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第15話 冒険者登録

 俺はサクラとデーボに訊ねる。


「魔道具の値段ってどれくらいなんだ?」


 それにデーボがこたえる。


「ピンキリじゃ。火をつけたり、水が出るだけなら大した金額にもならんが、遠く離れた場所での会話が出来るようなものは、値段なんぞつけられん」

「その大した金額にならないってのは、つまりどれくらいなの?」

「装飾にこだわらなければ金貨1枚程度じゃな」

「それでもかなりじゃない?」

「そうは言っても、火をつけるのであれば火打石を購入する必要がなくなるのじゃから、長い目で見れば安いもんじゃろ?まあ、どこかで壊れてしまうかもしれんから、元が取れるかどうかは運次第じゃが」


 その意見には納得できた。

 火打石のランニングコストとの比較ということであれば、火をつける魔道具を買う理由になる。

 では、電卓はどうだろうか?そろばんがあるならば、必ずしも必要というわけではない。しかも、アラビア数字と現地の数字の変換という手間もある。

 それでも、そろばんよりも習得が簡単というメリットもある。まあ、こいつは電池で動くから、俺から電池を購入できないと動かなくなるんだけどな。

 そう考えると金貨1枚程度で様子を見るか。


「金貨1枚でどうでしょうか?5年から10年程度で動かなくなりますし」

「すぐに上の者と相談してきます」


 そう言うと、どこかへと駆けてゆく。

 受付嬢との会話が終わるのを待っていたのか、サニーとサクラが話しかけてくる。


「計算が出来る魔道具ということですが、誰でも扱えるものなのでしょうか?」

「ええ。ボタンを押すだけですし、魔力も消費しませんからね」

「使ってもよろしくて?」


 そう訊かれたので、俺はサニーに電卓を手渡した。

 サクラも同じように要求してくる。


「私にも」

「はい、どうぞ」


 俺はサクラにも手渡し、数字の変換表とボタンの意味を紙に書いた。


「俺は冒険者登録をしてくるから」

「わかった」


 サクラが頷く。あんまり電卓に夢中になりすぎて、サンタナ姉弟の護衛がおろそかになるんじゃないか心配だな。早いところ戻ってこよう。

 そう決意して、受付嬢のいるカウンターに向かう。


「あの、冒険者登録をしたいのですが」

「はい。それでは登録手数料として銀貨5枚をいただきます」

「あー、持ち合わせがないな」


 登録手数料を要求されて、金を持っていないことに気が付いた。

 すると、その時先ほどの受付嬢が戻ってくる。一緒にいかつい老人がいた。


「ギルドマスターが魔道具を見たいというのですが」

「ああ、丁度よかった。冒険者登録の手数料を持っていないので、今買ってもらえると助かるんです。どうぞ、見てください」


 俺はすぐに電卓を購入して、ギルドマスターといわれた男に電卓を渡す。


「ふむ、これはどうやって使うのかね?」

「ボタンを押してください。異国の文字が使われていますので、こちらに変換表を用意しておきました」


 そう言って先ほどサニーに渡した変換表をギルドマスターにも見せる。

 彼はそれを見ながらボタンを押していく。最初は簡単な足し算で答えがあっているかを確認し、次第に桁数の多い計算、そして掛け算や割り算も試した。


「おお、確かに計算が間違いなく出来ている。そろばんよりも早くて便利だな」

「そう評価していただけるとありがたいですね。しかし、こいつは5年から10年くらいでエネルギーが切れて使い物にならなくなるから、そろばん全てを無くすわけにもいかないでしょうし、その分お値段は勉強しましょう」


 俺がいなくなったら入手する手段がなくなるので、そろばんをすべて廃棄とかされると困るから、先にくぎを刺しておく。

 すると、ギルドマスターは不思議そうな顔をした。


「それはどういうことだ?これを作っているのがお前だということか?」

「そうではありません」

「ならば、作っている職人から買えばよかろう」

「それが……」


 そこで言いよどむ。異世界から買ってきましたと言っていいものかどうなのかわからないのだ。

 俺が悩んでいると、アルが代わりに答える。


「これはアルトのスキルがあってこそのものモビ。普通に入手は出来ないモビ」


 それを見た一同が驚く。


「兎がしゃべった!?」

「ホーンラビットではないのか!?」


 ギルドマスターがそう言って睨んでくる。


「実は、アルミラージなんですよね」


 俺はここでアルの素性を晒す。


「アルミラージ!?」


 その場にいた全員が固まる。

 否、サクラとギルドマスターは殺気みたいなものを出す。


「おちつくモビ。僕が本気になれば、この国なんて灰燼と化すんだから、そんな殺気はしまうモビ」


 かわいらしい声で、わりととんでもないことを言うアル。だが、それも事実なんだよなあ。アルミラージというのは神獣というか、災害と同等の力を持っているらしいので、国を滅ぼすことも出来る。人一人が立ち向かったところでだよなあ。

 その状況を理解したギルドマスターは殺気を消した。そしてアルに訊ねる。


「何故そのアルミラージが人と一緒に?」

「アルトと一緒にいれば、いつでもアルミニウムを食べられるからモビ」

「アルミニウム?それって伝説の金属の?」


 視線が俺の方に来たので頷く。


「本当かよ!だとしたら、この計算機よりももっとすげーじゃねーか!」

「見ます?」


 と言って俺はアルミ合金、φ20mmのA5056の丸棒を購入してアルに食べさせる。


「美味しいモビ。でも、成分を誤魔化している味がするモビ」

「そういうこと言わないの。それがばれたせいで仕事が増えたんだから」


 などと、軽い愚痴を混ぜつつ、兎にニンジンを食べさせるような感じで、アルに丸棒を食べさせていく。


「アルミラージが食べているってことは、本物のアルミニウムか。なんてこった、この事実が広まれば大騒ぎだな」

「って、周囲の人たちが見てますが」


 俺が周囲を見回すと、この場にいる冒険者たちがこちらを見ている。会話の声の大きさも小声ではないので、当然のことながら聞こえているだろう。


「ああ、手遅れか。精々馬鹿が功名心につられて手を出さないようにくぎを刺しとくのが限界だな」


 ギルドマスターは額に手を当てて、天を仰いだ。


「それで、電卓なんですけど、買ってもらえます?今なら金貨1枚で」

「ああ。10個ほど買わせてもらう。出来れば今後も取引したいんだが」

「どうでしょうかね。今は王都から少しでも遠くへ行こうとしているので、こちらに戻ってくる可能性は低いですよ」

「冒険者ギルドっていうのは、国を越えたネットワークだ。他の冒険者ギルドで売ってくれれば、こちらに届くようにはなる。って、冒険者じゃないのか」

「今から登録をしようとしていたところで。それで、手数料の持ち合わせがないので、電卓を売ったお金で登録しようと思っていたところです」

「それなら、ギルドマスター権限で手数料を免除する。今後のコネにも期待したいんでな」

「それはありがたい」


 というわけで、俺は無事に冒険者として登録することが出来た。



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