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心欠次元   作者: 巳原 夜
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 歌火(かか)(らい)の対戦が終わり、全く違う能力・戦い方を目にした照たち。生命が発する力の壮大さに途方に暮れ、またまだまだ自分たちの可能性を感じたのであった。

 歌火は雷に起き上がらされ、勝負には負けたがぴんぴんしている。観戦席に向かって歩き始めた。山田が出迎え、歌火の努力を労う。


「歌火様、立派でございました。ささ、こちらに座って次の対戦を観戦いたしましょう。」


「うん・・・」


 山田が声をかけるとさっきまで元気だった歌火の表情が曇り始めた。


「・・・しい」


「・・・?歌火様どうされました?」


「くやしいっ!・・うぅ、うわぁぁあああああん」


 山田の顔を見て安心したのか、みんなには見せなかった緊張の糸が切れたのか歌火は大粒の涙を流し泣き始めた。


「あぁ、歌火様。そうですね悔しいでございますな・・・」


 慣れていはいるが、どうすることもできない状況に山田もうるうるしてきた。


「ゔぁぁぁああああああん」


「歌火様、いい戦いでありましたよ!!あと7年ほど鍛錬を積めば勝てるかと・・・!」


「山田さんそれ全然フォローになってないような・・・」


 山田のイマイチなフォローに受鈴(じゅり)が苦々しくツッコミを入れる。その間に歌火はひとしきり泣いて落ち着いてきたのか、鼻をすすって涙を拭いている。


「・・・・ん!」


 歌火が顔をあげると、それを見たみんながほっとしたような、これから面白くなるなるだろうと期待するような表情をした。歌火はもう前を向いていた。悔しいといつまでも駄々をこねる子どもではない。それは他の同年代の子ども達と異なる能力を持った時点で覚悟していたことなのだろう。気持ちの切り替えが早いのは歌火の頼もしい長所であることには違いない。


 遠目で歌火の泣き声を聞いていた羽留人(はると)は雷に今回の対戦の感想を聞いた。


「雷、今回はやりづらかったろ。」


「いえ、とても勉強になりましたよ」


 雷はいつもと変わらない微笑みを返す。羽留人は雷の余裕の様子少にしいじわるをしたくなり、言い返す。


「俺はお前が焼け死ぬかと思って心配してたんだぞ」


 すると、さわやかな表情は崩れなかったが、こめかみあたりがぴくっと動き


「まぁ、そうですね。自分が落とした雷で死ぬのは本望ですよ」


 食えない男である。歌火の攻撃はなんともなかったと言いたいのであるのだろうか。さわやかな男だと思っていたのにプライドはあるらしい。


「でも・・・彼女はこれからの有次元を先頭に立って引き継いでいく存在になっていくのでしょうね


 今度はあっさりと、いずれ彼女に敵わなくなると認めるような発言。


「八雲もこれからだろ。鷹人(たかと)のためにも頼むよ」


「はい。」


 鷹人は羽留人の守護神であり、生前は唯一の弟であった。生きていたら雷と同い年であるため、羽留人は雷に個人的な思い入れもあるのだろう。



「さ、次の対戦始めるぞー」


 羽留人が学生たちに準備をするよう声をかける。次はどんな戦いが見れるのか、どんな成長が見られるのか、師としてこれ以上期待しているものはない、と心が身震いする。さぁ、次だ!




――――――――


 (かげり)は、背もたれの高い豪勢な椅子に足を組んで座っていた。右手の甲で頬を支え、気だるそうにつぶやく。


「先ほど、私の欠片のエネルギーをこの無次元に感じた。今までなかったことだ・・・」


「翳様の欠片・・・それはどのような意味が・・・?」


 側に控えていた御調(みつぎ)が翳に問う。彼は片目を眼帯で覆っており、障害のない方の目で翳を見ている。


「私の欠片が無次元に存在することはありえない。今までもそうだったのだからな。おそらくそれと接触した者が残滓(ざんし)をまとい無次元にきたのだろう。探していた奴は見つかったか?」


「はい、こちらに連れて参りました。」


 御調が自分の横にいる男を示し片膝をついて翳に叩頭する。


「へい。旦那がオラの知っている情報を聞きたいとうかがったんですが・・・?」


 男は三十代前半といったところだろうか、身体は日に焼けていて袖からはたくましい腕が見える。日々外で仕事をしていることを覗える容姿であった。


「そうだ。わたしのことを町で見かけたらしいな。その時、怪しい者がいたそうだな」


「へい、そうでさ、そいつ町のはずれにいきなり現れたんだ。ぱっとね!」


 男は大げさに腕を広げてその時のことを説明する。


「不思議に思ったオラはそいつのことをつけて町に入ったわけ。そんで旦那が狼をひと突きしているところを見ていて、オラもびっくりしたもんで・・・気づいたらそいつはいなかったんでさ」


「そうか、消えた先は?」


「さ、さぁそれは知らねぇ・・・ところでいくらか報酬はもらえるんだろうな。ここまで来るのに今日は仕事休んじまったんでその分はもらわねぇと」


 それを聞いた翳はうんざりした顔をしたが、にやりといいことを思いついたというふうに話し始めた。


「お前は、泳ぐのが得意らしいな」


 いきなりの話題に男は一瞬きょとんとしたが、自分の得意分野の話題を振られ意気揚々と話はじめる。


「そうなんでさ、オラは村で一番の泳ぎ手でどんな荒波でもものともしない男と言われてるんだ。それで家族にも食わせているんでさ!」


「ほう、そうか。それはすごいな。どんな状態でも?」


 翳は含むように男に問う。


「どんな状態でも!問題ない・・・っつ!?」


 意気込む男が急に痛みのため顔を歪めた。痛みのある胸に手を這わせていくと真っ赤に染まった手が見えた。その胸には深く刃物が突き刺さっていた。


「え・・・・こ・・・れ・・・に?」


ばたっ


男はうつ伏せで地面に倒れた。目と口を開けたまま信じられないという様子だ。いや、もうこと切れているのかもしれない。



「泳ぐのが得意なら川に泳がしておけ」


 翳は御調に命令し、もう興味はないと手を振って行けという仕草をした。


「御意」


 御調は素早く男を抱きかかえ闇に消えた。


「さぁ、今度はどうなるかな」


 無次元の生き物を殺すと貫化された有次元の生き物に影響を与えることを翳は知っている。知っていて楽しんでいるのだ。冷ややかな笑みを口元に浮かべ闇を見据える。


 






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