第2話 馬車で王都を脱出
街を歩いていると乗合馬車の停留所を見つけた。
隣町まで銀貨3枚というので、それに乗って王都?を離れることにした。
俺の隣にはずんぐりむっくりで団子鼻の男が座っている。ドワーフみたいだなと思った。
じろじろ見ていたら相手も気が付いたらしく、不機嫌そうな態度を見せてきた。
「なんじゃ?」
「すいません。色々とはじめてなもので、見るものが皆珍しく」
「なるほど。どこぞの田舎から出てきたのか。すると、わしのようなドワーフを見るのも初めてか?」
やはりドワーフだったか。ファンタジー世界に来たって実感するな。
「はい。自分の住んでいたところにはドワーフがいなかったもので」
嘘は言ってない。日本にドワーフはいない。
相手も俺の言葉に納得した。
「ドワーフはあまり人間と交流を持たぬからな。王都には商売の都合で来ることもあるが。わしも王都の工業ギルドで打ち合わせがあるから来たが、普段は工房からあまり出ぬ」
話の内容から推測すると、ここでもやはりドワーフはものづくりを生業としているようだ。
「小僧、おぬしは何をしに王都まで来たのじゃ?」
「連れてこられて捨てられたというか、逃げてきたというか」
ドワーフの質問をはぐらかすと、彼は勘違いして納得してくれた。
「まあ、そういうこともあるじゃろう。気を落とすなよ」
「そこは大丈夫。せっかくだから世界を見て回ろうかと思ってね」
「若いうちは視野を広げるのもよいが、旅費は大丈夫なのか?」
「それだよね」
手元にあるのは銀貨10枚。いや、そのうち3枚は御者に支払ってしまった。大丈夫かと言われれば全然大丈夫じゃない。
ふとその時、ネットストアのスキルがあるのを思い出した。試しにスキルを使ってみると、目の前に見慣れたサイトが出現する。定番の石鹸を検索するとスクラブ入りの奴が最初に出てきた。
工場の手洗い場にある粒々の入ったあの石鹸だ。なんか、思っていた異世界転移とは少し違うな。普通は石鹸といえば風呂で使うようなものが出てくるんじゃないのか?
そう思っていたが、念じるとスクロールバーが動いて、下の方に他の石鹸が出てくる。
俺の行動を不思議そうにドワーフが見ているのに気が付いた。
「珍しい?」
そう訊いてみると、ポカンとした顔になる。
「何をしておるんじゃ?珍しいというか、理解が出来んのじゃが」
「スキルを使っていたんだけど」
「小僧、スキル持ちか」
「そうだけど、珍しいの?」
「ああ。スキル持ちは滅多におらん」
「城には魔法使いがいっぱいいるのにね」
「魔法とスキルは別じゃよ。魔法は訓練で使えるようになるが、スキルは神に与えられないとらなん」
そうなのか。そういう説明が無かったからわからなかったぞ。
「ま、スキル持ちなら仕事にも困らんじゃろ。だがな、スキルを悪用する人間もたくさんおるから、小僧はあまり人前でスキルを使わんようにせい」
「ありがとう。でも、小僧って呼ぶのはやめてほしい。俺にはアルトっていう名前があるんだから」
見た目は子供、頭脳は大人なので小僧扱いしないでほしい。
「すまんな。わしはデーボ・ヒラじゃ」
デーボ・ヒラ。その名前に思うところはあるが、まあ今はいいか。
馬車は順調に進み、その日は予定した宿営地まで進んだ。宿営地は森のそばにある平地で、近くに小川も流れていて、水浴びをすることができる。
そこで晩飯となったのだが、食べるものを持っていない。ここはネットストアの出番だな。工具などを扱っているのだが、酒や食料、調味料なども扱っているのだ。
購入しようとしたとき、お金をチャージしてくださいというメッセージが出た。試しに持っていた銀貨をウィンドウに触れさせると、それが吸い込まれて日本円表示となった。銀貨一枚で500円だ。7枚もっているので、3,500円の買い物が出来るということか。金貨だとどうなるんだろうか?
いや、そんなことよりこれだけしかお金がないのはやばい。ネットストアで購入したものをこちらで売るにしても、仕入れの原資が足りない。
と、そこで閃く。ここの人たちにまずは売ればいいのか。
早速デーボに訊いてみた。
「お酒があったら買う?」
「ああ。しかし、こんな場所では売る商人もおらんじゃろ」
「エールだけどあるんだよ」
実際にはラガーであるが、エールとラガーの違いが判るかどうかはしらん。というか、ラガーがあるのか?エールがあるのかも知らんが。
そう思っていたら、どうやらエールはあるらしかった。
「エールなら買うぞ」
「俺は相場がわからないが、酒場でエールを頼むといくらぐらいだ?」
「ジョッキ二杯で銀貨1枚といったところかの」
日本のビールを基準にしたら、中ジョッキ二杯で1,300円くらいだろうか。そう考えるとここのエールの値段は安いな。
ひとまず缶ビール6缶が4個パックセットになっているのがあり、それが2,750円(税込み)だったのでそれを購入すると、目の前に缶ビールが出現した。
「何じゃこれは?」
不思議そうに缶ビールを見るデーボ。アルミ缶なんかないのだろうな。どう説明しようか。