第24話 炎のたからもの
その後、アルは10分くらいかけて自力で魔法の檻を壊して脱出した。
「僕にかかれば古代魔法王国時代のマジックアイテムだってこの通りモビ」
自慢して胸を張るアル。
「しかし、魔法の檻に身代わり人形に転移のスクロールか。厄介なアイテムばかりだな。こんなのを毎回使われたら危ないだろう」
俺は戦いを思い出して心配する。もっと便利なマジックアイテムだってきっとあるはずだ。それに対処できる自信はない。
「どれも貴重なものだから、そうそう毎回使えるようなものではないわよ。これが国家間の戦争ならわからないけど、貴族の暗殺だとしたら報酬と照らし合わせると割に合わないわ」
サクラは相手がまともにそろばんを弾ける前提でそう言ったが、相手が面子にこだわるならそうはならないだろうな。裏社会の人間にとって面子は大切だ。このまま失敗したという噂が広まるのを黙って見ていてくれるかはわからない。
ただ、それを口にして依頼主を不安にさせるのもどうかと思い、口にするのはやめた。
サニーとパサートは未だに青い顔をしている状態なのだ。
「たしかにコスパは悪そうだし、そうそう何度も使うてじゃないか」
俺はそう言って二人を安心させようとした。
なお、デーボは残されたヤギの人形を拾って、興味深そうに観察している。それを見たアルが
「それは古代魔法王国前期の天才魔法使い、カミノストロ大公の作ったものモビ。実用性に加えてデザインにも凝っているあたりがとても評価が高いモビ」
と説明する。
「なんだその、折角のジュースをまずくするような名前は」
転移してきた俺にとっては、紙のストローに聞こえる。外国人の名前が日本人からしたら、変な意味になっているというあれだ。
「ジュースがまずくなるかどうかはわからないけど、カミノストロ大公の居城兼研究施設には、当時のマジックアイテムが多数残されていて、冒険者たちの探索が今も続いているモビ。カミノストロの城といえば、冒険者で知らない者はいないモビ」
「ああ、それなら私も聞いたことがあるわ。火属性の付与された指輪の伝説があって、それには魔神が封じ込められていて、所有者の願い事を三個だけかなえてくれるらしいわね。炎のたからものって呼ばれているわ。それが見つけられたら、世界一の大金持ちになることも出来るって話よ」
サクラも知っていたようだ。
カミノストロの城って言われると、とたんに泥棒とロリコン伯爵が思い浮かぶ。っていうか、炎のたからものってなんだよ。
「あの、そんな貴重なマジックアイテムを持っているような殺し屋がもう一度襲ってきたら」
蚊の鳴くような声できいてくるサニー。俺は安心させるために胸を叩く。
「その時はまた撃退して見せましょう」
「でも先ほどは……」
「ああなんということだ。その女の子は悪い殺し屋の力を信じるのに、護衛の力を信じようとしなかった。その娘が信じてくれたなら護衛は空を飛ぶことだって湖の水を飲みほすことだってできるのに」
そういうと、俺はスキルを使う。
【水蒸気爆発】
ドロドロに溶けたアルミが出現し、直後にそのアルミに水滴が落ち、大爆発をする。
溶融金属に水が付着すると、水が爆発的に膨張する。これが水蒸気爆発の原理だ。始業点検でインゴットケースの水の付着確認を怠った結果、アルミをインゴットケースに移したところ爆発し、製品が変形して不良となってしまったことがある。よく死人が出なかったという爆発事故だ。
そんなスキルを使ってから、サニーに再び話しかける。
「今はこれが精一杯」
俺が笑顔で語り掛けると、サニーもぎこちないながらも笑う。
「確かに、アルトのスキルがあれば、どんな敵が来ても大丈夫そうね」
「ああ。国王でもぶん殴ってみせらぁ。でも、飛行機だけは勘弁な」
「さっき、空を飛ぶことだってできるって言ってたモビ」
「アル、そこは黙ってろ」
お前、なんで飛行機を知っているんだよ。まあ、こいつは長生きしているし、異世界からの漂流物から得た知識なんだろうけど。
サニーが落ち着くと、パサートにも少し笑顔が戻った。
「アルトがいてくれるなら大丈夫だよね?」
「任せておけって」
どんと胸を叩いてさらに安心させる。パサートから向けられる信頼の視線が、俺にとっては少し重荷だが、そんなことは顔には出さないようにする。
誰かに期待されることなんて、今までの人生で無かったからな。
いや、不良が出たときの客先の対応では、製造部門から期待されていたな。主に、お前が怒られてくれるんだよなというような期待だったが。
あの時スケープゴートドールがあれば、俺の心のダメージも肩代わりしてくれたのか?
その後、スケープゴートドールをくれというデーボのお願いを聞き、俺たちは先に進むことにした。
あ、トリクレンを浴びて目を開けられない他の刺客たちは、サクラが始末してくれましたとさ。
一話目の数行だけ考え付いて書き始めたので、投稿ペースは遅いし、設定もガバガバですが、終わりまでお付き合いいただけると幸いです。何となくの終わりは考えていますので。