第265話
◆高梨百合恵 視点◆
ゴールデンウィークに入ってから凪沙さんが毎日のように外出するようになり、時には帰宅時間が遅くなることもあるようになっている。
遅くなった最初の日に連絡がなかなか取れなかった時は偶然知り合いに会って話し込んでいたからということで、その時に遅くなる場合は連絡をすると約束をしてくれ、それ以降は実際に連絡ももらえているし、そうでなくてもこちらかの連絡にもちゃんと返答をしてくれているのでそれほど問題視するようなことではないのかもしれない。
しかし、凪沙さんの様子が無理に明るく振る舞おうとしているけど繕えてなさそうに見えて、それが日に日に悪い方向に変わっていることがとても引っかかる。
当然、心配事でもできたのなら頼ってほしいと話をするものの何も問題がないから心配しないで欲しいと返されるだけ。
みゆきも明確におかしいと感じていて、いつも以上に凪沙さんへ話しかけて理由の一端でもわかればと気を遣ってくれているけど、わたしと同じで何も手がかりを得られないまま。
そうこう悩んでいる内にゴールデンウィークが開けてしまったので、今凪沙さんと関係が深い美波さんに話を聞くことにした。
「せっかくのお昼休みなのに呼び出してしまって申し訳ありません」
「いえ、良いんですよ。それにしてもどうかされたのですか?」
「それがですね、凪沙さんがゴールデンウィークに入ってから外出ばかりするようになって、帰りも遅くなる日もあって・・・それでも良いのですけど、凪沙さんの様子が明らかに無理をしているような感じなのです。
美波さんは何か心当たりはありませんか?」
「心当たりらしい心当たりはないのですけど、ゴールデンウィーク中に凪沙さんにメッセージを送って、しばらく忙しいから連絡が疎かになるという返事がありました」
「そうなのですか・・・その忙しい理由は知っていますか?」
「いえ、何も知らないです。でも、おかしいですよね。凪沙さんの交友関係は狭いですし、わたしも高梨先生も知らない誰かと毎日なにかをしているというのは・・・」
「そうですよね。やはり良くないことに巻き込まれているのではないか心配になります」
「わたし達以外で凪沙さんと関係が深い人だと那奈さんもいますけど、那奈さんには聞きましたか?」
「那奈さんにはまだ聞いていないです。凪沙さんに聞いたときに那奈さんとは関係ない人と言われたので、話だけで中途半端に心配をさせてもと思って連絡をしていないです」
「たしかに今の那奈さんの状況からすると断片的な情報はいたずらに不安を煽るだけですよね」
「ですので、早めに原因を特定して本当に問題があるなら解決したいと思うのです」
「わかりました。
明日、凪沙さんがどこへ行くのか尾行します」
「え?さすがにそこまでさせるのは・・・」
「わたしも先生のお話を聞いて心配になりましたし、わたしのためにやらせてください。
先生は急に休めないでしょうし、わたしだったら休んでも春華ちゃんや冬樹にフォローしてもらえますしなんとかなります」
その後も思いとどまるように説得しようと言葉を重ねたのだけれど美波さんは自分自身のためだからと譲らず、結局明日は凪沙さんの尾行をしてわたしにも様子を共有してくれることになった。
ゴールデンウィーク直後ということもあり少し職員会議が長引いていつもよりも遅い時間の帰宅だったけれど、凪沙さんは帰宅しておらず帰宅時間はどのくらいになるかというメッセージを送ってお風呂に入っていると凪沙さんが帰宅した物音がした。
お風呂から出て凪沙さんに声を掛ける。
「凪沙さん、おかえりなさい。今日も遅かったのですね」
「先程帰ってました。心配をおかけして申し訳ありません」
「はい、心配しているのですよ。
ここに来て急に毎日遅くまで外出している理由を教えてもらえませんか?」
「それは・・・知り合いと一緒に勉強をしていまして・・・」
「・・・そうですか。
でも、こう毎日遅くなると心配になりますからわたしが帰宅するくらいまでには帰ってくるようにしてくださいね」
「はい、気を付けるようにします」
そう返答をする凪沙さんの表情は曇天と表現しても良いようなもので、やはり何か悪いことがあるようにしか思えない。




