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第11話 発生原因

 発生原因は入れ間違い、流出原因は確認不足ということで、それぞれの対策を立てることにする。


「入れ間違いはどこで起きたのかな?えっと、名前は」


 ここまで会話をしていて、従業員の名前を聞いていなかった。


「エクスです」


 と男性がこたえる。


「レイルです」


 エクスの後で女性がこたえた。じつにカンダらしい名前だな。


「エクスとレイルか。二人に確認をしたいんだけど、誰がこの瓶に塩を入れたのかな?」

「それはわかりません」


 エクスは首を振った。


「わからない?」

「ええ。厨房で管理をしているのですが、補充についてはその時いる従業員で気が付いた者がやっているので。記録も取っておりません」

「一度、その厨房を見せてもらえますか?」

「はい」


 ということで、俺たちは厨房へ移動することになった。

 厨房では料理人や従業員が忙しそうに動いている。そこにやってきた俺たちを奇異な目で見たものの、忙しさからか、すぐに彼らは自分の仕事に視線を戻す。

 そして、エクスが指をさす先に、砂糖と塩の入った瓶があった。


「こちらです」

「なるほどねえ」


 砂糖と塩の瓶は同じものであった。塩の方には塩と文字が書いてある。が、同じ形の瓶を使っていた。俺はそのことを指摘する。


「砂糖も塩も同じ瓶を使っていますね」

「はい。だから、間違わないように文字を書いております」

「従業員はみんな文字が読めるのかな?」

「はい。そうした者だけを雇用しておりますので」

「だとすると、文字が読めずに間違った瓶を選んだわけではないのか」


 一見すると瓶を間違ったようにも思えるが、そもそも、砂糖だと思って持ってきたものが塩だったという可能性もあるな。そちらも確認をしないとか。


「補充前の砂糖と塩の袋を確認したいのですが」

「それならば」


 とエクスが厨房を案内してくれる。厨房の片隅に袋が置かれており、その中には砂糖と塩があった。両方とも麻袋に入っているのだが、袋そのものが全然違う。大きさが塩の方が倍近くある。


「随分と袋の大きさが違いますね」

「仕入れている商会が違うので、袋も違うのです」

「なるほど。であれば、こちらを間違う可能性は低いのか」


 状況を確認するに、文字は読めるが同じ形状の瓶が隣同士で置いてあり、うっかり砂糖と塩の瓶を取り違えて補充をしてしまったということが発生原因だろう。まあ、そもそもの袋を取り違えた可能性も否定は出来ないが、持った時の違和感を見逃すというのは、見間違えよりも起こりにくい。目視検査などというものは信用できないが、手触りの触感というのは信用できる。識別用のシールの貼り忘れの検査などは、目視を敢えてさせずに、手で触ってシールと部品の段差を確認させていたくらいだ。

 じゃあ、対策はとなれば瓶をうっかり間違わないようにすればよい。といっても、ヒューマンエラーの対策というのは難しいのだが。工場で発生する不良の半分以上はヒューマンエラーなのである。

 そうはいっても対策をしなければならない。


「まずは、瓶の取り間違えを防ぐために、砂糖と塩の瓶の置き場を離しましょう。隣同士では間違いの元です」


 俺はそう提案をした。


「言われてみれば」


 とエクスが頷く。今それに気づいたからといって、彼が無能なわけではない。工場や会社でも類似品が隣同士で置いてあるなんていうのはざらにあることだ。スーパーマーケットだって、紙パックの牛乳の隣に、紙パックの飲むヨーグルトが置いてあることが多いだろう。あの状況だと、うっかり手に取るのを間違うと思う。が、レイアウト的に乳製品を一括りに置くとなると、それも仕方がなかったりして、中々難しいのだ。

 だが、今回はお客様に迷惑をかけてしまったため、従業員の利便性を犠牲にしても置き場は離すべきだろうな。


「それと、瓶を変えましょう。釉薬を違うものにすることで色を変えたりとか、どちらかを円筒状ではなくしてしまえば、見間違う可能性も下げることが出来るから」

「確かに」


 こちらもエクスは頷いた。


「すぐにというのは難しいでしょうが、瓶を購入している工房に話をしてみます」

「そうですね。それと、あとは補充記録を取りましょうか。全員が文字が読めるのであれば、砂糖と塩、あるいはそれ以外の調味料も含めて、誰がいつ補充をしたのかを記録させ、問題が起こった時に、誰の作業でそうなったのかを把握できるようにしましょう」

「なるほど。間違った者を処罰するためですな」

「違います。問題発生時にどこまで確認をすれば良いのかを判断する材料とするのです。例えばですが、ミスが作業者だけに起因する場合は、その作業者のところだけを確認すればよいし、それが時間によっておこるものであれば、その時間に作業したものを確認するように出来るのです。その時間だけは外から差し込む陽射しが強くて、見づらいことで問題が起きていたとかも今後は起きる可能性がありますから」


 記録を取るのは間違いを起こした作業者を罰するためという勘違いはありがちだ。誰がやったかを明確にしたくない作業者たちによって、新規に記録を取ることに大きな抵抗があったこともある。しかし、こちらとしては処罰するよりも、選別の効率化をしたいのだ。

 有名なリコールでは、対象車種の台数が膨れ上がったのは記録がなかったことによるのだ。どれが対象だかわからないから、全部の部品を回収する必要があったのだ。

 今回も、どれが対象かわからないから、この後すべての瓶の中味を確認することになる。

 というのを説明したら、エクスは納得してくれた。

 これで発生原因の対策はいいか。次は流出原因だな。


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