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プロローグ

よろしくお願いします。ゆっくり更新の予定です。


2025.2.19改稿しました。

暗くじめつく部屋に閉じ込められている―――気づいたら、粗末なベッドに横たわっていた。

喉の渇きがひどく、微熱があるのか体がだるい。脱水症状だろう。炎天下でずっとサッカーをしていて、意識が朦朧としてきたあの感じに似ている。それもそのはずだ。地下牢みたいな場所に閉じ込められて、ずっと水も与えられていないのだから。

着ている服は秋頃のもので、分厚いパーカーに厚手のワークパンツといった、いでたち。だけど今いる場所は、まるで夏の始まりのように暑い。炎天下の灼熱に晒されているわけじゃないけれど、じっとりと汗をかいてしまう。刑務所のように部屋の隅の衝立の裏にトイレがあったので用を足す。ほとんど水分が出なかった。これは……そろそろマジでヤバい。

もしかして、もしかしなくても―――このまま放置されたら、ホントに死んじゃうかもしれない……


ああ……今、心の底から思う。

水が、水が飲みたい……っ!


空気は、じめついていて、まとわりつくようだ。だから空気中には、あるハズなんだ。せめて壁や床が結露して水滴がついていたら、舐めて渇きを凌ぐことができるのに。


ああ、この空気中に存在する水の粒が目に見えたら、良いのに……!







ある時突然、父親からもう鍛錬に参加しなくて良いと言われた。お前は兄とは違うから、と。突然閉ざされた扉に、目の前が暗くなった。

幼い頃から父が寝物語に呼んでくれた勇者のお話が大好きだった。壊れかける世界を救うヒーローの物語だ。父は兄と自分に言ったのだ。お前たちは世界を救う勇者になれる、と。それから父の言うまま、先を行く兄を目指して鍛錬を続けた。


だけど急に梯子を外されて、真っ逆さまに落ちてしまった。そして、奏多はやさぐれた。鍛錬をしなくてよくなった時間を持て余し、部活に入ってみたり、ゲームをしたり、友達とカラオケに行ったり。


そんなある日、化学式の面白さに出会った。勉強はあまり好きではなかったが、何故か化学式を見ていると胸がわくわくして、心が躍る。化学者の叔父の家で、どっぷりと化学式に嵌はまった。父は母の弟である叔父に毛嫌いされていたから、その家に入り浸る行為は背徳的な喜びをも、奏多にもたらしたのだった。


化学式を好きになってから、今まで目に見えていたものが全て鮮やかに塗り替わった。

世の中のあらゆる要素が、全て数字で割り切れるなんて。それはなんて、小気味が良いのだろう! 納得できない、割り切れない感情をいまだに抱える奏多には、清々(すがすが)しくさえ思えた。


勉強を面白いと思ったのは、初めてのことだった。文章に出てくる意味の分からない難しい漢字を検索しながら、夢中になって読んだものだ。苦手だった学校の授業にも興味が湧いて来て、つられて理科以外の成績もぐんぐん上がる。将来は化学の研究をするのも良いかもしれないと、考え始める。


だって、自分には兄のような特別な能力がない。父が言う『勇者』には、なれないから。






空気中には水分が含まれている。空気中にある水分は、飽和状態……つまり要領いっぱいに含まれると、冷たい壁なんかに触れた時気体から液体になる。これが結露だ。暑い日に、冷たい水を入れたコップの表面に水滴が付くのも同じ原理だ。

けれども、この牢屋の壁には付いていない。結露が生じるほど壁が冷たくないのか、そもそも含まれる水分がそこまで多くないのか。……でも、空気中には必ず水分が、ある。


水分子は酸素原子一つに水素原子二つがくっついていて、ちょうど夢の国のネズミ、そのシルエットを立体化したみたいな形になっている。

そう、例え目に見えなくても、水分子H2Oは、私の周り、空気中そこここに存在している……! 飽和状態まで至っていないだけで。


渇望のまま、乾いた喉であえぐように息をし、目を凝らす。

ああ……! 空気中の水分が、水分子が目に見えたら良いのに。そしたらそれを集めて、喉の渇きを潤すことが出来るのに―――!!


脱水症状からくる微熱に浮かされ、ぼんやりする頭のまま、空を睨んだ。


水分子の大きさは、約280ピコメートル(280pm)。


1ピコメートルは1ミリメートル(1㎜)の10億分の1。ちなみに髪の毛の太さが約0.1㎜だから、それより遥かに小さい水分子が肉眼でとらえられるような大きさじゃないって、もちろん分かっている。


だけど、もう限界だった。理性であり得ない、と分かっていることだとしても、渇望せずにはいられない。必死で、目を凝らす。水分子が目に見えたら―――それを集めることが出来たら。この喉を、潤すことが出来るんだ……!


視界が、霞む。気力が付きかけて、耐えきれずに瞼を閉じる。それからもう一度、何とか瞼を持ち上げた―――その時、見えた気がした。


空中にふよふよ浮かんでいる『H2O』と言う、記号が。

あの有名なネズミのような、分子の形体モデルですらない。いくつも空気中に、水分子の化学式が―――浮かんでいる?! 


驚いても、もう声を発する力が無い。

幻かもしれない、夢かもしれない。いや、きっともう脳までおかしくなってしまったのだ。これは幻影、限界まできた喉の渇きが見せる妄想だろう。


けれどもカラカラの喉を潤せるかもしれないそれ(・・)を目前にして、夢中になって念じた。水分子H2Oよ―――この手の中に、集まってこい! と。


震える両手を皿のようにして、目の前にかざす。すると、まるで天井から滴ったかのように水滴がぽつん、と現れた。


「……!」


それから、一滴二滴と……徐々にぽつぽつと掌に水が落ちて来る。


そうしてやがて集まった、小さじ一杯ほどの水。

夢中になって、掌をなめる……!


「!!」


正直、半信半疑。原理的にあり得ないけど、蜃気楼みたいな物かと思ったんだ。完全に死を目前にした脳が見せる幻影だ、と思った。


でも―――ああ、これは水だ……!

僅かだけれど、本当に本物の、水分だった!!


どういう原理か分からないけれども、とにかく空気中にあるH2Oを集めるように必死に念じ、掌に水を満たして必死に喉を潤す―――そして不意に。世界は暗転した。


『H2O』の『2』を小さく表示する仕方が分からないので、そのまま投稿しています。正しい表記と違っております。いまだに勉強中です…ご容赦下さい!<(_ _)>


※この後のお話も順次改稿していく予定です。齟齬が生じるかもしれませんが、少しづつ見直していく予定ですので、よろしくお願いします。

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