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6.5話 お前の使命

遅くなってごめんなさい

今回は別視点のお話になります

 私は、登りたくもない階段を登る。

 つい2,3ヶ月前までは、喜んで登ったこの階段を登る足は重い。あの人に会えることを、あんなにも待ち遠しく思った自分はどこへ行ってしまったのか。

 きっかけは分かっている。16歳の誕生日だ。あの日、私は前世の記憶を取り戻した。

 それまでの私は……。


 思い出したくもない。

 考えるだけで鬱になりそうだ。恋は盲目?よく言ったものだ。的を射てる。


 ああ、あと1段登ると、そこにあるのは重厚な鉄の扉。その先では、あの人がいる。

 あの人の呼び出しだ。どうせろくなものではない。

 不思議なものだ。つい2,3ヶ月前までは、呼び出しを今か今かと待ちわびていたのに。今となっては、憂鬱以外のなんでもない。

 聞けば、あの人は少々お怒りらしい。

 その理由も知ってる。何も言わずに出かけていたことだろう。


「はぁぁーあ。」


 あー、本当に憂鬱。

 帰りたい、って言ってもこの城が今の住処だ。前世の世界に帰る?冗談でしょ。

 無理に決まってるし、戻ったとしても私の体は……。


 ガチャ、ギィィィ


 覚悟を決めて、鉄扉を押す。

 この扉、開くのに強い力は必要ない。見かけに騙されて強い力で押すと、勢い余ってよろけてしまうだろう。

 扉が完全に開ききる前に、私は隙間に体を滑り込ませる。せめて、あの人が私の存在に気づかなければいい。入ってきたことに気づかなければいい。

 気づいていなければ、私はすぐにあの町へUターンできる。ろくでもない任務を与えられることもなく。

 

「……お前の、使命はなんだ。」


 明らかに私に向けた言葉。しかし、意外とその声に怒りの成分は含まれていないように聞こえた。責任の追及ではない、単に私へ問いかけるために発せられた声だった。


 ああ、やはりこの人は私の声を呼んではくれない。


 どこかでそれを残念に思う自分に気づく。いまさら何を落胆しているのか。あの人に対する恋心はとっくに捨てたはずだ。

 いや、実際のところ完全に捨て去ることはできていないのだろう。

 ほんとうに、反吐がでる。どこまで自分は甘ちゃんなのか。この人は、私利私欲のために人間を、仲間を、家族さえも裏切ったクズ男だ。

 出会った当初、優しくて誠実な人なんだ、という印象を持ったことを覚えている。しかしそれは、この人が大量に持つ仮面の一枚に過ぎなかった。私はそれを、見抜けなかった。

 

「精霊をあつめること。」

「敬語はどうした?」

「……です。」


 今、この男はすべての仮面を外しているのだろうか。本性はクズ男だ。間違いない。しかし、私はどうしても、この顔の奥にもう一枚別の顔があるような気がしてならない。

 もちろん、警戒するに越したことはない。いや、警戒も何ももう二度とこの男を信用したりはしない。私が信用していないことも、勝手に何かをしていることも、この男は気づいているはずだ。しかし、この男が態度を変える様子はない。

 玉座に座った直後から、この男の私に対する態度は変わった。やさ男を演じる必要がなくなったのだろう。もしくは、恋に溺れた女は捨て駒でしかないと軽く見ているのか。

 

「はやく残りの五大精霊を集めてこい。」

「……承知いたしました。」


 人間を裏切るという選択に、私以外のパーティーメンバー全員が反対した。私が反対しなかった理由は、もうわかると思うが、最愛の人がそんなことをするはずがないと妄信していたからだ。

 その後、いくつかの任務をこなした。自分の行動が正義なのか、と疑ったことはある。しかし、自分にそうしろと”命令”した男を疑おうとしなかった。今はそれが恐ろしくて仕方がない。

 この城を抜け出して、与えられた任務をほっぽり出してこの男が生まれ育った町へ向かった。そこで見たのは、この男の実姉が裏切り者の血縁者として近々処刑されるという告知だった。

 世界中に使い魔を放っているこの男が、それを知らないはずがない。実際、私もその使い魔に見つかって、呼び出しを受けたのだ。呼び出し自体は念話だったが、集合時間が7日後という町から城までかかる時間とぴったり一致する時間だったことから、私がどこにいるのかは筒抜けだったことがわかる。

 やはり、この男は救えないクズだ。

 私は何としてもこの男を殺さなくてはならない。


 『裏切りの勇者』アルスレイ・ノル・エルグレシアを。

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