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第21話 冷酷非情の暗殺者

「この宿も安全じゃないとなると、早いところこの街を離れたいわね。宿の従業員が犯罪ギルドの暗殺者なんだから、誰が暗殺者なのか全てを警戒することになるわ。それなら人が少ない町の外の方がいい」


 サクラはそう判断した。俺もそれには同意する。


「明日、護衛の冒険者が見つからなかったら?」

「それは依頼主の判断だけど、アルトとアルがいるならカンダを出発してもいいと思っているわ」

「随分と信頼されたものだね」


 そう言っておどけて見せたが、俺の出す食事を食べている限り、ステータスのボーナスがあるのでそうそうやられることもないだろう。

 となれば、護衛を待っていることもないか。

 サクラはサニーの意見を求める。


「如何でしょう?」

「そうですね。明日の午前中に依頼を請ける冒険者がいなければ、すぐにこの街を発ちましょう」


 サニーもここに長居するのは危険だと判断し、早めに街を離れることを選んだ。

 パサートは特に意見も出さず、俺たちの会話を聞いているだけだった。これで、領地を継いでも大丈夫だろうかと心配になる。

 サニーが継いだ方がいいような気がするが、女性だと当主になれないとかいう決まりでもあるのかな?流石に訊くことは出来ないが。

 そのようなことを考えながらパサートのことを見ていると、サクラに声を掛けられた。


「ねえ、アルト」

「何だい?」

「もう少し食べるものはあるかしら?」


 顔を赤らめて訊いてくるサクラ。どうやら恥じらいというものがあるらしく、おかわりを要求することが恥ずかしいようだ。

 体を動かす仕事だし、パスタだけでは足りなかったようだな。俺はすぐにネットストアでパンを購入した。ジャムパンである。

 それをサクラに差し出した。


「甘いぞ。いいか?」

「勿論。嫌な理由なんてないわよ。でも、高いんでしょ?」


 サクラは上目遣いで俺を見てきた。

 金額のことを気にしているらしいが、ジャムパンなんて銀貨一枚分の値段もしない。


「そうでもないぞ。値段なんか気にせずに食えばいい」

「ありがとう」


 サクラは喜んで袋を開けて、中のジャムパンを口に入れた。


「何これ、美味しい。それにパンが柔らかい」


 サクラは驚きで目を丸くした。そう言えばこの世界でパンを食べていないが、きっと硬いパンが普通なんだろうな。HRC60くらいのやつに決まっている。HRCっていうのはロックウェルという硬さの規格のCスケールである。業務用和包丁が大体それくらいの硬さとなっている。

 食いもんじゃないな。


「あの、私も」


 サクラの表情につられたのか、サニーもパンを要求してきた。俺はサニーとパサート、それにデーボの分のパンを出す。


「わしは酒の方がいいんじゃが」

「いつ襲撃があるかわからないのに、飲んでいられないよ」


 俺はデーボの要求を却下した。

 デーボは一瞬、しゅんとなったがすぐに気を取り直してパンをかじった。

 全員の評価は好評。まあそうだろうな。


「これは、さぞかし名のあるパン工房でつくられたものでしょう」


 などとサニーが評するが、多分労働環境に定評のある、あのパン工場だとおもう。ツイストパンが……というネットの知識が浮かんで、苦笑いしか出てこない。

 なので、曖昧な笑顔で頷いておいた。


 いっぽうそのころ、カンダの街の一角にある立派な館で、密談が行われていた。実はここは犯罪ギルドの所有する館であり、表向きは娼館となっている。そこでは、支部長の執務室に支部長ともう一人、20代後半くらいの男がいた。

 支部長は脂ぎった中年であり、もう一人の男の方はすらっとした体型ではあるが、やせているというわけではない。不必要な筋肉が無いというのが正確な表現だ。そして、かみそりのような鋭い目をしていた。

 支部長は椅子に座っており、もう一人の方は壁を背にして立っている。

 支部長の方から男に声を掛けた。


「あんたがこの街にいてくれて助かったぜ。こちらは腕っこきの『仲居』が失敗して、逆に殺されちまったもんで、どうやって仕事を完遂させようか悩んでいたんだ」


 『仲居』とは、サンタナ姉弟の命を狙った宿の従業員のコードネームである。


「あの『仲居』が失敗か。どうせ油断でもしたのだろう。長い間失敗しないというのは、心のどこかに隙が生まれるものだ」

「当人にもそう言ってやりてえが、すでに地獄に行っちまったしな。そこで、ギルドで一番だっていうあんたに仕事を引き受けてもらいてえ」


 支部長は男に向かって手を合わせて頭を下げる。

 この男、名前をクレスタというが、彼は犯罪ギルド随一の暗殺者であった。格としては支部長の方が上になるのだが、気難しいことで有名であり、ギルド内で揉めた相手も殺すのに躊躇が無い。所謂一つの問題児であるが、それを補って有り余るほどの暗殺成功回数をほこっており、破門や除名などという処分が行われることは無かった。冷酷にして非情の暗殺者なのである。

 そして、それは犯罪ギルドに所属している幹部は、誰もが知っていることである。主な武器はボウイナイフであり、暗殺以外に拷問でも愛用している。今もそのナイフをいじりながら会話をしている。


「で、ターゲットは?」


 クレスタが訊ねる。


「前サンタナ子爵の嫡男である、パサート・サンタナ。人相書きはねえが、『仲居』のいた宿に泊まっている」

「なら、さっさと人相書きを作るんだな。俺に次の依頼が入らないうちに」

「わかった」


 こうして次の刺客がアルトたちに向けられるのであった。


ボウイナイフはフランス語なら男性名詞ですね。じゃあ、「ル」がつくってことで、クレスタ・ル・ボウイって二つ名でいいですかね?

そういや干し肉がHV30でした。HRC60ってHV700相当か。やりすぎだな。

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