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第23話 地獄で会おうぜ。でも、俺は極楽に行く

 アルは男の前へと進み出る。


「アルミラージがいるとは聞いていたが、随分と小さいようだな。一国をも滅ぼす災害級の存在という話だが、イメージと随分違う」


 男はアルの事をそう評した。

 それに関しては俺も同意見である。一見して可愛らしい角の生えた兎にしか見えないのだ。

 ただし、男の方は油断をした様子はない。サクラとアルの両方に対して備えている。

 一方のアルはサクラの方を向いて話し始めた。


「アルトがあいつを倒せというのだが、サクラはそれで構わないモビ?強敵と戦いたいというのであれば、先に戦ってもよいモビ」

「これが訓練ならそうしたいところだけれど、実戦だからやめておくわ。私の勝てる相手じゃないもの」

「そういうことなら気にしないでやらせてもらうモビ。サクラはぼんくらのアルトと違って、相手の力量をちゃんとわかっているモビ」


 なんか下げられたぞ。俺だってISOの規定にある力量評価は出来るんだ。今回はただ、この世界のISOにあてはめられなかっただけで。

 悔しいのでアルのADC12にラドルの剥離片を混ぜてやろうか。チッピングの原因になるから、不良にまつわるエトセトラのスキルを使えば出来るはずだ。

 ラドルとはダイカストマシンの溶解炉から、溶湯を汲み上げる容器のことだ。こいつの材質は様々だが、鋳鉄を使ったラドルがあって、その表面が剥離して溶湯に混入することがある。それが運悪く加工部位にくると刃物が欠けることがあるのだ。というか、何度も経験した。

 なんてことを考えていると、男が何やらアイテムを取り出し、アルに向けた。

 次の瞬間、光の檻がアルを捕まえた。


「古代魔法王国時代のマジックアイテムか!」


 アルの語尾からモビが消え、怒りが体から噴出するのがわかる。

 そして、とてもやばい状況なのも理解した。


「アル!」


 俺は声を掛けた。


「アルト、ここから出るには時間がかかる。まさか、こんなものを持ち出してくるとはな」

「アルミラージと戦うのだ。準備はするだろう」


 男は笑いながら言う。


「貴様、名前を聞いておこうか。ここから出たら殺しに行くのでな」

「クレスタ。ボウイナイフを愛用しているので、クレスタ・ボウイと呼ばれている」


 その名前に反応したのはサクラだった。


「ボウイナイフのクレスタって言ったら、犯罪ギルドで一番の殺し屋じゃない」


【液体窒素漏れ】


 俺はそれを聞き終わる前に液体窒素でクレスタを凍らせた。

 勿論、不良にまつわるエトセトラによるスキルである。液体窒素は熱処理の冷却工程で使用するので、そうした仕事をしている会社では保管している。その保管タンクから出ている配管には、夏でも氷柱が出来ており、そいつを折って氷水を作ってジュースを冷やしていたりする。

 まあ、そんな液体窒素であるが、設備の老朽化や作業ミスで漏れる。そうなると、冷却がプログラム通りに行われず、不良となってしまうのだ。

 まあ、不良の心配よりも労災の方が重要なんだが。液体窒素は気化すると約700倍の体積となる。密閉された空間では窒息の危険もあるのだ。

 そんな液体で氷漬けとなったクレスタ。

 どうやら液体窒素は犯罪ギルドで一番の殺し屋にも有効だったらしい。


「え?いきなり攻撃したの?」


 サクラが今度は俺の行動に驚く。


「だって、相手はこちらを殺そうとしているんだろ。何も待ってやる必要なんてないじゃないか」

「それはそうだけど。それにしても氷属性の魔法なんて使えたのね」

「いや、魔法じゃないんだ。氷よりも冷たい液体を浴びせて、凍らせただけなんだよね」


 と説明したものの、サクラもサンタナ姉弟もポカンとしている。アルだけは笑っていた。


「やるではないか。正直、ここから抜け出す前に殺されるかと思ったぞ」

「まあね。でも、融けたら動き出しそうだし、念には念を入れてとどめを刺しておくよ。Hasta la vista, baby」


 そう言ってスキルを発動する。


【マグネシウム爆発】


 今度はスキルでマグネシウムによる爆発を発生させる。

 すると、氷漬けになっていたクレスタは粉々に吹き飛んだ。

 このスキルはマグネシウムの加工中にキリコが発火したことで再現出来ている。マグネシウムは水をかけると爆発するので、発火した場合は消火剤を使用する。しかし、そんな知識もなくマグネシウムを加工していたため、水をかけて爆発させてしまったのだ。当然加工していた製品は不良となった。

 なお、死人が出なかったのは奇跡だ。運が悪ければ死んでいた。

 まあ、死人が出なくても消防にはこっぴどしかられたのだが。


「今度は爆発!?閃光で視界が」


 サクラは爆発の光で視界を失ったようで、目を細めながらクレスタのいた場所を見た。

 俺はというと、溶接用の遮光レンズがついた眼鏡をネットストアで購入し、爆発の直前に装着していたので、視界は失っていない。

 そんなレンズの向こうに、爆発で粉々になったはずのクレスタが立っていた。


「あれ?」


 俺が疑問に思いながら見ていると、クレスタはすぐに消えてしまった。


「スケープゴートドールと転移のスクロールモビ」


 気が付けば言葉遣いの戻っているアルが説明してくれる。


「スケープゴートドールというのは身代わりになってくれるマジックアイテムモビ。転移のスクロールは転移魔法が使えるスクロールモビ。どちらも古代魔法王国時代のマジックアイテムで、かなり貴重品モビ」

「つまり、殺したはずが生き返ったけど、どこかに転移したので危機は去ったってことでいいのかな?」

「そうモビ」


 それを聞いて安心したせいか、どっと疲れが出た。


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