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心欠次元   作者: 巳原 夜
13/15

13 開放

 

 無次元で(かげり)が不穏な動きを見せる裏側、有次元ではまだ対戦が続いている。歌火(かか)(らい)は、雷が難なく勝利したが、歌火の才能が光った対戦でもあった。

 続いて、山田と対戦したのは、山田の次に年齢が大きい蛇沼(へびぬま)という男性だ。彼は20代後半の調波師(ちょうはし)を目指す学生だ。目立った才能や特筆する能力はないものの、調律に安定感のあるのが強みだ。

 一方、山田はいつも歌火と一緒にいて彼女の心配しかしていないため、実力は未知数であった。


「それでは次の対戦は山田無蛾(やまだむが)蛇沼尚己(へびぬまなおき)。前へ」


 羽留人の号令で二人がフィールド中央へ向かって歩いていく。


「歌火様、行ってまいります。」


 山田はここでも丁寧に歌火に伝える。歌火はがんばれよ、山田!と勢いよく送り出す。


「なぁ歌火、山田サンはどんな能力もってんだ?あたし走ってるとこもみたことねーかも」


 百合音(ゆりね)が歌火に探りを入れる。


「うーんとね、歌火も山田が戦っているところは見たことない。でも蝶々がたくさんきれいだよ!」


「蝶々・・・?」


 戦闘には不釣り合いな単語が出てきて百合音は首をかしげる。どんな戦い方をするのか俄然興味がわいてきた。年齢的にも耐久時間は限られているだろう・・・


「では、始め!」


 羽留人(はると)が対戦開始の合図をした。次の瞬間


「ゔっ・・・あ゛ぁあああ」


 蛇沼が頭を抱え唸り始めた。観戦席の方ではなにが起きたのか分からない。しかし、守護神が見える照と百合音は蛇沼の周りを蝶々がひらひらと優雅に舞う姿が見えた。それだけだ。


「蝶々が・・・」


 (てる)は不審に思ったが、自分たちより近くにいる羽留人が止めないのだから正当な力なのだろう。蛇沼はうずくまりなおも唸り続ける。


「蛇沼くん、私もこれ以上見ているのが辛い。降参してくれんかね」


「う・・・・俺は・・・何も・・して・・・い」


 蛇沼は苦悶の表情と何もできない悔しさとを顔に浮かべながらもこれ以上は無理だと悟ったのか降参の言葉を放った。


「参り・・・ま・・した」


その言葉を聞いた瞬間、山田の顔からは緊張が消え、蛇沼の周りに飛んでいた蝶々もいつの間にか姿を消していた。


「え!何が起きたんだ?」


 守護神(しゅごしん)が見えない受鈴は何がなんだか意味が分からないといった様子だ。他の者も同じで蛇沼が勝手に苦しみだしてすぐ降参したようにしか見えないかっただろう。照は、変わった周波数を感じ取っていた。とても不快な。あの蝶々が舞う度に心がざわつき、胸をかきむしりたくなる衝動があった。おそらく調律で彼に最大限の不快感を与えたのだろう。謎な男である。


「や、山田無蛾の勝利。」


 あまりの早さに羽留人も驚いている。


「私が蛇沼くんを医務室に運びます。よろしいですか?」


「あぁ、はい。ではお願いします」


 羽留人はまだ対戦が残っているため、蛇沼を山田に託すことにした。山田が蛇沼に肩を貸し医務室に向かっていくのを見送り気を取り直して対戦を再開しようとする。


「で、では次で最後か。尊堂照(そんどうてる)東条海斗(とうじょうかいと)二人は前へ」


 最後の対戦である。海斗はやっと自分の番がきたと腕を伸ばし、準備体操を始める。


「よし、やっとだな。尊堂、今のうちに降参してもいいんだぞ」


「い、いややってみないと分からないから!」


 海斗は照に何ができるのかと全身をなめるように見る。照は海斗の攻撃に備え、両足を大きく開いて両手を胸の前で構える。


「最後の対戦だ。二人とも健闘を祈る。始め!」


 羽留人の合図でまず二人はお互い接近して組手を始める。海斗が拳や蹴りを撃ち込む一方、照は受け身を取り防戦一方だ。二人ともまだ調律は使わない。照は、調律をコントロールできないため、うかつに使えない。なんとか海斗に反撃したいと思うがなかなか糸口が見えない。


「受け身取るだけじゃ勝てないぞ、っおらぁ」


 海斗の拳が照の腹に一発入り、後方に吹っ飛ぶ。照は、受け身を取れず、背中から地面に転がったがすぐ起き上がる。片膝と片手をついて何とか身体を支えている。


「っく」


「次、いくぞ」


 海斗は両手を前に出し手のひらを照の方に向ける。その手を空でスライドすると水の膜が現れた。海斗は調律で水を操る。


「調律できない尊堂のために教えてやるよ。この次元では一定の周波数が流れている。こんなふうにな」


 すると海斗の前にある水の膜がドッドッドッど振動し始めた。何回か繰り返すとリズムがどんどん変わっていく。海斗は水を通して調律することで次元へ物理的に変化を与えることができるのである。


「そしてこんなふうに使うことができる。はっ」


 水の膜から水の弾が照に向かって発射される。それを照の頬にかすって通り抜ける。3秒ほど遅れて

たらりと頬から血が流れる。


(どうしたら・・・これじゃ海斗くんに近づけない)


 どんどん打ち込まれてくる水の弾を避けるので精いっぱいだ。一か八かだが、受鈴と練習した近距離移動の調律を使ってみるしかないと照は足をとめ集中する。


(水の音を聞くんだ。どこに移動すればいいかはこの次元が教えてくれる・・・)


 照に向かって飛んでくる水の弾。もう避けられないと海斗は油断したとき、急に照の姿が消えた。


!?


 海斗は左右を見渡しどこに消えたか探す。


(どこだ・・・)


「ここだよ」


声がした方を向く。上だ。


「うっ」


 不意をついた照の攻撃が海斗の頭部に入る。かと思ったが彼は頭に水の膜を張り、衝撃を和らげている。海斗は態勢を立て直し水を発射し照を吹き飛ばす。


「まずは、俺に一撃くらわせてみろよ」


 またもや吹き飛ばされ、地面に転がった照に向かって仁王立ちした海斗が言い放った。







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