いじめっ子
コンビニバイトをしていれば、当然会いたくないお客様にたまたま会うこともあるわけで。
「…あ、岩瀬さん」
「いらっしゃいませ」
目を合わせないでやり過ごそうとする。
彼女は今大学生のはず。
今でもパリピ集団の中でお姫様をやってるんだろうか。
「うわぁ、岩瀬さんコンビニバイトで食いつないでるの?可哀想」
「そうですか」
「ねえねえ、今どんな気持ち?惨め過ぎない?私だったらストレス過多で死んじゃいそう」
なら今すぐ死ね。
…なんて、さすがにお口が悪すぎるか。
「お客様」
「え、めっちゃイケメン!」
「僕の恋人に絡まないでくれます?」
「…え?…あ、辰巳くん?」
ああそうだ。
周りの人には偽の記憶が流れ込んでるんだった。
ずっと一緒にいた幼馴染だった設定だから、当然彼女は辰巳さんを知っている。
「誰でしたっけ、貴方」
「玲奈だよ!覚えてない?」
「記憶にありませんが」
そりゃそうだ。
初めましてだもの。
「もう、岩瀬さんのお友達の玲奈だよ!」
「ああ、百合の全てを否定して自己肯定感を無駄に低くしてくれた玲奈さんですね」
「なっ…」
はっきり言うなぁ。
今の一瞬で私の記憶を覗き見たらしい。
「岩瀬さんになにを吹き込まれたのか知らないけど、そんなんじゃないよ!」
「百合からはなにも聞いてませんよ。ですが、ずっと側にいたのだから気付きますよ」
嘘つき。
でも、守ろうとしてくれるのは嬉しい。
幸い深夜で他のお客様もいないから誰にも迷惑かけてないし。
「…っ、でも、ね、辰巳くんには岩瀬さんより私の方が似合うよ!なんか恋人とか言ってたけど、やめた方がいいよ、私にしておきなよ!」
「お言葉ですが」
辰巳さんが、私を抱きしめて言った。
「大学生にもなってまだ高校の頃の上下関係が通じると勘違いするようなイタイ女より、百合の方が何百倍も可愛いので無理です」
「なっ…」
「しかも貴女、百合が自分より可愛いのに嫉妬して虐めを開始しましたよね。百合の悪口をあることないこと言いふらして、孤立させて。惨めなのは、そんなことをしてもなお百合に何一つ勝てない貴女の方ですよ」
「…っ、クレーム入れてやる!」
辰巳さんが私を離す。
「大丈夫でしたか?百合」
「はい、あの…」
「ん?」
「私の方が可愛いから虐められたってマジですか?」
「あの女の記憶を見る限りマジです」
「わぁ」
てっきり捨て子だからかと。
でもそっか。
そんなくだらない理由だったのか。
「ふふ…っく、はははははっ」
「百合?」
「そんなくだらない理由だったんですね」
虐められた記憶は、私に暗い影を落としていたけれど。
「なんか、どうでもよくなっちゃいました」
「…ふふ、そうですか。スッキリした顔ですね」
「はい、スッキリしましたから」
「では、もう僕に食い殺されたくはない?」
「それとこれとは別ですが」
そう、それとこれとは別。
私は辰巳さんに食べられたい。
「おやおや、本当に素直な子だ」
「えへへ」
「さあ、バイト中ですから仕事に戻りましょう」
「はい」
その後玲奈さんには本当にクレームを入れられたらしいが、なにやら監視カメラを確認して事実ではないと突っぱねられたらしい。
どうも暴力を振るわれたとか嘘ついたらしい。
なぜバレる嘘をついたのか。
そんなに悔しかったのだろうか。
ちょっとだけ、ざまぁみろと思ってしまった。




