第264話
◆二之宮凪沙 視点◆
4月が終わろうとしているゴールデンウィークで世間が賑わっているある日、私の眼の前にサッカー部だった中田が姿を見せた。
「やっほー、二之宮ちゃん!
ひっさしぶりー」
「中田先輩じゃありませんか。こんなところに何の御用だったんですか?」
ここは住宅街の中にある私の住むマンションのすぐ近くで、この辺りに住んでいる人にでも用事がないなら来ることはない場所だ。
「いやー、最近やっと自由になれたんだけどさぁ。大学受験どころじゃなくなってるし、とりあえず高校で仲良かった二之宮ちゃんとまたなかよくなりたいなって思ってさー。
芳川ちゃんや岸元ちゃんに強引すぎたのが問題だったけど、二之宮ちゃんとはなかよくやれてたしさ、また去年みたいになかよくしたいなって思っててね」
「今はそういうことをしたいと思っていないので他を当たってもらいたいのですが?」
「あれあれー。前は楽しそうに付き合ってくれたのにツレナイなー」
「ええ、私もずいぶん考え方を変えましたもので」
「でもさー、考え方を変えても過去は変わらないよねー」
「そうですが?
何を言いたいのですか?」
「別に深い意味はないんだけど、二之宮ちゃんって今はサギの姉ちゃんが保護者になっているんだって?」
「厳密には違いますけど、鷺ノ宮君のお姉さんの那奈さんが私の保護者のような立場になってくださっているのは間違いないですね」
「そうなんだね。で、そのお姉ちゃんが結婚したんだってね。
その相手の家の人って二之宮ちゃんの様な経験をしている身内が居るってどう思うかなって思ったんだよね?」
それからも白々しい見え透いた要求を遠回しに言ってきたので、今お世話になっている百合恵先生やみゆきさんにまで範囲を広げられる前に要求を飲んで引かせる様に考えた。
どうせ何度もしたことでもあるし、それで那奈さんや百合恵先生やみゆきさんへ迷惑をかけずに済むならとの判断だ。
中田が今一人暮らしをしているアパートへ連れてこられた。
移動中に聞いていた話によると、家族から顔も見たくないと家を追い出されて住むようになったらしい。
中田の部屋に入ると情緒もなにもないままふたりから身体をまさぐられ、口づけをされ、至る所を舐められはじめた。
この行為自体は去年何度もさせていたことだけれど、その時にはなかった強烈な嫌悪感が襲ってきて吐き気が込み上げてきた。
しばらく弄ばれたのち、前戯が終わったとばかりに中田が性器を挿入してきた時には本当に吐いてしまいたいくらいに拒絶したい気持ちしかなかった。
そうこうして中田が繰り返し欲求を吐き出して疲れを見せたところでインターホンが鳴った。
「おっ、来たか」
中田がインターホンに呼応して動き出すと、玄関を開けるやいなやその理由がわかった。
「ご無沙汰してます、先輩。
お互い大変っしたよね。
それにしても、ここわかりにくかったですよ」
「お久しぶりっす」
「よく来た。お前らも大変だったと思うし話もあるだろうけど、まずはお前らも一緒に楽しもうと思ってな・・・」
姿を現したのはサッカー部だった同級生たち。
彼らも中田と同じく私の身体を弄び始めた・・・心を無にしてとにかく今をやり過ごそうとしていた・・・気が付けば元サッカー部員が増えていて、狭い中田の部屋が狭苦しくなってきた。
今になってわかる、美波さんや仲村先輩や芳川さんがどれほどの苦痛を感じていたのか・・・ただただ暴力的な下世話な欲望をぶつけられ、それが悍ましいとしか思えない。性のはけ口にされて男の暴力の前になすすべもなく、女としての尊厳を蹂躙されるのを抵抗すらできずに終わるのを堪えて待つしかない。
どれほどの時間が経ったのかわからないけれど集まっていた男もひとりふたりと帰っていき外は暗くなっていた。
「今日のところはこのくらいでいいかな。
二之宮ちゃん、また連絡するからなかよくしような」
満足した様子の中田に今日のところは帰って良いと言われ、中田のアパートを後にした。
ずっと見ていなかったスマホを見ると百合恵先生から私が遅くなっても帰宅しないことを心配するメッセージが着信していた。
百合恵先生やみゆきさんと一緒に暮らすようになって、おふたりに何も伝えずに暗くなるまで外出していたことはないので、心配させてしまって申し訳ない気持ちになる。
『心配させてしまってごめんなさい。偶然知り合いに会って話し込んでいたら時間を忘れてしまいました。すぐに帰ります』
これからの事を考え陰鬱な気分になり、気が付いたら視界がぼやけてきて頬を触るように水滴が流れていった。




