第85話
◆岸元美波 視点◆
土曜に申し合わせた通り春華ちゃんは学校へ行った様だ。
今日はいよいよ二之宮凪沙さんとふたりきりで勉強することになる。
夏菜お姉ちゃんも、うちのお姉ちゃんも状況を把握しておきながらわたしには何も言ってくれなかったせいで、冬樹を狙って滅茶苦茶なことをしでかしたと思われる相手とふたりきりで会わないといけなくなったのだから恨めしい気持ちもある。
学校の朝SHRが始まるくらいになって二之宮さんが到着し、わたしの部屋へ通した。
「今日もよろしくお願いしますね」
「う、うん。よろしく」
特に会話もなく黙々と勉強を続けている間にお昼になり、ナポリタンを作ってふたりで食べていたら二之宮さんが話しかけてきた。
「神坂春華さんも料理は上手でしたけど、岸元さんも上手いのですね」
「そうかな?
あまり意識してきたことはなかったけど、冬樹が上手いから引っ張り上げられてみんなうまくなっている感じはあるね」
「冬樹君って、そんなに料理が上手なんですね。私も食べてみたいです」
「そう・・・機会が来ると良いわね」
「ええ、ぜひその機会を作りたいと思いますね」
「うちのお姉ちゃんが作らないと思うよ・・・」
「どうして、岸元さんのお姉さんが?」
「だって、ふたりは付き合い出したみたいだし。
お姉ちゃんは、に・・・ごめん、今言いかけた事は忘れて」
「それは良いですけど、冬樹君と岸元さんのお姉さんがお付き合いを始めたんですか?」
今、二之宮さんからものすごく邪悪なドス黒い雰囲気を感じた。
やはり二之宮さんはクロだ。証拠はないけど、直感がそう告げている。近付いちゃいけない危険人物だ。
注意力散漫で言うべきでないことを言ってしまったのでどうにか誤魔化したい。
「お姉ちゃんと話して、そうかなって感じただけで実際のところはわからないよ」
「そうでしたか。それは良かった」
「それは良かったって、二之宮さんは冬樹のことが好きなの?」
「好きですよ」
「でも、二之宮さんは冬樹と関わっていた印象がないんだよね」
「たしかに、私は冬樹君と関わったことはほとんどありませんね。
高校に入ってから一目惚れしましたし、それからも2年で同じクラスになるまで接点を持てなかったのです。
そして、クラスがようやく馴染んできたという頃にあんな事件が起きてしまいましたし・・・」
この女、自分でやっておきながら、何を他人事の様に言っているの?
わたしの中ではもう許せない対象になっていた。
今すぐにでも家から叩き出したいし、二度と関わり合いになりたくない。
でも、夏菜お姉ちゃんが言っていた様にこんなことを平然と言える相手を刺激してしまっては何をされるかわかったものじゃないというのもあるし、手詰まり感がある。
「そうなんだね。わたしは物心が付いた時から側に居たから冬樹に一目惚れするって感覚がわからないんだけど、二之宮さんはどういうところが良かったの?」
「あの・・・岸元さんのそういうところ、腹が立つんですよ」
「どういうこと?」
「冬樹君と幼なじみだって事でマウント取ろうとしてますよね?」
「別にそんなつもり無いよ!」
「じゃあ、無意識にそういうことを表に出してくるタチの悪い性格なんですね」
「なんでそんな事を言われないといけないの!
二之宮さんなんか自分が冬樹と付き合いたいからって、鷺ノ宮君を騙して言う事を聞かせるようにしたんでしょ!」
「あら?どうしてそんな事を思ったんですか?」
しまった!思わず言ってしまったけど、わたしがここで知っていることを言ってしまったのはどう考えてもミスだ!
どうにか誤魔化さないと・・・




