11 未知数Ⅱ
「らいらい、まだまだこれからだよ!たくさん遊んでよ!」
歌火の攻撃が次々と出され周囲は炎の熱と爆発の煙で満たされていく。
「くっ」
(これだと視界が全く分からない・・・煙だけでも消さなくては)
雷は煙を吸い込まないよう腕で口元を覆いながら態勢を低くする。
(風・・・)
風の流れを意識し集中する。すると、フィールドの雑草が風に揺られて動き始めた。
雷の調律は気圧・天候の変化を生じさせる。緩やかにそよぎはじめた風が徐々に勢いをつけて渦まいていく。竜巻が発生した。
「うわっ風が強い!」
受鈴と照は飛ばされないよう支え合い中ではどんな様子なのかを覗う。
「うひょー竜巻!火消えちゃうかな~」
歌火は自分が放った炎が竜巻によって消されかかっているがあまり気にしてないようである。次の展開のため手をうってあるというのか。
ごぉおおおおお
ひゅーーーーーん
しばらくすると竜巻が全てをなぎ払って再びまっさらなフィールドに二人が向き合った。雷もまだ無傷の状態で立っている。
「ふーん、らいらいやっるじゃーん」
「歌火もね、でも花咲かせて燃やすなんてかわいそうなことするなぁ。かわいい花は愛でないと。僕が風を自在に操る限りその技は二度は通用しないよ」
「らいらい いじわるっ!」
雷の挑発を真っ向から受けて立つ。さっきの技で大抵の人は黙らせてきたのだろう。するとすっと日陰になった。空を見上げると厚い雲が空を覆ってきた。灰色の雲はどんどん空に広がっていく。
ぽつ・・・ぽつぽつ
ザァー―――
雨粒が頬に当たったと思ったら、次の瞬間大雨が降ってきた。
「これでもう燃えないね。歌火、どうする?」
雷は雨雲を発生させ、雨を降らせたのだ。殴り合わないならその方がいいと思うタイプなのである。勝ち目はないと思わせて『参りました』の一言を言わせようと考えているらしい。
「勝つのが絶対的な正解ではないんだ。失敗や負けから学ぶこともある」
歌火は俯いてじっと固まっている。この状態では、火も出ない、陽がないと花も咲かない。
万事休すかと誰もが思ったその時。山田がぴくっと反応した。
「皆さん!耳栓のご準備は!?」
?
山田が観戦者たちを見まわし、すぐ耳栓をするよう急かす。これから何が始まろうというのか。もうほとんど勝負はついているかのように見えるが・・・
「か・・・・」
「か・・・・?」
歌火が何かつぶやいた。全員が耳をすまし、歌火を凝視する。
「花花花花ーーーーー!」
いきなり歌火が叫び始めた。ものすごい音量である。耳栓をしていても鼓膜がビリビリと振動している。
ゴゴゴゴゴっ
地鳴りがし、歌火の立っているところから雷のところまで地面に亀裂が入る。その隙間からにょきにょきと緑の植物が芽吹いていきた。ぐんぐん伸びるそれは、雷の頭を通りこし全長10メートルほどにも成長した。大きなつぼみが頭を垂れている。
ぱんっ
歌火が両手を併せ手を打つと、そのつぼみがゆっくりと空を見上げ大輪の花を咲かせた。照が両耳を抑えながら信じられないというふうに花を見上げる。
「すごい、これは相当エネルギーをそそぎこんでいるね・・・」
「かぁ~これありかよ、てか山田さんの耳栓なかったら失神しているな」
受鈴も相当”音”の圧がきついらしく顔を歪めながら言う。
ぱんっぱぱん
歌火の手拍子で次々と大きな花が咲いていく。雷は咲いた花を見上げその大きさに目を細める。
「ははは!楽しいね!」
歌火はまだ全然あきらめてないようである。どんどん力を解放している。
「火火火火ぁーーー!」
今度はまた花が燃え始めた。燃える規模が大きいため最初とは比べものにならないくらい大炎上である。観戦席の方までその熱は届き、全員後ずさる。
「歌火様は匙加減がまだででして・・・」
山田もこれはいかんというふうに心配そうにおろおろしている。
「くっ勢いが・・・これ止められるか・・・?」
雷は再びの火炎と爆発に対抗しようとまた雨を降らせた。しかし、火の燃え上がりが強く、全く消える気配がない。
「八雲の雨は時間がかかるな。津波でも起こさない限り無理なんじゃないか?」
医務室から戻ってきた百合音が状況を把握し、つぶやくが受鈴が窘める。
「だから物騒だって・・・」
このままだと雷は炎に焼かれて炭になってしまう。長引くようであれば救出しなければならないが・・・赤々と勢いが衰えることのない様子に次第にざわざわと不安の声があがる。その時照には雷の口元が笑ったように見えた。遠いので定かではないが・・・・
ゴロゴロゴロ
空が唸り始め
ゴロドッシャーーン
閃光が走り、次の瞬間耳をつんざくような轟音が響きわたる。
そして何かが落下したのか地面が大きく揺れる。
「か、雷だ・・・」
一筋の雷が空を切り裂き、炎の中に突き刺さるように落ちてきた。照は驚き続きの展開にもう唖然とするしかない。その雷は一瞬で炎を消し去る。周りは黒く焼き焦げ、雷が落ちた場所は深くくぼんでいた。歌火も口を開いたまま固まっている。
そのまま受け身も取らず後ろに倒れていく。
とさっ
背中から地面に倒れ、呆然と空を見上げている。
「かか・・・かかかかーーーー!」
急に歌火は笑い出した。ツボに入ったかのように笑い続け、涙まで出てきている。雷は一瞬歌火の行動に驚いたが、ふっと微笑んで歌火が横たわっているところに向かってゆっくり歩いていく。笑い続けている歌火の顔を覗き込む。
「らいらい!すごい!・・・参りました!」
歌火はにかっと笑い敗者の言葉を告げる。なんともさっぱりした決着だった。二人とも傷つけることがこの訓練の目的でないことを理解したらしい。現状歌火の全力はまったく雷に歯が立たなかったのである。
「歌火もすごかったよ、びっくりした。」
雷はさわやかに賞賛し、手を貸し歌火を起き上がらせる。
「勝負ありだな。第二対戦八雲の勝利!」
第二対戦は八雲の勝利で終わった。二人の性質は、自然の摂理に則り、生命を加速させも減退させもする。また、大いなる力の前では全てが消え去ってしまうことも全員に知らしめられた対戦であった。