季節は移ろう
季節は移ろい、暦上は秋になった。
社会人の私は、遅れてきた青春を謳歌している。
それは秋になっても同じこと。
辰巳さんと秋を満喫して、青春を感じている。
「百合、読書の秋ということで朗読会でもしませんか」
「朗読会」
「お互いのお気に入りの書籍を読み上げましょう?」
辰巳さんはたまに突発的に色々と提案してくれる。
それは辰巳さんなりの私への気遣いだと知っている。
自分が食欲を我慢できなくなった時、私を食べてしまうから。
それまでに、出来るだけ私を楽しませたいのだ。
「いいですよ」
「良かった」
辰巳さんとお互いのお気に入りの書籍を持ち寄る。
「僕はホラー小説を持ってきました。なかなか興味深い内容ですよ」
「私は異類婚姻譚の小説を持ってきました」
「…異類婚姻譚、ですか」
切なげな瞳。
辰巳さんは、私を愛してくれている。
それは疑いようがない。
だからこそ、私たちにその結末は用意されていない。
辰巳さんは、愛が深まるたびに私への食欲を増しているから。
「さあ、朗読会をしましょうか」
「ええ」
まずは辰巳さんがオススメの作品を朗読する。
辰巳さんのオススメの作品は、ホラー小説として怖いのもそうだがなかなかに設定が練られていて聞いていて少しワクワクする感覚もあった。
さすがは辰巳さんが推すだけある。
「すごく面白かったです」
「それは良かった。次は百合の番ですよ」
「はい」
私は妖と人の異類婚姻譚の小説を読む。
辰巳さんは読み進めるたびどこか寂しそうな表情になるが、最後まで聞いてくれた。
「面白かったですか?」
「ええ、とても」
「それは良かった」
「百合」
辰巳さんは私の頬を撫でる。
「いつか、美味しく食べてあげますからね」
「はい」
「その時は魂ごと取り込みますからね」
「はい」
「だからそれまでは…一緒にいましょう」
頬を撫でる手は相変わらず冷たい。
けれど私を見つめる瞳には熱がこもっている。
「もちろんです」
「…ふふ、すみません。野暮でしたか?」
「いえいえ。さあ、そろそろご飯にしましょうか」
「ええ」
その熱がこもった瞳が好きです。
なんて、言えないけれど。




