文化祭
「ねえ、百合」
「どうしました?辰巳さん」
「なんか、今日近くの高校で文化祭をやるみたいですね」
ニコニコしながら辰巳さんがそう言った。
「ああ、文化祭…懐かしいですね。この時期にやるところも珍しいですし」
「百合はあの高校の卒業生でしたよね」
「はい」
「なんでも、卒業生やご近所さんの参加も大歓迎だそうですよ」
「へえ」
辰巳さんは、私に手を差し伸べる。
「行ってみませんか?百合」
私はその手を取った。
せっかく卒業生として参加するのだからと、辰巳さんは私を気合を入れて変身させた。
可愛らしい服に身を包み、髪を巻いて化粧をした私はネイルまでしてもらってバッチリ決まっている。
「さあ、僕の可愛い百合。行きますよ」
「はい、辰巳さん」
手を繋いで、文化祭に参加しに行く。
入場するときに、ご近所さんだという証に身分証を提示した。
入場して、学校内の出店を見て回る。
どのクラスも盛り上がっていて、なんだか懐かしくなる。
あの頃は今より冷めていて、そこまで楽しかった思い出もないが…。
「ねえ、百合。あのクラスの喫茶店に行きましょうよ!」
「ねえ、百合!ホラーハウスですって、入ってみませんか?」
「ねえ、百合!劇をやってるみたいですよ!見に行きましょう」
「ねえ、百合。バンド部の演奏があるらしいですよ!ちょっとお邪魔しましょうか!」
辰巳さんが引っ張り回してくれるので、なかなか楽しめた。
青春ってこんなものなのかなとふと思う。
「ふふ、楽しいですね。百合も楽しいですか?」
「…はい、辰巳さんと一緒なので」
「おや、それは嬉しいですね」
ニコニコ笑う辰巳さん。
その後も私たちは各クラスの出店を楽しんで、全部回った頃には終了時刻だった。
「ああ、楽しかった。百合を引っ張り回した甲斐がありました」
「ふふ」
「いい思い出にはなりましたか?」
「はい」
「それはよかった」
頬を撫でられる。
「僕も、良い思い出として今日のことは覚えておきましょう」
「辰巳さん」
「来年の今頃は、君は僕の血肉となっているでしょうからね」
ちょっとだけ、寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「…僕の百合。どうか、もっと僕を魅了してください。君をみているとお腹が空いて仕方がなくなるほどに」
「はい、もちろんです」
「…君を食らうのが、楽しみです。ずっとこうしていたい気持ちもありますけど、ね」
そう言って微笑まれるとなんだか胸がぎゅーっとなる。
これはどういう感情なのだろうか。
「…さあ、帰りましょうか」
「はい、帰りましょう」
手を繋いで家路につく。
この幸せの儚さは、今は忘れていたい。




