第266話
◆鷺ノ宮隆史 視点◆
ゴールデンウィークが開け世間では平日が始まった日の夜に美波からメッセージで連絡をもらった。
高梨先生から凪沙が不審な外出をするようになっていて様子もおかしいとのことで、明日美波が凪沙を尾行して真相を探ろうということになり、その話を聞いた神坂が美波ひとりでそんな事をさせるのは危険だからと同行することにしたとのことで、付き合っている相手である俺に対して事前に話をしておこうということらしい。
凪沙になにか良くないことが起こっているというのであれば俺としても見過ごせないので、俺も行きたいとの返答をした。
俺の顔を見たくもないだろう神坂が同行することに良いと返答したということで、明日は一緒に凪沙の尾行をすることになった。
日が変わって美波達との待ち合わせの凪沙の住むマンションの最寄り駅へ到着したが、美波と神坂はまだ到着していなかった。
待ち合わせ時間の30分前なので当然と言えば当然かも知れない。凪沙の身に何かあるのかと考えてしまうと気持ちだけが逸ってしまって気が付いたらずいぶん早く家を出てしまっていた。
「隆史君、おはよう。
まだ待ち合わせ時間のまでは余裕があると思うけど、早いね」
「おまたせ、鷺ノ宮」
待ち合わせ時間の10分くらい前になり、美波と神坂が姿を現した。
「美波、おはよう。
神坂、今日は俺の同行を許してくれてすまない」
「気にしないでいいよ。鷺ノ宮からだけなく那奈さんからも何度も謝罪はもらっているし、その気持ちが本気だってのも伝わってる。
それに、二之宮さんの事を考えたら今日は一人でも多い方がいいだろうし、効率で考えても鷺ノ宮がいてくれた方が助かるよ」
「神坂・・・ありがとう」
神坂からは俺に対する怒りや嫌悪といった負の感情は感じられず、ただただ凪沙を心配している俺の気持ちを斟酌してくれているように見受けられる。
1年前に自身を陥れた卑怯者を相手にしているというのに、まるで何事もなかったかのように接する態度には頭が下がる思いだ。
むしろ、美波の方が俺に対してなにか含む感情があるように感じられる。
さすがに凪沙を心配するにしては必死過ぎると自覚があるし、それで美波は自分と付き合っているのに俺の気持ちが凪沙へ向きすぎていると思っているのかもしれない・・・
凪沙や高梨先生が住むマンションの玄関口が見える場所へ着き、俺達は交代で様子を見ることにした。
見張りを開始してすぐに高梨先生が出てきた。これから学校へ行くのだとわかる。
高梨先生は美波から事前に予告されていたからか玄関口を出てすぐのところで俺達を探すように見渡したが、うまいこと隠れられているのか見つからずにいたし、高梨先生も俺達を見つけられないことについて特に気にするでもなくそのまま駅の方へ向かって歩いていった。
高梨先生がマンションを出てから10分くらいしてから美波へ高梨先生からメッセージが届き、高梨先生が外出した時点で凪沙が家に居たという情報だった。
高梨先生からのメッセージが届いてから30分くらいしてから凪沙がマンションから出てきた。
話に聞いていた以上に表情が暗く見える。
感情が顔に出にくい印象の凪沙が遠くから見ても明らかに悪い状況であると感じさせるくらいだ。
凪沙は周囲を気にしていないのか俺達が尾行している状況に気付きそうな気配すらなく電車移動でも見失うことなく、目的地の最寄りと思われる駅で改札を出ての徒歩移動を再開し、しばらくするとアパートへ入っていった。
凪沙が目的の部屋でインターホンを押して呼び出しをすると中から出迎えて来たようだが、影でその姿は見えなかったものの体格の良い男の様な感じに見えた。
神坂が周囲を見張りつつアパートの外で待機し、俺と美波で凪沙が中へ入っていった部屋のドアの前まで様子を見にきた。
表札を見ると【中田】と書いてあり、唐突に嫌な予感がした。この中田は元サッカー部の中田先輩でなんらかの理由で強制的に呼び出して、そして意に染まない事をさせているのではないかという想像をしてしまうし、実際にはわからないがありえない話ではないように思う。
「隆史君、この中田って、もしかしてサッカー部の中田先輩なんじゃ・・・」
「俺もその可能性を考えてた」




