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7話 いつか見る景色②

"フォン"


 景色が変わった。場所は変わらず広場のようだ。ただ、人が増えた。

 老若男女、年齢性別の偏りなく様々な人が集まっていて、みな共通して一方向を見つめている。

 視線の先にあるのは、例の処刑台だ。ついさっきまでは未完成だったはずのステージは完成されており、その上には複数人の人の姿。一人は……処刑人だろうか。革袋を頭にかぶって顔を隠された男性の姿と、警備要員であろう騎士とは見るからに格の違う騎士が一人。聖騎士と言われて納得の姿だ。

 ステージへ続く階段には、手首を縄で括られた人々の姿。中には子どもも含まれている。そして列の先頭には、見覚えのある金髪の美女の姿があった。


”フォン”


 またも景色が変わり、周りにたくさんいた人の姿が消える。数秒前にも見ていた景色のはずだが、いくらか閑散とした印象を受ける。ステージは未完成なようで、作業員らしき人々がせわしなく動いている。

 

 今、何が起きた?


 景色が変わった。


 一言で言えばそうだろう。あの時と同じだ。牢屋の中で、一瞬見た広場の景色。たくさんの人がここにあつまる景色だ。なぜ今になってまた同じ景色を見た?

 直前、俺は何をしていた?

 まさに牢屋で見た景色のことを考えていた。あれは未来の景色なんじゃないか、とか。ということは、この謎の景色は未来のことを考えるとみることができるのか?


 ……いや、その可能性はかなり低い気がする。もしそうだとすると、牢屋の中で初めてこの景色を見た時も未来のことを考えていたことになるが……そんなことはないと思う。

 初めて見た時と、今に共通すること……。困り果てていた、とか?初めての時は現状を分析することができず困っていて、今はあの謎の景色について分からない過ぎて困っていた。

 

 ……これは結構いい線言ってると思ったんだけど、これもやっぱり微妙だ。この世界に来て、困ることだらけだったのになぜ2回だけこんな”現象”が起きたのか。トリガーとしては曖昧過ぎる。もし困り具合がある一線を越えると”現象”が起こるんだとしたら、その一線がどの程度なのかを検証する必要があるけど……面倒くさそうだなあ。

 そもそも、2回っていうのは回数が少なすぎる。見えるものも見えてこないだろう。今後も同じことを体験することに期待しておくほかにないが……。なんだろう、だんだん壁際に追い込まれているような、謎の焦燥感がある。悠長にしているとなにかが手遅れになりそうな、そんな感じ。

 仮に、”現象”で見た景色が未来の出来事なのだとする。その場合、実際にその出来事が起こるタイミングに俺がこの広場に居なかったらどうなるのだろう。

 その場合、次に見る未来はどうなるのだろう。

 もう一度”現象”が起こる保証のない現状で、こんなことを考えるのは無駄かもしれない。しかし、今後も続くなら間違いなく重要なことだ。

 とりあえず、今後は”現象”で見た景色は未来の景色だと考えて動こう。

 なんにせよ、今後の方針なんてものはなかったのだし、ちょうどいいや。

 おそらく、タイムリミットは処刑台が完成し、処刑が行われるその瞬間だろう。

 そのタイムリミットまでに……いや、ちょっとまて。

 俺はその処刑を阻止すればいいのか?遂行すればいいのか?

 どっちが正解だ。

 俺を誤認逮捕しやがった騎士への私怨で勝手に阻止しようとか思ってたけど、よく考えると未来を知ったところで行動の指針にはならなくね?

 ”命は大切”とかいうクソみたいな理由で処刑を阻止するわけにもいかない。処刑、ということはかなりの大罪人だろう。俺は正義の執行官じゃないし、この世界の裁判官でもない。

 国が違えば、価値観も違う。価値観が違えば、法律も違う。そこに異民族のおれが口出すべきではなくないか?


 ……わからない!

 というか、そう簡単に未来って変わるものなのか?順当にいけばあの未来にたどり着く。いや、順当にいかなかったらあの未来にならないって可能性もあるのか。

 その場合、あの景色で罪人として並んでいた人々の中に現状は捕まっていない人がいて、そいつを捕まえることであの未来にたどり着くことができる、とかになるのかな。

 だとすると……金髪美人は捕まっていたよな、既に。俺みたいに脱獄する可能性もゼロではないけど、そんなこと言ってたキリがない。可能性は低い、と考えておこう。

 その後ろにいた子どもも確か金髪で、背丈的には10歳程度……。


 ……ん?


 ……オレ、アイツ、シッテル。


 ほんの数時間前に追いかけまわして捲かれたアイツじゃん!

 なんで気づかなかった?というか、なんでアイツが処刑台に罪人として並んでるんだよ!

 いや、今思えばなにも不自然なことはないな。初めてアイツと会ったとき、俺もだけどアイツは兵士に追われていた。

 10歳前後の少女が複数の兵士に追われているなって、よく考えれば異常な光景だろう。

 あれ、だとするとなんで牢屋で見た”現象”の景色でアイツに気づかなかったんだ?あの景色で、罪人の並びの中に少女がいるのは明らかに異質だった。ゆえに、見覚えのある金髪美女よりも先に注目した。

 しかし初めてあの景色を見た時、「罪人の中に少女がいる」と思った記憶はない。

 見落とした?いや、この場合むしろ……。


 ”俺が見た景色は同じだったのか?”


 完全に見落としていた。2回とも全く同じ景色だと思い込んで、違う景色である可能性を排除していた。

 違う景色だとすると、未来が変わったということ。なぜ変わった。俺の行動の何が未来を変えたんだ?

 アイツを追いかけたことか?追いかけなかったら未来は変わらなかったのかもしれない。もしそうなら、俺がアイツを死に追いやったということになる。それは嫌だ。

 いや、まだだ。まだ未来は確定していない。未来をもう一度、変えてやればいい。もう一度未来を変えて、アイツを死ぬ未来から助け出せばいい。

 

 ならどうする。


 まず、今後アイツが捕まることは間違いない。この数時間の間につかまってしまっている可能性もあるが、その時はその時だ。

 現状、最初に行うべきはアイツの捜索と情報の収集だ。


 ・アイツの指名手配状の有無

 →あった場合、定期的に掲示板を確認して捕まっているか否かを確認する。なかった場合、処刑されるほどの罪人が手配されないことは考えにくいため、既に捕まっているものと判断し、方針を転換する。

 ・目撃情報を集める。

 ・少女が何者なのかを調べる。

 ・少女が手配されている理由を調べる。

 ・黒髪に関する情報を調べる。

 

 チャンスは今しかない。数時間歩く間で、掲示板を確認して『黒髪』の手配状は掲示板に張り出されていないことがわかっている。つまり、街の人々は『黒髪』は捕まったと考えている可能性が高く、手配状が張り出されていた時より活動しやすいと思われる。しかし、脱獄したことが発覚し再度手配状が張り出されるのは時間の問題であり、そうなると目撃情報を集めることすら難しくなる。

 情報集めをするなら人が集まるところ、というのがセオリーだけど、残念ながら地図すら読めないのでそれがどこかを知るすべがありません!

 ゆえに、歩き回って情報収集するほかない。

 しかし、あてもなくただ歩き回るのはあまりいい手段ではないだろう。いくらか検討をつけて歩き回る必要がある。

 幸い、あてはある。それはこの街に来て最初に訪れ、初めて会話した人物。武器屋のオヤジだ。

 あのとき、武器屋のオヤジは俺の髪色を見て「お前さんの黒髪はちと目立つ。今は特にな。」と言った。普通、黒髪を見たら手配犯だと疑うものじゃないか?しかし、オヤジが俺を疑っている様子はなく、言い方も「手配犯と間違えられるぞ」というようなニュアンスだった。まるで、俺が本物ではないことを知っているかのように。

 本物の『黒髪』ではない。そう判断できたのはなぜだろう。

 そう考えた時、もっとも可能性が高いと思われるのは、オヤジが本物の『黒髪』を知っている可能性だ。もしオヤジが本物の『黒髪』を知っているとすると、俺の目的である少女の発見に向けて大きく前進することができる。

 なぜなら、『黒髪』とあの少女が追われる理由には何かしら関係があると思われるからだ。

 俺が誤認逮捕される前、兵士に追われていた時、あの騎士は俺に魔法(ツタが生える奴。まだ魔法だと確定したわけではないが、今はあれは魔法だったと考える。)を使った。確実に捕まえることができる手段を、俺に使ったことになる。同時発動できた可能性もあるが、現に少女はあの場から逃げることができてつい数時間前に再会した。あの場の判断で、少女よりも俺を優先した。処刑されるレベルの重罪人よりも優先された理由は何だ。

 単に路地に逃げ込んだやつのほうが捕まえやすかったから?確かにそれもあるだろう。しかし、本当にそれだけか?

 そこで、『黒髪』は少女の脱獄を補助したために手配されている、という仮説を立ててみる。

 2回目の”現象”の景色で、少女はあの金髪美女のすぐ後ろにつながれていた。重要度としては金髪美女と同等か次点といったところだろう。そんな重要度の高い罪人の警備が緩いわけがない。その警備を突破し、脱獄させるだけの力を『黒髪』が持っているとするなら、何度少女を捕まえても意味がない。むしろ、そんな力を持っているやつに比べたら少女一人を捕まえることなんて赤子の手をひねるようにたやすい。

 ゆえに、同時に手配人二人を捕まえるチャンスが訪れたあの時、『黒髪』と思われる男を優先したのだろう。

 加えて、俺が脱獄するのを手伝ってくれたのはおそらく『黒髪』だ。兵士詰所の地下牢なんて、この町で五本の指に入るくらいに警備の厳しい場所だろう。重罪人を置いておくにはもってこいだ。それをやすやす突破し、警備を全員眠らせて俺が脱獄する余裕すら用意してくれていた。

 この「『黒髪』は少女の脱獄を補助したために手配されている」という仮説が正しかった場合、『黒髪』には少女を助ける理由がある。すなわち、『黒髪』と少女の間には浅くない縁がある。

 ゆえに、俺は少女を捜索するにあたって同時に『黒髪』の情報を収集する。そのための第一目的地が武器屋のオヤジ、というわけだ。

 

 ただ……親父がいる出店の場所、わかんねぇ。

 

 俺はいつの間にか、「ふりだしに戻る」のマス目にとまってしまっていたらしい。

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