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心欠次元   作者: 巳原 夜
6/15

6 救済


―――翌日


照は病院に向かっていた。

学園から歩いて10分ほど。

『倫全病院』

ここは、浄貫師や貫化された者が負傷した時に運び込まれる特殊な病院である。

患者が来院するのはまれなため、働いているのは医者と看護師1名ずつ。

普段は倫理的にどうかと思うが雀荘の看板を出している。

そっちの方が儲かっているらしい。いや、どうなんだ。


照はゆかりの病室を訪れた。

病室には4つのベッドが設置されているが、もちろんゆかりしかおらず個室状態だ。


「こんにちは、お邪魔します」


窓際のベッドに身体を起こして座っているゆかりの前に百合音と天狐が座っていた。


「おう、照。来たか。」


百合音が照に気づき挨拶をかわす。


「照くん、こんにちは。ゆかりさんのお見舞いですね、さここどうぞ」


天狐は自分が座っていた椅子を照に譲り、一歩下がって立つ。


「こんにちは、百合ちゃん天狐さん。ありがとうございます。」


照はゆかりの前に座り、具合を尋ねる。


「ゆかりさん、怪我の具合はどうですか?まだ痛みますか?」


するとゆかりはパジャマのそでをまくり腕を見せながら


「もうこの通り全然大丈夫です。ご飯も病院だと思えないくらい美味しくて!もりもり食べてます」


「それはよかった。あの時近くにいたのに何もできなくてごめんなさい」


照は自分の不甲斐なさを詫びた。


「気にしないでください。私もたくさん人がいたら大丈夫かな、って油断しちゃったんです。」


「あの・・・隆は、隆はどうしてます?なんだかあの時様子が変で・・・」


ショックで記憶があいまいなのだろう。貫化された隆を見たはずだがそれは思い出せないようだ。

すると照の後ろから天狐が隆のことを


「隆さんは心配いりませんよ。自分の罪を受け入れて償い、もう一度違う場所でやり直すと言っていました。それと、すまなかったと・・・」


「そうですか・・・よかった。私もいけないんです。彼には身寄りがなくて、どこか拠り所を求めていたと思うんです。でも、私じゃ受け止めきれなかった。私にもっと強い気持ちがあれば・・・っ」


ゆかりはなおも隆に後ろめたい気持ちがあるのだろう。まだ自責の念が拭えない様子である。


「いいや、暴力を正当化しちゃいけない。あんたもあいつにちゃんと言ってやるべきだった。言葉で伝えろって」


百合音がばっさり正論で返す。


「こらこら百合ちゃん。ゆかりさんもまだ全快ではないからね。でもね、ゆかりさん。あなたは自分の無力を感じ、愛する人を失っただけではありませんよ。」


天狐はやんわり百合音を窘め、ゆかりに自分を責めるのはやめるよう伝える。

すると、天狐の胸元がもぞもぞ動き始め、ふさふさとした耳が現れた。


「くぅん」


「わっ子犬?あ、でもなんか凛々しいな!狼?かわいい!!!」


ゆかりが天狐の胸元から見えるふさふさした生き物を見て目を輝かす。

照も振り返り、小さな狼の頭をなでる。


「狼ですね、かわいい。あれ、ゆかりさん見えてる?」


「はい・・え、見えちゃまずいもの?わっふさふさ~!」


小さな狼は天狐の懐から飛び出してゆかりのベッドに着地した。ゆかりに撫でられるのが気持ちいらしい。すりすりと尻尾をゆかりの顔にすり寄せている。

その間、天狐は百合音と照にだけ聞こえるよう小声で説明する。


「貫化された者に触れたものは、まれに守護神が見えるようになるんです。それはゆかりさんにとって身近な人だったかもしれませんね。」


なるほど、と二人はうなずく。

ゆかりは小さい狼を撫でながら決心したように天狐に言う。


「ふふ、君かわいいね・・・。天狐さん。私にも何かできないでしょうか。私みたいに苦しんでいる人は他にもいると思うんです。最悪の事態になる前に救ってあげたい。大切な人を失う悲しさは嫌というほど分かりましたから・・・」


湧いてくる思いが止まらず続けて


「だって彼、怖い顔して私の首を絞めながら最後、泣きながら『ごめんね』って言ってたんです。とっても苦しそうだった。」


ゆかりの目にも涙が湧いてきて、顔を伏せる。顔をつたったしずくが手元にいる狼の額に落ちた。

狼は一瞬びくっと身体を震わせたが、ゆかりの顔をみてこっちを見ろというふうにかしかしと前足を動かす。


「教会に行くといい。あんたが探している答えが見つかるかもしれない。」


百合音が守護神が見えるゆかりにできることがあると、教会に来るよう誘った。

教会では、守護神を保護している。出会うべき人間を待って。

天狐と百合音は教会で生活しているのでそれもあって提案したのだろう。


「教会・・・うん、私頑張ってみます。」


ゆかりは決心するように3人を見る。ベッドの上で小さな狼は安心したように寝息をたてはじめた。


――――――


病室を出た照は病院の屋上へ向かった。


「はぁ、風が気持ちい~」


病院は独特の匂いが充満しており、ちょっと息苦しい。

深く深呼吸して見慣れた町を見下ろす。

天狐が言っていたことを反芻してみる。


『貫化された者に触れたものは、まれに守護神が見えるようになるんです。』


僕も自分が気づかないところで接触があったのだろうか。そうだとしたらそれはいつ、どこで・・・・・?

今までの記憶を振り返ってもそんな出来事はなかった。



「よぉ、照!ここにいたか」


もんもんと考えている照の背中に声をかけたのは受鈴だった。後ろに父の律もいる。


「あ、受鈴くん、律さん。」


「照も見舞い?俺と父さんも今病室行ってきたとこ!」


受鈴は後ろの律を親指で指差しにかっと笑った。


「もう元気そうでよかったな、明日には退院できるそうだ」


律もゆかりの身体を心配していたのだろう。安堵の笑みを浮かべた。


「それはそうと、照!あの訓練の日、どこにいたんだよ!」


受鈴はあの時、無次元で照の気配を感知できなかったのを不審に思い聞いた。


「あぁ、あの時わしが見つけたんだよ。ゆかりさんのいたカフェでな」


律はその時のことを思い出すように顎に手を当てて言う。


「あ、そうなんだ。父さんと一緒だったのね。有?無?」


受鈴はどっちの次元にいたのか律に聞いた。


「あれは有次元だったな」


律が答える。


「また並行移動か~」


受鈴は残念だ、と頭を抱える。次元内の移動は平行移動といつも言っている。無次元への調律は成功したことがない。

たまに休日照の調律の練習に付き合っている受鈴はそろそろ成功を願っているのだ。


「ここから500キロ離れたところだな」


「「え??」」


驚いた照と受鈴が大きな声をだした。


「いや、訓練した調波師でも一回の移動の限界は100キロでしょ?照何回もやり直したの?」


「いや、一回だけ・・・だったと思うけど・・・」


常識ではありえないことが起こったのだと二人は黙ったまま見つめ合う。

1分くらいお互い首をかしげながら見つめ合った。


「ま、照ならそんなこともあるか!いつもとんでもないとこ飛ぶしな!!」


受鈴は考えてもしゃーないかとからっと笑い次の瞬間には腹減ったーと気持ちが移っていた。


「そんなこともある・・よね・・・」


照もまさかね、と忘れるよう今晩のご飯のことを考えるよう意識を切り替えた。











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