かたかたかた
かたかたかたと音がする。
その方向に行くと、よくわからないものがいた。
蜘蛛のような姿に、人の上半身がついている。
彼女は言った。
「そんなに生きていたくないのなら、交換するかぇ?」
「私は辰巳さんに食べていただくので、ご遠慮します」
次の瞬間、蜘蛛女は弾け飛んだ。
「やれやれ。この家は本当に危ないですね」
「辰巳さん」
「ほぼタダ同然の物件。そりゃあ事故物件に決まってますよね。おまけに霊道に通じてますし…まあ、この土地の立派な一軒家をこの破格の値段で借りられているのは素直に嬉しいところでしょうけれど」
辰巳さんはなんてことないように笑うけれど、この蜘蛛女の弾け飛んだ残骸はどうしようか。
「ああ、百合はそれを気にしなくて大丈夫ですよ。僕が食って証拠隠滅しますから」
「証拠?」
「ふふ、下半身はともかく上半身は人間っぽいでしょう?」
「ああ…」
言いたいことは察したのでそれ以上聞かないようにリビングに行く。
離れてもなお聞こえるばりばり貪り食う音に、いいなぁなんて思ってしまうのは場違いだろうか。
でも、私も…あの美しい男の腹のなかで、はやく溶かされたい。
「ご馳走さまでしたー」
「辰巳さん、おかえりなさい」
「この家は本当に食事に困らないですね。お掃除はちょっと大変ですが」
「ちゃんと血とか片付けました?」
「もちろんです」
にっこり笑う辰巳さん。
「けれど君、今までどうやって住んでたんです?僕がいないとすぐ死にそうなものなのに」
「多分これのおかげですかね」
「…ほう、パワーストーンですか。たしかに破魔の力は篭っていますが」
「私が捨てられていたところに、置いてあったそうです」
「ふむ」
彼は興味深いものを見る目でパワーストーンを見つめる。
「…ふふ、まあ今はいいでしょう。それより百合。明日は休みですし、今からゆっくり寝て明日に備えましょう」
「え」
「僕らはカップルなのですから、休みの日はデートをしなければ」
ね?と首をかしげる彼に、そうだろうか?と疑問に思う。
が、彼がそうしたいのなら付き合うのも吝かではない。
「ほら、おいで」
「はい」
そういう欲がないのか、私に魅力がないのか。
彼はセクハラ発言はあっても手を出してくることはない。
今もこうして、私を抱きしめて体温を奪うだけ。
「僕は冷たくて気持ちいいでしょう?」
「はい」
「今はゆっくりおやすみ」
優しく頭を撫でられて、気づいたら寝落ちしていた。