのおこぼれにあずかる。

 馬車の行く手には丸太が転がり、道をふさいでいた。

 御者のデーボが馬車を止めると、周囲の茂みからガラの悪そうな連中が出てくる。皆、手には斧や剣を持っている。


「死にたくなければ武器を捨てておとなしくしろ」


 そう言われて、サクラの顔を見た。

 彼女は首をかしげて、鼻で大きく息をする。呆れたって感じだな。

 見た感じ、20人くらいの集団が取り囲んできたが、測定の結果俺のバフなしの能力程度しかない。今の俺たちにとって、まったく脅威にならない相手だ。

 サクラは御者台から飛び降りると、瞬く間に賊どもを蹴散らした。宮本武蔵もびっくりな動きである。

 一応俺もエロージョンで相手の武器を弱体化させてはいたが、全く危なげない動きで終わってみれば不要な支援であった。

 見える連中が地面に転がり、隠れている仲間もいない様子なので、俺は馬車の中のサニーとパサートに襲撃があったことを伝える。

 なお、サクラとデーボは死体の後始末をしている。


「賊に囲まれましたが、撃退しました」

「まあ。これも刺客でしょうか?」

「いえ、どうも我々と知って狙った様子はありませんでした。通行人を襲おうとしていたところに、我々が通りがかったということでしょう」


 俺の説明をきいて、二人は安堵した。

 サニーは俺に微笑む。


「やはり、アルトたちがいると安心ですね。これからもずっといてくれたら良いのに」


 そう言われて悪い気はしない。というか、むしろ嬉しい。

 サニーは美人である。そんな美人にこれからもずっといてほしいと言われて嬉しくないわけがない。ただ、経験が少ないのでそれにどう返答をしてよいのかがわからないだけだ。

 そんな風に、俺が返答に困っていると、パサートも


「アルト、うちに仕えるつもりはない?」


 などと訊いてくる。


「そうだなあ、こちらの事情が落ち着けば」


 そう曖昧な返答をするのが精一杯だった。

 頼りにされているのはうれしいのだが、国王がどういう行動に出るのかがわからない。

 なので、俺としては一刻も早くこの国を出たいのだ。

 護衛は方向が王都から離れるので目的と一致しているからやっているに過ぎないのだ。


「嬉しくないの?迷惑?」


 パサートが悲しそうな顔になった。

 これはいかんと思い、咄嗟に否定する。


「ハッピー、うれピー、よろピくね」

「アルト、おまえなにしとるんじゃ!」


 俺がてんぱった否定の仕方をしていたら、戻ってきたデーボに突っ込まれた。

 なお、サニーとパサートのサンタナ姉弟は、俺の言葉を聞いても無言である。

 そういう態度を取られると恥ずかしくなるな。


「40年も前のネタなんて通用しないモビ。この沈黙、アルなら恥ずかしくて、舌を噛んでるモビ」

「うるせー。そんなこと言うと市場流出直前のオーバードライブぶつけるぞ」


 アルの一言にイラっときた。不良にまつわるエトセトラで、市場流出直前のオーバードライブを出して、ぶつけてやろうかと思うくらいに。

 これは昔のオートマ車にあったオーバードライブというボタンの動作不良で、ギアがオーバードライブにならなかったというものである。それで全数動作確認することになったのだが、その確認作業をしていたのが外国人労働者のジョジョさんだ。これで販社がホンダカーズなら完璧だったのに、だったのに。

 いや、完璧ならそもそも不良は出ないか。


「アルト、それはひょっとしてそれは、刻むぞ血液のビー――――」

「いや、そういう車名じゃないから。そもそも変速機はマニュアルだけだろ」


 いやなことを思い出したな。


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