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第14話 樫と梶

 冒険者ギルドに到着し、中に入ると冒険者と思われる者が大勢いた。壁の掲示板のよなところに貼ってある紙を見ている者や、カウンターで何やら書類に記入している者、併設された食堂で食事をする者などがいる。総じてガラが良くない。例えるなら雀荘みたいな感じだ。素人を食ってやろうみたいな視線を感じる。

 で、そんな視線を受けながらカウンターへと進む。そこにいる受付嬢は美人揃いであり、どの窓口でも文句の出ないようになっている。絶対に顔で選んでいるよな?

 まあ、それはさておき。サクラは仲間の死亡の報告をし、サニーが新規での護衛の募集の依頼を出した。俺はそれが終われば冒険者としての登録をしようと思っているので、後ろでそんな様子を見ている。

 その時、隣の窓口で冒険者が騒ぎ出した。


「素材の買い取り額がすくねえだろうが!」


 怒鳴り声がしたので隣を見ると、厳つい顔の冒険者が受付嬢を脅していた。

 実際のところはどうなのかわからないが、まあ、脅しているようにしか見えないんだよな。


「いいえ、間違いありません」

「俺が計算が出来ないからってごまかしているだろう。今日の稼ぎがこんなに少ないはずがねえ」


 会話を聞いていて、その理由は無いだろと心の中でつっこむ。実際につっこみを入れると怖いからね。

 俺がそんな感じで見ていると、周囲の冒険者たちも集まってきた。野次馬が囲むと冒険者は益々ヒートアップする。


「だから、少ないって言ってるだろうが!」

「ホーンラビットの単価が銀貨1枚でそれを10匹、常設依頼のアベニール草の採取が銅貨28枚。なので、合計が銀貨12枚と銅貨8枚です」


 受付嬢はきっぱりと答える。

 俺は小声でデーボに訊ねる。


「銀貨って銅貨10枚の価値なの?」

「そうじゃよ」


 ネットストアだと入金した時の価格差は百倍なので、この世界と地球の価格差を感じる。

 それはそうと、目の前の冒険者の怒りは収まらない。


「大変だったから、もっと報酬があっていいはずだ!」


 そのような主張を聞いて呆れた。自分の仕事の価値に納得がいってないだけかよ。


「それ、お気持ちですよね」


 思わず口にしたのが相手に聞こえたようで、冒険者がこちらを睨んだ。


「なんだと?文句あるのか?」

「別に」


 絡まれてつい口にした別にが、とある大物女優ばりに不機嫌だったため、相手は目標をこちらに変えた。

 胸ぐらをつかもうと男の腕が伸びてくるが、それがひどくスローモーションに見えて、簡単に躱すことが出来た。


「てめえ!」


 空振りしたことでさらに男は激高し、拳を振り上げた。

 それを見ていたアルが俺にアドバイスをする。


「アルト、相手の拳を掴んで握りつぶすモビ」

「うん」


 俺はそのアドバイスに従って、振り下ろされる拳を右手で掴むと、自らの手のひらに力を込めた。

 ミシっという音がして男が膝をつく。


「これが俺の力?」


 あまりのあっけなさに俺は驚いた。


「これがステータスのボーナス効果モビ」

「なるほどね」


 男のステータスを測定するとかなり低かった。


年齢:35

職業:ベテラン冒険者

レベル:4

体力:84

魔力:5

攻撃力:93

防御力:61


「なるほど、これなら俺が負けることもないか」


 ベテラン冒険者でレベル4程度なのか。すると、サクラってかなりの高レベルなんだなと思った。

 それに、俺の購入した食材を食べれば、ベテラン冒険者の倍以上の強さを手に入れられるとなれば、割とこの先安泰なのではと思ってしまう。


「アルト、そろそろ手を放してやらんか?」


 デーボに言われて、俺は目の前の男が苦しんでいることに気が付いた。

 手を放すと男は一睨みするが、何も言わずに立ち去った。

 そこにサクラがやってくる。


「何、暴れているのよ」

「俺は襲われたから反撃しただけで、断じて暴れてなどいないぞ」


 俺がそう言うと、意外なところから味方が現れた。


「そうです。助かりました。ギルド内での私闘は禁止されておりますが、今のは十分に自衛といえます」


 味方は先ほど怒鳴られていた受付嬢であった。


「大変ですね。いつもあんな感じですか?」

「はい。文字が読めなかったり、計算が出来ない冒険者も沢山いますから」

「余計なお世話かもしれませんが、話をきくかぎりでは依頼については文字に加えて、報酬のコインの絵を添えておけばわかりやすさがあがるかもしれませんね。ホーンラビットならば銀貨3枚の絵を付け加えれば、文字が読めない相手も理解しやすいでしょう」

「ああ、そういうことをすればよいのですね!」


 受付嬢から尊敬のまなざしを向けられる。美人にそういう目で見られるのはうれしいな。鼻のしたが伸びて地面を掘削してしまいそうだ。

 なお、この手の視覚にうったえるというのは、言葉の通じない外国人労働者を使うための手法であり、工場内のいたるところにこうした工夫がされている。


「ただ、時にはこちらも計算を間違うこともあるので」


 と受付嬢の顔が暗くなる。

 ここはアピールチャンスだな。俺はすかさずそろばんをネットストアで購入して、それを彼女に見せた。


「これはね、東洋の計算機だよ」

「それなら似たようなものがありますし、使っています」


 残念ながら、俺のアピールは空振りした。しかし、ここで諦めない。


「これはねオークの計算機だよ」


 といって電卓を見せた。


「これは?それにオーク?」

「オークの尻尾から作られた魔道具で、ここに数字が出てくるのさ」


 俺は電卓を使って見せた。


「この文字は?」


 残念なことに受付嬢はアラビア数字を見たことが無かった。それはまあ仕方がないか。俺は何故だか知っているこちらの世界の数字と、アラビア数字の変換表を作り、電卓で計算をしてその使い方を再度見せた。

 なお、この世界も十進法が基本となっており、そのおかげで電卓を普通に使うことが出来ているのだった。


「ほら、どうです。先に作っておいた数字の変換表と照らし合わせてください。足し算も引き算も問題なくできるでしょう」

「すごい!こんな魔道具がオークを材料にして作られているなんて」


 オークの素材というのは俺のでっち上げた嘘であり、会社名からそう言っただけなのだが、受付嬢は感心しているので、今更嘘と言い出しにくい雰囲気となってしまった。

(作者注:電卓についてはカシオの昔の社名である梶尾製作所を主人公が樫尾と勘違いしているため、オークと言っています)


「これを使えば計算もらくでしょ」

「でも、お値段が」


 などと深夜の通販番組みたいなやり取りとなるが、実際の仕入れ価格では電卓の方がそろばんよりも安い。大量生産の効果だな。

 さて、こいつの値決めをどうしたものか。


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