第49話
◆岸元美波 視点◆
冬樹があの空き教室でわたしがされていたことを見ていたと知って混乱してしまい思わず逃げ出してしまった。しばらく無我夢中で校舎内を走りまわっていたら春華ちゃんの声が聞こえてきたので、走るのを止めたら後ろから抱きつかれた。
春華ちゃんがわたしを落ち着かせて話を聞いてくれていたのだけど、鷺ノ宮くんと付き合って初めてを体験した事自体を責めるような言い方をされ少しムッとした。
更には冬樹との関係修復も時間をかけるべきと考えているみたいだし、そんな待っていたらお姉ちゃんが関係を深めてわたしが入る余地がなくなってしまうから何とかしたいし、それには春華ちゃんの協力は欲しいから翻意してもらいたい。
「美晴お姉って、フユのこと好きなの?
だったら美晴お姉にまかせた方がうまくいきそうだよね」
「なに言ってるの春華ちゃん。お姉ちゃんはわたし達と5歳も年が離れてるんだよ。高校生と大学生で価値観だって違うだろうし重荷になるだけだよ」
「5歳差って言っても学年で言えば4つだし、あと数年もしたら誤差みたいなものになるよ。
それに今のフユをまかせられる人は他にいないと思うし、義務感ではなくて愛情で見守っててくれるのならあたしからお願いしたいよ」
「ほ、本当にそうだったら、お姉ちゃんにまかせた方が良いかもしれないけど、それだってわたしが何となく『そうかな?』って思ったくらいだし、まだわかんないよ」
「じゃあ、聞いてみようか・・・ってスマホはカバンごと部室に置きっ放しか・・・」
「わたしから聞いておくよ!」
「え?いいよ。これからの事も相談したいし、あたしが聞くよ」
これはしくじった。春華ちゃんを翻意させるどころじゃなく、お姉ちゃんを後押しする気持ちになってる。春華ちゃんが後押しするなら夏菜お姉ちゃんもお姉ちゃんを後押しする方に大きく気持ちが傾くだろうし、ここで春華ちゃんの考えをわたしに向けさせないとまずい。
「あのさ、春華ちゃん。ちゃんと聞いて欲しいのだけど、わたしね、やっぱり冬樹と付き合いたいんだ。だから協力して欲しい。
お姉ちゃんには悪いけど、わたしの方が先に好きになっていたんだし、春華ちゃんにはわたしの味方になって欲しいの」
「ごめん、美波ちゃんの事は大事な親友以上の家族と同じ様な存在だと思っているけど、フユはあたしの片割れでなによりも大事な存在なの。
二之宮さんの冤罪の時は疑って追い詰めちゃったけど、二度と同じ間違いはしないし、それ以上にフユには一番幸せになってもらいたい。
美晴お姉がフユのことを大事に思ってくれているのは伝わってくるし、それが恋心なんだったらあたしはそれを応援する。
第一さ、美波ちゃんは鷺ノ宮と付き合ったんだから、今更フユのことが一番好きだと言われても信じられないよ」
「違うの!
わたしは鷺ノ宮くんに騙されていただけ!
気持ちも身体も弄ばれたの!
卑怯な事をされなかったらずっと冬樹一筋だった!」
「美波ちゃん、言ってることがおかしいよ。いくら騙されたからって、2ヶ月も経たずに付き合い始めてすぐに身体を許してさ。
結果的には騙されてひどいことをされたにしても、最初に許したのは美波ちゃんの意思でじゃない。
美波ちゃんが言ったんだよ『鷺ノ宮がカッコいいし、そういうことに興味があったから受け入れた』って!」
「だから!冬樹を信じられないようにされて、判断力が失われていたの!」
「結果が全てなんだよ。美波ちゃんはフユを騙して陥れた男と付き合って身体まで許した。
これは変えられない事実で、フユと付き合いたい人にとっては大きなマイナス要素なんだよ」
「なんでわかってくれないの!」
「わかるわけないよ。第一、美波ちゃんはそういう事に興味があったからカッコよければ誰でも良かったんでしょ!」
「春華ちゃんだって、興味くらいあるでしょ!
カッコいい男の子に付き合って欲しいと言われたら付き合って、身体だって許すでしょ!」
「本当に好きになったらそうするけど、ミーハーな気持ちで身体は許さないし、そもそもそれは論点が違うでしょ!
あたしは身体を許しておきながら、別の男性がずっと好きだったなんて言わないよ!」
さすがにそれ以上は何も言えず、しばらくしてふたりとも落ち着いてから一言「春華ちゃん、ごめんね」とだけ告げてから一緒に部室へ戻った。
春華ちゃんが言うことが正しいのは頭では理解できてるけど、どうしても感情が諦められなくてみっともなく足掻いてしまったし、夏菜お姉ちゃんにもお願いをしてみようと思う。




