悪夢
花畑の広がる水辺。
そこに鬼どもが群がる。
私はその水辺で、鬼どもに首を絞められている。
「ぐ、う…」
私はここで死ぬつもりはない。
辰巳さんに食べてもらうのだ。
「…」
これはおそらく夢だろう。
だから。
おきろ、おきろ、起きろ!
「…っ」
ぱちっと目がさめる。
やっぱりなんとか無事に起きられて良かった。
辰巳さんはぐっすり寝ている。
起こしたらかわいそうかな。
「…とりあえず水を飲もう」
今の夢が怪異かただの悪夢かはわからないが、もうしばらくは眠りたくない。
廊下に出て、階段を降りて台所へ。
キッチンの水道の蛇口をひねる。
水道水を飲むと、とりあえず一息つけた。
「ふぅ…」
「おや?百合…それ、どうしたんです?」
「え?」
起きてきたらしい辰巳さんが、いつのまにか後ろにいた。
「辰巳さん、起こしちゃいました?」
「いえ、たまたま目が覚めたらいつも僕に引っ付いて寝ている君がいなかったので」
「そうですか」
「それより首、どうしました?誰にやられたんです?」
「首…」
どうやら、ただの夢ではなかったらしい。
首に跡が残ってしまったようだ。
「…ああ、夢魔どもに取り憑かれましたか」
「夢魔ですか」
どうやら悪夢は怪異の仕業だったらしい。
「まあ、任せてください。百合、しばらくそのままで」
「はい…」
辰巳さんは私の前に立ち、私の背後に向けて口を開けた。
ぎゃーという声と、得体の知れないぶちぶちという音。
「わぁ」
「ふふ、ご馳走さまでした。これでもう大丈夫ですよ」
舌舐めずりをする辰巳さん。
辰巳さんの口の周りには紫色の血。
「…ありがとうございます」
「ふふ、いえいえ。僕の獲物を取られては困りますから」
「…ふふ」
まあ色々グロいけど、私を食べたいと思ってくれているならそれは嬉しい。
「さあ、明日はまた深夜のコンビニバイトです。一緒に寝溜めしましょう?」
「もう夢は大丈夫なんですよね?」
「もちろんです」
「明日バイトの時、首はどうしましょうか?」
「首はファンデーションで誤魔化しましょう。まあ違和感はすごいでしょうが、キスマークを隠しているとでも勘違いされるでしょうし」
なるほど、この間ファンデーションを買ったのは正解だったらしい。
「じゃあ、寝ましょうか」
「はい」
辰巳さんと手を繋いで寝室に向かう。
辰巳さんのひんやりした体に抱きついて目を閉じると、すっと眠りにつけた。
その日、もう悪夢は見なかった。




