懐かしい人
コンビニで夜勤で働いていたら、お客様に声をかけられた。
「あれ、岩瀬?」
「え」
「あれ?わかんない?俺だよ俺!中学で一緒だった!」
「えーっと」
「野中くんでしたっけ」
隣にいた辰巳さんは、瞬時に私の記憶を見たらしくフォローしてくれる。
「あれ、辰巳じゃん!なに、バイト被ってんの?」
「被せてるんです」
「恋人なのでね」
私が当たり障りなく答えたが、辰巳さんは野中くん…下の名前が思い出せない…に多少当たりきつめに恋人だからと付け加えた。
「え、まじ?」
「マジですよ、羨ましいでしょう」
「美人な彼女とかいいなぁ!俺もちゃんと岩瀬にアプローチしておけば良かった」
ん?と思い野中くんをまじまじと見つめる。
野中くんは言った。
「俺さぁ、多分岩瀬の反応を見るに記憶にも残ってないっぽいけど岩瀬が好きだったんだよね」
「え…」
「ねえ、さすがに結婚とかしてないよな」
「してないですけど」
「じゃあアプローチしてもいい?」
恋人だと言っておろうに気持ち悪いことを言う野中くんにドン引きしていたら、辰巳さんは私を引き寄せて肩を抱いた。
「ラブラブなので無理ですね」
「ちぇ!まあいいや。レジお願い」
「はい」
レジ打ちを終えると、野中くんは帰っていく。
が、その前に余計なことばかり言っていった。
「またな、岩瀬。あ、百合って呼んでもいい?」
「いや、岩瀬でいいです」
「百合、また明日も来るからな!」
「ええ…」
ドン引きな私はそのままに、彼は楽しそうにして帰る。
「…なんなんですかあの男。腹立ちますね」
「空気読めないタイプでしたね」
辰巳さんは割とガチギレ寸前な雰囲気なのでクールダウンさせる。
「辰巳さん、辰巳さん。今日は廃棄品で甘いもの譲っていただけるそうですよ」
「おや」
「帰ったら一緒に食べましょうね」
「…ふふ、ええ」
よし、とりあえず怒りは治った。
もう二度と野中くんは来ませんようにと願うばかり。




