第263話
◆岸元美波 視点◆
岸元家と神坂家のバーベキューはみんなが食べ終って落ち着いたところでコンロを片付けて、冬樹の家の中へ舞台を移した。
冬樹とお姉ちゃんがキッチンで余った材料を使って軽食を作ってくれている傍らで、みんなはテレビを見たり歓談したりしている。
春華ちゃんとユッキー君と藤堂さんは声優だという藤堂さんの叔母さんが出演しているアニメを見始めて、アニメに詳しい春華ちゃんがユッキー君と藤堂さんに説明をしている。
ユッキー君は春華ちゃんほどではないけどアニメを見るようで、今見ている作品についても少しは知っているみたいだけど、藤堂さんは今までアニメを見ていなくて最近になって叔母さんの事を知ってから見るようになったとのことで、春華ちゃんやユッキー君の話すことを興味深げに聞き入っている。
藤堂さんからしたら春華ちゃんは強力な恋のライバルのはずなのだけど、春華ちゃんに対してすごく好意的で尊敬しているように見えるし、実際にそうとしか思えない。
どうして恋のライバルに対してそんな風に思えるのだろう?
仮に春華ちゃんがユッキー君の想いに応えたとして、その時でも藤堂さんは春華ちゃんへ向けている好意を変えずにいられるのかな?
春華ちゃんは生徒会長になってから夏菜お姉ちゃんみたいな頼り甲斐があるようになってきたと思うし、元々持っている親しみやすさと相まって人誑しみたいになってきているから恋が敗れても憎めなくなるのかな?
それとも折り合いを付けてユッキー君が春華ちゃんと藤堂さんと付き合ったりするのかな?
わたしは隆史のことで仲村先輩には関わりたくないし関わって欲しくないと思っている。隆史君は仲村先輩と会う約束をしたら言ってくれるし、実際に会った後にもどんなことをしたのか連絡してくれるけど、入学式の日の一件以降わたしが学校へ行っている時間などの会えない時間に頻繁に会っていて、その事が原因で気持ちが苦しくなって落ち着かないんだけどな・・・
考えが変な方向へ向かってしまっていることを意識したので気分を変えようと別のところへ目を向けると、お姉ちゃんと冬樹が笑い合いながらキッチンで料理をしている様が色濃く見えた。
ちょうど1年前の凪沙さんと隆史君が冬樹を陥れた一件が起こる前までは冬樹を意識していたし、将来は冬樹と愛を育んで結婚するのだろうという漠然とした未来予想をしていた。今だってやっぱり冬樹はかっこいいと思うし、お姉ちゃんと付き合っていなかったら付き合うためにアプローチをしていたかもしれない・・・冬樹は優しいからお姉ちゃんと付き合っていなかったらわたしの事を許してくれた後に、恋人にだってなってくれたと思う・・・でも、お姉ちゃんの冬樹への重い想いの前には太刀打ちできなかったとも思うし・・・
・・・結局は最初に信じられなかったことが全てだったし、今も隆史君のことを信じられないのも根っこの部分では同じなんだと思う。
理解がある振りをして仲村先輩と会っていることにも何も言えないで、悶々とした気持ちが膨らんでいく。
夕方になりお開きになって、お姉ちゃんと夏菜お姉ちゃんと春華ちゃんに相談したいことがあるとお願いしてお母さんたち大人組や藤堂さんが先に帰ったあとに残ってもらった。
冬樹も気を遣って片付けや掃除をしているからと言ってくれたのでお姉ちゃんの部屋で用意したお茶に口をつけて唇を湿らせてから口を開いた。
「あのさ、わたし、これから隆史君とどう付き合っていけば良いのかわからなくなっちゃっているんだ。
仲村先輩と会っていることにも何も言えないで、自分の中で溜め込んで消化不良を起こしちゃっている感じになってて・・・なにかアドバイスもらえないかな?」
「アドバイスと言っても私は冬樹くんしか想った相手がいないし、たぶん夏菜ちゃんも春華ちゃんもお付き合いしたことないよね?」
「そうですね。美晴さんが言ったように恋愛というものを経験してきてないです。
せいぜい、何回か男子から告白されたことがあるくらいでしょうか」
「あたしもお姉と一緒だね・・・ってそんなこと、美波ちゃんもわかっているよね?」
「それはそうなんだろうけど・・・」
「まぁ、当事者じゃないから冷静になって客観的に見えることもあるだろうし考えてみよう」
「そうだね。夏菜ちゃんが言うように傍目八目でわかるかもしれないね」
「それもそっか・・・じゃあ、美波ちゃんのために考えてみるよ」
「みんな、ありがとう」
お姉ちゃん達は真剣に考えてくれて、それでいてわたしを気遣ってくれていて厳しいことは言ってこない。
でも、話をしているうちにみんな隆史君との関係を良くないと思っていることが感じられる。
わたしにひどいことをしたからというだけでなく、今の仲村先輩との関係もあっていびつな状態になっていることが、ちょっとしたきっかけで脆く崩れてしまうだろうから・・・
ああでもないこうでもないと話をしていて、同じ内容を繰り返し空転しかけたところで春華ちゃんがとんでもないことを言い出した。
「いっそのことさ、美波ちゃんもフユと付き合っちゃえばいいじゃない?」
「ちょっと!春華ちゃん!なにトンデモナイこと言ってるの!?
第一お姉ちゃんに悪いよ」
「そうだよ、春華ちゃん。
たとえ冗談だとしても言って良いことと悪いことがあるよ」
お姉ちゃんは表情は笑顔のようで内心から『私はとても怒っています』としか思えない雰囲気を醸し出して春華ちゃんを見つめた。
「ご、ごめんなさい。美晴お姉。
でも美人姉妹のどんぶりって・・・」
「は、る、か、ちゃ、ん。マンガとか読み過ぎなんじゃないかな?」
お姉ちゃんの様子は今まで見たことがない怒りを携えた状態で、再び春華ちゃんを見つめた。
「本当にごめんなさい!」
お姉ちゃんに見つめられていたたまれなくなった春華ちゃんはその場で土下座をして事なきを得た。
そこから話はしばらく堂々巡りをしたのちに、進展してもっと具体的に迷うことがあったら改めて相談してくれるということで終わった。




