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4話 いつか見る景色①

誤字脱字チェックはしておりますが、もし見落とし等あれば教えていただけると幸いです。

あ、あと感想・いいねお待ちしてます。

 ぴちょん


 ぴちょん


 なにやら水の滴る音がして、目を覚ます。


「……どこだ……ここ……。」


 またも、謎の場所である。

 擦りむいた頬が、じんじんする。痛いな……。

 意識がだんだん覚醒してきて、どうしてこうなっているのかを理解する。どうやらここは牢屋の中のようだ。いかにもな鉄格子がはめられ、窓の1つもないのを見るにここは地下牢か。

 手錠ははめられていない。でもだからどうだといったことはなくて、どうしようもないのが現状である。

 というかそもそもなんで俺は捕まっているんだ。何かしたか。とりあえず、今までの経過を振り返ってみよう。

 自殺するつもりで家を出て、登校。真っ先に屋上へ向かって、嘔吐物まき散らしながら落下。死ぬと思ってたのに死ななくて、よくわからない青い世界で光と戯れる。で、はるか上空へワープして、気づいたら噴水の中。町を歩いていたらみんなが俺を犯罪者を見るような目で……!


「そうか!」


 わかった、これは誤認逮捕だ。そうかそれなら納得がいく。人々がこの黒髪に注目する理由も、あの騎士が俺を『黒髪』と呼んで追っかけてきたのも。おそらくだけど、同じような黒髪の指名手配犯がいたのだろう。そいつと俺の特徴が一致しているから、人々も騎士も俺を犯罪者と勘違いしたわけだ。あのクソ騎士が。ちゃんと事実確認してから逮捕しやがれってんだ。

 武器屋の店主が言ってた「黒髪が目立つ」ってのはそういうことか。ケモミミ少女が俺を「犯罪者」呼ばわりしたのはこういうわけか。


 ああー納得!


 ……ってなるかボケ!


 どこの誰だその黒髪野郎は!俺に罪擦り付けて今ものうのうと生きているわけだろう?腹立つ!

 どんな罪を犯したのか知ったこっちゃないが、一度会って殴りたい。

 どんな理屈があって俺がこんな目に合わなくちゃならねぇ。

 ああ、痛むよ頬の傷がじんじんと……。


 ……そうだ。あのツタはなんだ?てんぱってそれどころじゃなかったけど、そのせいで転んで捕まったわけだし。

 あの騎士は歩いて近寄ってきたよな。まるで俺がそこに転がっていることを知っているかのように。俺が偶然転んだだけだったとしたら、走り寄ってきてしかるべきだ。でも、あの騎士は歩いて近寄ってきた。つまり、あのツタは騎士がいとして配置したもの、ということ。

 俺があそこにやってくるのがわかっていた?

 それか、騎士があの場に突然呼び出した?

 それではまるで……魔法だ。

 あり得るのか?そんなことが。現代日本の常識で言ったらまず間違いなくNOだ。そんなものは存在していない。

 ただ気になるのは、俺が路地に入ろうとしたときに女の子が何かを言いかけていたことだ。あれがもし、路地にはツタの罠があることを知っていたゆえのことだったら?現状を説明するにはかなりの説得力がある。

 しかし、シンプルにあの状況で人気のない路地に入るという行動が悪手だった可能性もある。その場合人通りの多い大通りでは魔法は使えなかったが、人気のない路地なら使うことができた、ということになる。これはあのツタが魔法なる非科学的な現象の産物であることに基づいた仮定だ。ゆえに、この世界に魔法が存在しないなら、そもそも成り立たない。しかし、もし存在するのなら、現状最も事実の可能性が高い仮定だろう。

 なんにせよ、どのようにして捕まったのかは現状大した問題ではない。もっと明らかにすべきはやはり、『黒髪』の存在だろう。

 本物の『黒髪』は何者なのだろう。コードネームで呼ばれ、発見され次第追いかけられるほどだから、よほど重罪人なのだろう。少なくとも窃盗とかちゃちい犯罪ではなく、もっとこう、連続殺人とかそのレベルな気がする。

 そもそも『黒髪』って単なる髪色だろう?それがコードネームになるっていうのも異常だ。それほど、この街で黒髪の人間は希少なのだろう。そのせいで俺は追いかけられ、こうして捕まったわけだし。


「……」


 ひとつ、ある可能性が思い浮かんだが、それはあり得ないと頭の端へ追いやる。そうならいくらか状況を打開する兆しがあるというものだが、楽観的にいるべきではないだろう。

 そういえば、交番風の建物で得た情報はなんだったっけ。たしか……ここの地名はライア王国エルグレシア領だったか?やはり聞き覚えもない地名だ。

 見知らぬ土地に1人という現状は、地名を知ったところでどうにもならない。ただ、自分の知る場所の位置を知ることができれば、故郷日本に帰る手段を考えることができる。まあ、それも叶わなかったわけだが。

 

 ……そもそも、ここは本当に地球なのか?

 もしかして、全く違う世界に迷い込んだとか、そういうことか?

 いやいや、それこそあり得ないだろう。俺は疲れているんだきっと。冷静に分析しているつもりで全然分析できていないらしい。それはそうだ、あれだけ全力疾走した後だ。疲れない方がおかしい。いったん寝て、また考え直そう。



 そうして眠り、目を覚まして考えることを繰り返すうち、1週間近い時間が過ぎた。

 

 いや、正確には腹時計で1週間だ。その間の食事や水分補給は、幸い1日に2回硬いパンと水が与えられていた。食事がパンということから考えると、やはりここは日本のどこかではなく、ヨーロッパのどこかに近い気候なのだと思う。米よりは小麦を栽培するのに適した気候なのだろう。ただ、それはここが”地球の”どこかであるなら、の話だけど。

 そう。考え続けた結果、俺は「ここは地球とは異なる、魔法が存在する世界である」という結論に至った。それでもやはり謎は残るのだけど、「地球のどこかである」とするよりよっぽど納得できることが多いのだ。言い換えると、半日程度歩いてみただけでも元の世界の常識で認識できる事柄が少なすぎる。言語然り、ケモミミ然り。

 ただ問題なのは、その仮定が正しいかどうかがわかったところでどうしようもない、ということである。

 もしここが異世界ではなく地球のどこかであるなら、どうにかして日本に帰ることもできよう。しかし、異世界だとしたらお手上げだ。帰り方の見当もつかない。

 もしこの牢屋から出られたら、まずはここが地球とは異なる世界、いわゆる異世界であるということを検証したい。具体的には魔法が存在するかどうかの確認だ。

 俺としては、魔法は存在してほしくない。なぜなら、魔法が存在するということは異世界であることがほとんど証明されたようなものだからだ。


 ……ああいや、別に帰る必要はないのか。

 そもそも俺はあの世界を去ろうとして屋上から飛び降りたんだもんな。

 それならどうだ、この世界で生きるというのは。


 ……うーん、今のところそれもボツかなぁ。この牢屋から出られたら、なんて考えてはいたけど、そんなの皮算用でしかないし。『黒髪』がどんなことをしでかした重罪人なのかは知らないが、俺の今後に保証はないわけで。

 と、そんなことを考えていたら物音が聞こえてきた。複数人の足音だ。ガチャガチャと、鎧のぶつかる音も交じっている。

 珍しいな。これまでほとんど人が来たことはなくて、人を見たのは食事を配給する兵士くらいだ。

 どうやら、足音の主たちの目的地は俺がいる牢屋だったらしい。5人だ。うち3人は兵士らしい軽装の男性で、1人はこの前俺を捕まえた騎士より幾分上等な鎧を身に付けた騎士だ。この4人は俺に対して蔑むような視線を向けているが、残る1人は違った。

 金髪に碧眼の美女。ひと目で上等とわかるドレスをまとっているが、その腕には似合わずゴツイ手錠がはめられ、つながれた鎖は騎士が右手で握っていた。彼女は明らかにほか4人とは違う、悲しそうな……いや、憐れみか?それも違うな。どこか申し訳なさそうな表情で、こちらを見ていた。

 騎士が女性の横で何か言葉を発したように見えたが、うまく聞き取れなかった。それを聞いた彼女は首を横に振り、何かを言いかけて、やめた。


「間違いないのか。」


 今度は聞き取れた。騎士が女性に何かを確認しているようだ。


「……ええ。」


 彼女は静かにうなずいた。

 何の確認だ。何が間違いないんだ。最初の言葉を聞き取れなかったことが悔やまれる。

 彼らが俺の牢屋の前でした会話はそれだけで、済むと彼らは去っていった。がちゃがちゃと、耳障りな音を立てながら。

 

 何だったんだ。本当に。

 騎士は女性に何を確認していたのだろう。「こいつが犯人で間違いないか?」とか?

 その場合あの女性は『黒髪』の被害者ということになるが、被害者に手錠をしているなんておかしな話だ。この線はないだろう。

 なら、「こいつが共犯者の『黒髪』で間違いないか?」とかどうだ。……うん、これなら納得がいく。ということは俺はあの女性と一緒に処刑されるのか。濡れ衣着たまま処刑とかまっぴらごめんなんだが。美女と一緒なら本望、とかそういうキャラじゃないし。

 いやちょっとまて。あの女性騎士に問われて首を横に振っていたな。つまり問いかけの内容を否定した、と考えていいだろう。それなら、俺が『黒髪』として裁かれるとしても、あの女性と一緒に裁かれる可能性は低いのではないか。

 まあ一緒ではないにしても、『黒髪』として裁かれるのは今のところ確定か。なんとか濡れ衣を脱ぎ捨てる機会はないものか。


 ……ないだろうなぁ、このままだと。

 一矢報いたいものだが、残念ながら武器もなければ魔法も……。


 ……魔法か!

 ひょっとして魔法っぽいこと俺にもできるんじゃないのか!?

 あの騎士がやっていたみたいにさ!

 あるマンガでは等価交換とか言ってるの見たことあるけど、魔法でも同じように触媒かなんか必要なのかな。あれ、あの漫画は錬金術だったっけ?まあいいか。

 ちょうどいいところにパンがある。失敗したら晩飯抜きになるけど、成功すればこの状況を打破する大きな一歩になる。何としても魔法を使って見せるぜ!


 ――――――――――――――――――――


 ……


 …………


 ………………無理でした、と。まあ知ってた。考えてみれば無くてよかったじゃん、魔法。まだここが地球である可能性が残っているぜ。晩飯も残ってるぜ。


 ああ、無くて良かったよ、ほんとに。嘘じゃないよ。


 それにしても、途中で様子を見に来た兵士よ。一生忘れないからなお前の表情。「何してんだろう、あの猿。」みたいなあの表情。

 恥を忍んで実験を続けて成果なし、ね。


 なんの成果も!!得られませんでした!!


 ってか。はは、ウケる。

 ん、これ涙かな。


 おーい、マジで無理だってこの状況。誰か助けて。ヘルプ。


 ”フォン”


 「えっ」


 景色が、変わった。俺は牢屋にいるはずだ。でもここはどこだ。……広場、か?俺はこの景色を知らない。俺の記憶じゃない。

 人がいっぱいいる。コミケかってくらい、それはもういっぱいだ。

 彼らが一心に見つめる先にあるのは、少し高くなっているステージのような場所。すこし見た目が場違いで、この広場の中心に仮設されたものだとわかる。そして、そのステージにのっている大きな機械、いや処刑具を俺は知っている。ギロチンだ。

 フランス革命期、高貴な人物の命を一瞬で刈り取るために発明されたと言われるギロチン。歴史の教科書にイラストが載っていた。その姿と寸分変わらない、恐ろしく大きな刃を携えた処刑具がそこにある。

 ということは、騎士に連れられてステージに登っている人々は処刑される人たちか。数人が縄でつながれて階段を登っている。いや、人ごみで末尾を確認できないから、もっといるのかもしれない。

 ただそんなことはどうでもよくて、おれはその列の先頭にいる人物に見覚えがあった。まさに数時間前俺の目の前に現れた人物。あの金髪美女がそこにいた。

 

”フォン”


 そこで、景色は牢屋に戻った。なんだったんだ、今の現象は。思いがけず魔法の実現に成功したのかと思ってパンを確認するが、パンは変わらず鎮座していた。

 あれは俺の記憶にある場所の景色ではない。まずそれは間違いない。間違いないのだけど……行ったことのない場所のはずなのに、妙な既視感があった。矛盾しているのだけど、知らない場所でそんな体験をしたことがある、みたいな。景色というよりそのシチュエーションに覚えがある、そんな感じ。

 ああそうだ!デジャヴ!

 デジャヴに近い感覚だった。

 最近デジャヴした記憶があるんだけど……どこでだったっけ。忘れてしまった。

 とにかく、今見た景色は確実に現実の景色である、と確信している。証拠はないけど。

 どんな景色だったか、細かく思い出してみよう。奥に見えた街並みは牢屋に入る前に見て歩いた景色と同じだった。つまりあの広場はこの街にある可能性が高い。似たような街なんていくらでもあるだろというツッコミはこの際無視する。そんなに可能性をすべて拾ってたらキリがないからね。

 加えて、ステージにいたのは誰だ。金髪美女と、騎士。そして処刑人らしき男と、あとあの上等な鎧を身に付けた騎士の姿もあった。……うん、やっぱりあの景色はこの街の景色だと思う。

 もっと細かく、景色の中で、金髪美女が来ていた服はどんな服だ。確かさっき見た服とは違ったはず。

 うわだめだ、もう曖昧になってきてる。

 もっと細かく、鮮明に……。




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