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第20話 ピンクアルマイト

 その後、宿の偉い人たちがやってきて現場一帯は封鎖。俺たちには口止め料として永世宿泊料無料が約束される。こんな話が出回ったら、宿の評判はがた落ちだし、悪くない取引何だろう。

 そう、つまり暗殺者だった従業員は本物の従業員であり、長年ここに勤めていたというわけだ。

 ただ、食事は毒殺される可能性があるので、晩飯は俺の方で用意した食材でとることにした。サクラはむしろその方がいいなどという。


「アルトの作る料理はおいしいし、それに、食べた後でなんだか体の調子が良いのよね」


 にこにこの笑顔の彼女に本当のことを言ったらどうなるだろうか?ステータスが大幅に上昇しているから、当然なんですよと。

 今後の食事は全部俺から買うとかなりそうだなあ。

 などと思いながら料理をしている。なお、場所は宿の部屋の中だ。貴族向けということで、室内はかなり広い。基本が石造りなので、木造と違って火災の危険も少なく、火を使っての料理も出来る。

 料理と言いながら、作っているのはパスタ。乾麺をお湯でゆでて、パスタソースをかけるだけである。一人暮らしの俺としては、いつも食べているものだ。麺の茹で時間は体で覚えているくらいには、いつもと言える。

 出来上がったものを食べると、そこでは賞賛の嵐となるが、ぶっちゃけ俺の技術ではなくて食品メーカーの技術の勝利だ。褒められて悪い気はしないが。

 それで、自分たちの食事とは別に、アルの食事も用意する。


「今日はピンクアルマイトのスティックにしよう」

「早く食べさせるモビ」


 せかすアルを手で制する。


「ちょっと待っててね」


 俺は白アルマイトの丸棒を購入すると、それにスキルを使う。


【電極剥がれ】


 すると、手に持っていた白アルマイトの丸棒がうっすらとピンク色になった。

 それの膜厚を測定すると1マイクロメートルと表示された。成功だ。ある意味失敗だけど。


「色が変わったモビ」

「普通のアルマイトの着色は、最後に色を付けるんだけど、このピンクはメッキの最中に電極が製品からはがれてしまい、製品に薄い被膜が形成されることで、その後の反応が無くなってしまうっていう不良が発生した時に、こういう色になるんだよね。膜厚はほぼゼロになるし、本来通電しないはずのアルマイトで、通電してしまうんだよね」

「言っている意味は分からないけど、こいつはちょっとしょっぱい失敗の味がするモビ」

「それは、この不良のせいで九州に出張して、本場の豚骨ラーメンを食べたときの思い出が入っているからだね」

「そこは涙の味にしておけモビ」


 振り返れば、あのメッキ不良は大変だった。関東から選別のため九州に出張して、ほぼほぼ全滅状態だったので、取引先からものすごく怒られた。挙句、本場の豚骨ラーメンと焼酎の味が大変美味しかったと会社で話していたら、「あいつは遊びに行っただけ」などと言われる始末。なら、お前が行けと言ってやりたい。対策書まで含めてやってみろと。

 電気メッキの場合は製品を治具にかけて、電極をつける。それをリードというのだが、ネジ穴を使える場合は安定するのだが、ネジ穴が無い製品の場合は、表面のどこかに電極を付けることになる。そして、治具はメッキ設備の中で揺れる。だから電極が製品からはがれやすいのだ。

 じゃあ、リードの時に電極をぐるぐる巻きにしてやればいいかというと、電極が接触している個所にはメッキがのらないので、その範囲が広くなるとメッキをしている意味がなくなる。ということで、そのようなやり方は採用されない。

 設計でメッキ用の穴を描いてくれるのが一番いいのだが、まあそんなことをしてくれるような場合など殆どないのだ。

 結局対策はリード方法の見直しや、治具と電極の管理方法のルール化などになる。根本的な対策じゃないので、再発するんだよね。

 そんなわけで、酒を飲んで現地の美味しいものでも食べなければやってらんないってのが本音だ。失敗したアルマイトにその味が乗るのかはわからないが、アルは感じたのならそうなのだろう。


「異世界に転生や転移した奴が、安易に電気メッキに手を出して、同じ失敗をすればいいのに」

「アルトから黒いオーラが出ているモビ」


 俺に何かを感じ取ったアル。そんなアルが悪い笑みを浮かべる。


「どうせ奴ら、電気メッキの事なんて何にも知らないから、不良品なことにも気が付かないモビ」

「そうだよな。メッキ液の薬品メーカーが変わっただけで、仕上がりの色が変わるなんて経験したことがある奴を見たことが無い。薬品メーカーもなしに、自分で作ったメッキ液で同じ品質が維持できるわけがないんだ。メッキのコントロールプランも見たことない奴が、外観部品をメッキして、大量に不良を作ればいいんだ」

「そこまで言うのはどうかと思うモビ」


 俺の態度に引き気味のアル。伝説のアルミラージですら恐怖で一歩下がるくらい、俺のオーラは黒いらしい。


「まあ、そんなことはおいといて、明日からどうしようか」


 俺は、こちらの愚痴には付き合わず、食事に夢中なサニーとサクラに訊ねた。



ピンクアルマイトをサクラマイトって呼ぶと、超電導物質っぽいよね。


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