第44話
◆二之宮凪沙 視点◆
冬樹が孤立し、その状態を利用し私だけが近付こうとしているのだが、いくら無実を主張したとは言え事の発端である私に対しての感情が悪くないはずがなく、それは私の見積もりよりもずっと厳しいものの様なので変に近付かず様子を見ることにした。
冬樹は事件の翌週に例の空き教室に防犯カメラを設置したのだ。おそらく冬樹はここで隆史や私が何か行うと予想し、それを記録して何らかの反撃の材料にしようとしているのではないかと読んだ。
そうとなればと言うことで、その状況を利用すべく動くことにした。隆史と仲が良い男子ふたりに対し身体を使って私の言う事を聞かせる様にした。男というのは単純なもので、女の身体を差し出せば都合よく動いてくれる。さすがに高校生にはオジサマ達みたいなお金を援助してもらうことは期待できないけど、都合良く動く駒になるから十分だ。余談だけど、高校に入学してすぐのころ美容やおしゃれでとてもお金がかかってしまって困っていた時にインターネットで調べて知った方法で、手っ取り早くお金を援助してもらえるオジサマとの出会いは助かっている。
このふたりに隆史の部屋で私が隆史に襲われている風に見える写真や動画を撮らせ、これらの写真や動画を理由に隆史にも言う事を聞かせられるようになった。
あとは隆史に例の空き教室で私を脅迫して身体を好き勝手している様にさせ、例の事件はあくまで隆史が冬樹に嫉妬して陥れようとし、隆史に逆らえない私が已む無く従ってしまったと見せ掛けることができる。
冬樹とは距離を置きつつ冬樹の防犯カメラが設置してあるあの空き教室で何度となく繰り返し、相手をする男子生徒も増えていき隆史のせいであるという印象付けは着々と進んでいったと思う。また、隆史も最初は嫌々だったけど吹っ切れたのかノリがよくなり本当に隆史のせいで大勢に凌辱されている様な演出ができていって冬樹へのアピールとしては良くなった。
防犯カメラに気付かないフリをして隆史が悪さをする・・・様に私が指示している・・・裏スポットを知らせたり、私にとって都合の良い情報をさりげなく言うことで冬樹も全容と思われるものが掴めてきていると思う。
しかし、ずっと冬樹の様子に変わりが見えない。これだけやれば学校へ通報することで隆史へ意趣返しができると思うのだけど、そんな事をする気配を感じないので、リスクもある手段だが大きく仕掛けることにし、隆史によりインパクトのある犯罪行為を行わせることにした。オジサマのひとりがちょうどよいおクスリの様なものを用意してくれたので、期末テストの最終日の放課後にそれを隆史に使わせた。
さすがにここまですれば冬樹も何か行動を起こすだろうと思っていたら、案の定すぐ警察がやってきて事情聴取を受けることになった。私は知らぬ存ぜぬで隆史から強要されたと言い張ったし、同時に事を大きくしたくないので隆史とは穏便に済ませたいとも主張した。今後の話として任意での聴取の可能性は示唆されたものの、そこは想定の範囲内なので応諾し警察からも不審には思われていないようだった。
警察の事情聴取の際に隆史が逮捕されていたと聞いたので、学校の裏サイトに冬樹の冤罪から今日までの裏事情の顛末を私にとって都合の良い形で暴露する書き込みを行った。想像していたよりも大事になってしまったが、それはそれで冬樹の汚名返上になるので結果的に良かったと思うことにした。
隆史は更生施設へ行くことになるかと思ったけど、私が穏便に済ませるように主張したこともあり保護観察で済むことになったらしく、学校での扱いがどうなるのかはわからないけど、公的に拘束される状態にはならないとのことだった。
それはそれとして、冬樹の冤罪を晴らしたからには冬樹に付き纏っている高梨先生をどうにかしたい。教師でありながら生徒である冬樹とふたりきりで過ごすなど許せるはずがない。教師という立場も踏まえて自制している様にも見えるけど、女の勘が油断ができない相手だと告げている・・・
・・・高梨先生だけに気を付けていれば良いかと思っていたら、思わぬ伏兵がいた。まさか岸元美波さんのお姉さんの美晴さんが冬樹へ好意を持ってる幼馴染みで、しかも今回の一連の騒動の外に居たから絶対的な優位の立場に居座ってしまっている。
私が知り得なかった入院していた事だけでなく、退院してから付き添って冬樹の家族も知らないマンションにまで同行してくきているし、本当に恐ろしい存在だ。
更に事件の後処理に岸元美波さんの姉として介入してくるとか、高梨先生以上の脅威だと判断した。
そもそも隆史は岸元さんが好きだったはずで、私がさせていた様なことを岸元さんにさせたことが不可解。もしかすると、隆史の周りの男どもは暴走している?
ひとりの女を寄って集って辱めたことが刺激的すぎて倫理観がおかしくなった?
いずれにしても、注意が必要な状況になっているように思う。
せっかく冬樹の冤罪が晴れた後の3連休だったのに邪魔ばかり入って何もできないまま終わってしまった。
連休明けも事態が流れるように進んでいき、私が把握しきれる状況を超えてしまっている。本当はもう少し様子を見てからにしたかったのだけど、全てを隆史に押し付けて退学させた方が今後はやりやすいと思い、私の身体に触らせてやっていた男どもと纏めて学校へ報告し、退学させるように話を進めた。
狙い通り学校は隆史たちに対し自主退学の勧告をしたのでそれは良かったけど、状況は全然油断できない。




