旅行
「ねえ百合、旅行に行きませんか?」
「旅行?」
「ええ、旅行です」
突然すぎる提案にびっくりする。
「資金は…」
「まだありますよ。二馬力で働いているのですから」
「ふむ」
一応通帳を確認するが、問題もなさそう。
「いいですよ。でもバイトはどうしますか?」
「この日なら休みが続くので、一泊二日なら楽しめると思うのですが」
「いいですね、では行きましょうか。でも今からで宿は空いてますか?」
「古民家系の自分で生活する宿屋なら空いてるそうですよ」
「なんですかそれ?」
首をかしげる私に辰巳さんは笑顔。
「古民家を一軒、貸してくれるそうです。自分で料理やらなにやらはやらないといけませんけどね。宿代だけでいいそうですよ」
「え、すごいですね」
「ということで、宿はとるので一緒に行きましょう?」
「はい」
二人での旅行が決まった。
「では、出発しましょうか」
「はい」
辰巳さんと手を繋いで電車に乗る。
電車で二人で駅弁を食べて、なんでもない話をして盛り上がる。
「…なんか、青春のやり直しをしてるみたいです」
「青春のやり直しですか?」
「はい。修学旅行、楽しめなかった人間なので」
「ああ…いいではないですか。その分今楽しみましょう?」
「はい、辰巳さん」
そして目的地に着いた。
駅を出ると思わず声が漏れる。
「わぁ…」
目的地は古民家を利用するだけあって、空気の澄んだ自然豊かなところらしい。
青空がどこまでも広がる。
そしてどうしてだか、いつも感じるほど暑くはない。
「すごいですね、なんか旅行に来たって感じです」
「今住んでいる家も、田舎な方とはいえここまでではないですからね。行きましょうか」
辰巳さんのエスコートで宿まで歩いていく。
歩くのもそこまで暑くないから苦痛ではなく、どこまでも広がる田んぼの景色を楽しみながらなのでむしろ楽しめた。
「本当にどこまでも綺麗な景色ですね…」
「素敵なところですよね。僕もここまで足を伸ばすことはなかなかないのでなんだか新鮮です」
「そうなんですね…」
「料理は自分でしなければなりませんが、冷蔵庫の中に地元直産の美味しい食材が用意してあるそうなので買い物はいりません。郷土料理のレシピも台所にあるらしいので、それをみて作りましょうか」
「はい。なんだか楽しみですね、ワクワクしてきました」
そんな私に辰巳さんは笑顔を向けてくれる。
「ふふ、それは良かった。僕もワクワクしてきました」
「宿も楽しみですね」
「そうですね」
そうして景色と澄んだ空気を楽しみつつ、会話を弾ませている間に宿に到着した。




