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3話 マジで見知らぬ場所

予定より早く書きあがったので、少し早めに更新します。

 武器屋の店主にもらったマントのフードを深くかぶって、街並みを眺めつつ歩く。やはりこの黒髪が注目を集めていたのだろう。あれだけうっとおしく感じた視線が今はほぼない。すれ違う数人が、服装を二度見する程度だ。

 そうだ、服装だ。さっきは髪色ばかりに目が行って気づかなかったが、服装もかなり変だ。どこが変化といえば……雰囲気?渋谷や原宿なんかでこんな服を着ていたらコスプレかなんかと思われてしまいそうだ。

 ああそうだ、演劇なんかに登場する村娘や村人のような服装だ。明らかに異質。いや、この場合異質なのは俺のほうか。スラックスにワイシャツ、ネクタイを占めてブレザーを羽織っている。そんな格好の人は見る限りいない。

 とりあえず……ここはどこなのかを知るべきだろう。

 日本語を話しているのに文字はひらがなでもカタカナでも漢字でもなく、黒髪の人が珍しいカラフルヘアーな人々が闊歩する町。そのくせ街並みはヨーロッパ風ときた。

 ……ほんとにどこやねんここ。


 小1時間ほど歩いていたら、交番のような建物を発見した。ただ、入り口にいるのがどう見ても警察じゃない。ごちごちの鎧に甲冑をかぶっている。なんだあれ、中世ヨーロッパの騎士か。

 いや、ほんとに騎士だろあれ。

 とにもかくにも行動してみなければわからない。ここで何かしらの情報が得られれば、今後の活動方針が立てやすくなるかもしれない。


「あ、あのー……。」


 おそるおそる入り口の騎士に話しかけてみると、甲冑がごりっと動いてこちらを見た。


「なんだ。」


 予想はしていたけど声ひっく!

 甲冑の中身はひげ面のおっさんと見た。


「ちょっと道をお尋ねしたいのですが。」

「……中へどうぞ。」


 言われて交番っぽい建物の中に入ると、意外と中は広い。入り口の騎士よりは軽装の、兵士らしい格好の男性が複数人いらっしゃった。そのうちの一人、立ってなにやら書類とにらめっこしていた兵士さんがこちらに寄って来た。


「どうかいたしましたか。」

「あ、えーと。道をお尋ねしたくて……。」

「承知しました。少々お待ちを。」


 そう言うと兵士さんは建物の奥の方へ入っていった。わざわざ何かを取りにってくれたのだろう。なんて親切なんだ。

 数分と経たずに兵士さんは戻ってきた。手には二本の巻物を抱えている。


「お待たせしました。こちらがエルグレシアの街の地図で、こちらがエルグレシア領全体の地図になりますね。」

「わざわざありがとうございます。」


 ぺこりと礼をして、まずは街の地図と言われた方の地図を手に取る。それにしても、エルグレシア?まったくもって聞き覚えのない地名だ。

 広げてみると、区画整備がなされている円形の街が紙全体に描かれている。かなり大きい紙なのだが、描かれている土地や文字はかなり小さい。ここはかなり大きい町なのだろう。ただ、やはりというかなんというか、文字が読めない。左上の一番大きな文字列すら読めない。だから自分がどこにいるのかわからないし、どこに向かうべきかなんて尚更わからない。


「すみません、これは何て読むんですか?」


 左上の文字列を指して兵士さんに尋ねる。


「『ライア王国・エルグレシア領』ですね。」


 ライア……王国?どこだよほんとに。ヨーロッパの王国っていったら……イギリス?オランダ?ベルギー?そこら辺しか知らないけど……まったく聞き覚えがない。

 続いてエルグレシア領全体と言われた地図を広げてみる。横切るようにして太い川が流れ、その中流あたりに円形の街。おそらくこれがこの街だろう。方向表記はないが、日本にいた時と同じようにして考えてみると、西側と北側を覆うようにして山。そこから流れ出た川が東へ進み、東へ行くほど平原に近い地形になっているようだ。この街のほかにも点々と、中小規模の街や村が存在している。

 とりあえず、ここをヨーロッパのどこかと仮定して、兵士さんに聞いてみることにする。

 

「すみません、この地図でいうと、イギリスはどっちにありますか?」

「……?……ああ、ギリス王国は……」


 兵士さんは一瞬きょとんした後、またも知らない国の名前を出して話し始めた。


「いえ、”ギリス”じゃないです。”イギリス”です。」

「”イギリス”……?なんですかそれは。国名ですか?」


 イギリスを知らない……だと?なんてこった。これじゃあ日本どころか地球ですらない可能性があるぞ。いや、しかし実際今聞いているのは日本語だし、俺が話している日本語は通じている。ということは、少なくとも日本とはかかわりがある国家なのだろう。じゃあ「日本はどこか」と聞いてみるか?いや、それはだめだ。却下。なぜなら、もし日本のことも知らなかった場合、見慣れぬ格好で文字も読めず、知らない国名を連呼する不審者でしかないからだ。いや、むしろ今のこの状況で親切に教えてくれる兵士さん優しすぎだろ。俺が兵士さんならこんな不審者存在してるだけで現行犯逮捕してやるわ。


「すみません、ありがとうございました。」


 礼をし、そそくさとその場をあとにする。よく考えるとこの状況かなりまずい。そもそも、なんでわざわざこんな場所に入って情報収集しようとしたんだ。町ゆく人に声をかけるとかもっと他にあっただろうに。これ以上怪しまれる前にささっと退散するべきだ。


「はあ。お気をつけて。」


 幸い、兵士さんはそこまで怪しんでいる様子はない。きょとんとしてこちらを見送っている。危ないところだった……。


 建物から出ると、顔に強い風が吹きつけた。


「うわっ」


 風がフードをめくりあげ、後ろへ持っていった。慌ててフードをかぶりなおそうと両手を後ろにもっていったとき、ふと入り口の兵士と目が合った。いや、正確には合っているような気がした。

 なんせ向こうは甲冑。中の表情までは覗えない。でも、なんか嫌な予感。


「『黒髪』だぁ!」


 兵士はそう叫んでこちらに駆け出した。俺はほとんど反射で反対方向へ逃げ出す。

 

 何も悪いことなんてしてないのに、なんで逃げ出すのかって?


 いや、そんな次元じゃないからマジで。恐怖だよ恐怖。二メートル近い甲冑の騎士に突然追いかけられてみろ。誰でも逃げ出すはずだって!

 人と人の間を縫って逃げる、逃げる、逃げる。走りながら後ろ様子を確認すると、そこには猛スピードで迫る騎士の姿。

 足速すぎんだろあの騎士!全身鎧とは思えない速度で走りやがる。俺は身軽だし、足だってクラスで上位に入るくらいには速いはずなのに一向に差が広がらない。後ろから迫るガチャガチャと鎧のぶつかり合う音が恐怖を掻き立てる。

 

 あああ!怖い怖い怖い!

 

 なんで俺は追いかけられてんだ。何か悪いことしたか。こっちに来てしたことといえば武器屋の売り物で自殺しようとしたくらい。それだって未遂だし、このマントだって頂いたんであって盗んだわけじゃない。ほんとになんで追いかけられてんだ!


 息切れも忘れて必死で走り、後ろをちらっと見ると少し距離が開いていた。開いたといっても少し気を抜けばすぐさま追いつかれるだろう。


「んなっ!」


 よく見ると人数が増えている!

 しかも身軽そうなのが2人も!


「くっそ!」


 ちょっと撒けるかと思ったのがバカみたいだ。完全に撒くまで気は抜けないな。

 無我夢中で走り続け、そろそろ撒いたかと思って振り返ろうとしたその時。


 ドンっ


「きゃあっ!」

「うわっ!」


 何か小さいものにぶつかった。見ると目の前でしりもちをつく少女の姿があった。背丈は小学生くらいの子どもで、フードを深くかぶっているせいで顔はよく見えないが、フードの端から金髪がのぞいていた。


「……あれ。」


 俺、この景色知ってる。どこかで見た景色だ。前にもこんなことがあったような気がする。確かこの子も追われていて、その追手が……やっぱり!

 俺と女の子がぶつかったここはY字路の合流地点。俺はその一方からきてこの女の子はもう一方から来たのだろう。彼女が来た道の奥を見ると、走ってこちらにやってくる兵士の姿。俺が来た方からももちろん兵士がやってくる。


「立て!」


 謝るよりも先に、女の子に右手を差し出す。


「お前も追われてるんだろ!早く!」


 俺を見上げる彼女と目が合った。……やっぱり、俺はこの子を知っている。


「いりませんっ!」


 彼女はするっと立ち上がって残る一方の道へと駆け出した。俺もその後を追うようにその道を進む。と、ちらっと振り返った彼女が言った。


「なんで付いてくるんですか!」

「うるせぇ!道はここしかないだろうが!」


 向こうもかなり必死らしい。後ろの様子をうかがうと、兵士との距離はだいぶ縮まってしまった。躓いて転んでしまえば捕まる距離だ。

 と、少し先に路地の入口があることに気づく。ちょうどいい。大通りを走るよりは人通りも少なくて幾分逃げやすいだろう。どこに出るのか知らないが、この路地で撒いてやる。

 その曲がり角に差し掛かって、俺は直角に方向転換した。


「あっ!そっちは……!」


 女の子が何かを言いかけていたが、知ったことではない。兵士を全部擦り付けてしまうのは申し訳ないが、何分こちらも必死でな。また会うことがあれば詫びはする。許せ!

 この路地はいいぞ。曲がり角がたくさんある。これで兵士たちを撒け……!?


「ふぐっ!」


 次の瞬間、俺は顔面を地面にこすり付けていた。まともに受け身も取れなかった。頬がじんじんする。けっこう痛い。……なんて言ってる場合じゃない。早く逃げないと追いつかれてしまう。


「なっ!?」


 自分の右足にまとわりついているものを見て絶句する。これは……ツタか?にしては太すぎる。人間の腕ほどの太さのあるツタが、俺の右足に巻き付いていた。


「くっそ、とれねぇ……!」


 こんなのあったか?必死で走っていたせいで足元なんて見ていない。もしかするともともとあったツタのわっかに足を突っ込んでしまったのかもしれない。いや、足を突っ込んだだけでこんなに素晴らしく巻き付くか?冗談だろう。なんせよ、本当にまずい。このままだと……!


 ガチャっガチャっガチャっ


 路地に響くこの足音は、わざわざ確認するまでもない。騎士だ。


「てこずらせやがって。おい、『黒髪』を捕縛したと、本部に伝えろ。こいつは眠らせて、いったん支部で監禁する。」

「はっ!」


 甲冑の騎士の命令を受けて、軽装の兵士が路地の出口に向かって駆け出す。それを見送った騎士は、無言で鎧の隙間から1枚の紙を取り出した。ひらっとその表が見えたが、そこにはなにか幾何学模様のようなものが描かれているようだった。


「おい!答えろ、なんで俺を追いかけまわす!」


 甲冑で表情は見えないが、騎士は俺の言葉を聞いて鼻で笑った。


「冗談だろう?」


 その直後、騎士の持つ紙が光り輝いた。なんだ、と思う間に強烈な眠気が襲ってきた。


「な……ん……」


 ドタっ


 抗えず、俺は意識を手放した。

次話投稿は、16日21時を予定しています。

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