第268話
◆岸元美波 視点◆
警察での事情聴取が終わって、わたし達は凪沙さんから話を聞くために凪沙さんのマンションへ移動し、マンションへ着くと高梨先生も帰ってきていて、一緒に話を聞くことになった。
予想はしていたけれど、中田先輩から那奈さんや高梨先生の周囲に凪沙さんの事を流布することを仄めかされ、那奈さんや高梨先生に迷惑をかけたくないと中田先輩の性的な要求に従っていたとのことだった。
また、凪沙さんは『前にやっていたことと同じだから気にしていない』と言ったのだけど、
「だったら何故あからさまなまでに表情が暗くなっていたの?」
「そ、それは・・・」
高梨先生に矛盾とも思える表情について尋ねられても、答えることができずに口をつぐんでしまって俯いてしまった。
「凪沙さん、過去は変えようがないですけど、今はもっと自分を大事にして欲しいです。
わたしや那奈さんを思っての判断だったことは理解できる部分はありますけど、後で知ってわたしは今すごく辛いです。
たぶん、那奈さんも同じ気持ちだと思います」
「そうね、私も高梨先生と同じで辛いし悲しい気持ちね。
凪沙が私の知らないところでひとりで傷付いていたなんて、連絡をもらった時はショックだったし、今だって胸が張り裂ける思いよ。
お願いだから、もう二度と自分ひとりで抱え込もうとしないで・・・凪沙は私の大事な妹なんだから」
高梨先生に続いて那奈さんから声をかけられた凪沙さんが、俯いていたまま小さな声で「ごめんなさい」と言い、そのまま崩れ落ちるように床に伏せ「ごめんなさい」と繰り返し、次第に声が涙混じりのものへ変わっていった。
那奈さんが凪沙さんと二人きりにして欲しいと凪沙さんの部屋へ入っていき、わたしと隆史君と高梨先生がリビングに残った。
「改めて、美波さん、鷺ノ宮君、今日は本当にありがとう。
二人と神坂君がすぐに動いてくれたから早く問題がわかって、凪沙さんを助けてあげることができたと思います」
「友達として当然のことをしたまでです。
昨日も言いましたけど、わたしは自分のために友達を心配して行動しただけなのでお礼を言われることはないです」
「それでもわたしはこんなに早く行動できなかったし、それで凪沙さんが苦しむ時間が長くなっていたかと思うと感謝しかないわ」
そのあともわたしと高梨先生の言葉の応酬が堂々巡りをしたけれど、繰り返している内に有耶無耶になって、時間も日が暮れかかっていたので隆史君と二人で帰ることにし、マンションを出る直前に凪沙さんに別れの挨拶をした時には気持ちの整理がついて落ち着いたようで、目の周りに涙の跡が残っていたものの普段に近い様子になっていて少し安心した。
隆史君が家まで送ってくれるという言葉に甘えてふたりで帰路に着き、もう少しでわたしの家というところの公園を通りかかった時に少し寄ろうと誘い、隆史君も応じてくれた。
「どう言っていいかわからないから単刀直入に言うね。
隆史君、気持ちが凪沙さんに向いているでしょう?」
わたしは公園の中でも人気の少ない奥まったところへ行き、周囲に人がいないことを確認すると最近思っていたことを尋ねかけた。
「なにを突然?
俺は今、美波と付き合っているだろ?
なにか俺に不満があるのか?
不満なら言ってくれれば改善するようにする」
「不満らしい不満はないけど、今わたしの言っていることを誤魔化そうとしているところは不満かな?」
「俺は・・・美波を傷つけたしその償いをしないといけない・・・これ以上傷つけるようなことは・・・」
「その気持ちは嬉しいけど、人の気持ちってどうにもならないところがあるでしょ?
隆史君が凪沙さんに惹かれてしまうことはしょうがないと思う」
「だからと言って・・・」
「だからね!本当の気持ちを教えてほしいんだ!」




