カフェ
「百合」
「なんですか?」
「カフェに行きませんか?」
「カフェ?」
カフェなんて行ってどうするんだろう。
「なんか、ほら。デートらしいことしたくありません?」
「ああ、そういうことですか」
「可愛い君と甘いケーキを堪能したいです」
辰巳さんがそれを望むなら。
「いいですよ、行きましょうか」
「よかった!では行きましょう」
手を繋いで二人で近くのカフェに向かう。
入ったカフェは静かで落ち着く雰囲気。
「百合はどれにしますか?」
「じゃあ、いちごのタルトとカフェオレで」
「僕はミルフィーユにしますね。あとブラックコーヒーで」
食べたいものを決めたら、注文をして届くのを待つ。
「楽しみですね」
「辰巳さんは甘いものが結構好きですよね」
「ええ、好きですよ。百合も好きでしょう?」
「え」
「甘いものを食べるときは、幸せそうな表情になってるんですよ。自分で気づいてませんでしたか?」
…気づいてなかった。
「その顔は気付いてませんでしたね?」
「はい」
「せっかく働いて稼いでるんですから、好きなものを食べましょう?」
…好きなものを食べる、か。
「でも、女の子らしいものは似合わないので」
「おや?君は本当に自己評価が低いのですね。女の子らしいもの、似合いますよ。今だって、スカート似合いますし。ネイルも似合います。可愛い系の化粧も似合いますよ。今の君はまさに『可愛い』です」
「そ、そうですか」
熱弁されて驚く。
でもそうか、辰巳さんから見るとそう見えるのか。
それはとても…嬉しい。
「それなら、よかった」
「ええ、だから甘いものが好きなのも隠す必要はありません。君はそのままで可愛い。おしゃれをすればもっと可愛い。甘いものが好きなところも可愛い。僕はそのままの君が好きです」
「…えへへ」
照れてしまう。
でも嬉しい。
そこで店員さんがケーキとコーヒーを運んでくれた。
聞かれてたかな。
「…いただきます」
「いただきます」
一口食べると、甘さが口いっぱいに広がる。
美味しくて頬が緩む。
「ほら」
「え?」
「そうやって、甘いものを食べて綻ぶ顔が好きです。僕はそんな君が好きです」
…直球だなぁ、もう。
「私も、そんな風に言ってくれる辰巳さんが好きですよ」
「でしょう?」
…軽く受け止められた。
でも、それでいいや。
「辰巳さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
この日から私は、辰巳さんの前では甘いものを遠慮しなくなった。




