第258話
◆鷺ノ宮隆史 視点◆
東京へ戻ってきて、美波が春休みの間は都合を合わせて一緒に勉強することが多かったけれど、今日から新学期で学校へ行くようになったため美波との勉強の時間は放課後や休日にタイミングが合えばということにしたので、今度会うのは週末の予定だ。
その替わりというのか、梨子が大学の入学式で終了時間に合わせて迎えに来て欲しいと頼まれて大学の近くで終了の連絡を待っている。
美波と付き合っているのに来て良いものかという迷いもあったけれど、梨子には取り返しがつかないことをした贖いをしなければならないという気持ちの方が上回って迎えに来た。
聞いていた時間よりもずいぶん過ぎてからスマホに終わった旨と待ち合わせの場所についての連絡が届いた。
「ごめんね。お母さんがなかなか離してくれなくて」
「お母さんと一緒だったんですね」
「うん、お父さんも一緒に来てくれてね・・・やっぱり私が大学へ進学したのが嬉しかったみたい。
高校側の配慮で卒業はできたけど、学校へは全然行ってなかったから私がちゃんと学校へ行くのが嬉しかったみたい」
その原因を作った張本人としては何も言いようがなく、笑いながらそう語りかける梨子には気のない相槌しか打てなかった。
「両親が一緒だったのなら俺なんか呼ばなくても良かったのでは?」
「何言ってるの。この姿を両親の次に隆史に見せたかったんだよ。そのくらいわかってよ」
「それは・・・すみません」
「”すみません”よりも、この服装に言うことはない?」
それどころではなかったので言われるまで気付かなかったけど、入学式という特別な日に装うのに相応しい華やかな出で立ちで女子の服装に疎い俺でも流石に理解できるくらいには違いが理解できた。
「とても華やかで素敵です、梨子」
「そうでしょ。時間をかけてコーディネートして自信があったの。
あと、化粧だってお母さんに特訓してもらって綺麗に見えるようにしたんだから」
「そうですね。普段から美人なので気付きませんでしたけど、いつも以上に美人に見えますね」
言われてみて思ったとおりだと思ったままに口にしたら梨子は途端に怒った様子になって、いきなりキックをしてきた。
割と本気だったのかブランクを感じさせない芯が入ったキックで当たった脚は思いのほか痛かった。
「ほんと!そういうところが!」
「すみません。気を悪くさせてしまって」
「違っ!
もうっ・・・いいわ、せっかくだしお昼を食べて行きましょ」
梨子の希望で入ったオムライスの店で少し遅いランチを摂って、そこで別れようとしたら梨子から梨子を家まで送るようにと請われ、用事もなかったので送ることにした。
「あれ?サギじゃないか!?」
「ホントだ!隆史じゃないか!」
店を出たところでサッカー部の中田先輩と高橋先輩が連れ立っていて、声を掛けられた。
「お、お久しぶりです」
「そうだな。お互い大変だったからな。
俺も高橋も先日やっと施設から開放されて久しぶりに会ってたんだけどよ、まさかサギとも会えるとはな」
「お前も施設から出たばかりか?」
「・・・はい、そんな感じです」
「そうか。それはそれとして、さっそく美人を連れてるな。
モテる男は違うな・・・まぁ、問題がないようならそのうち声を掛けてくれ。
さすがに無理矢理やって施設はもう懲り懲りだ」
「え?」
「まぁ、またどこかで声を掛けるから会おうや」
「そうだな。今はお連れさんに悪いしな。またな」
隣に居た梨子に気付かず、別人だと勘違いしてそのまま先輩たちは去っていった・・・俺は梨子と会っていたから髪を伸ばしていることも、以前の高校の時のイメージとは違う服を着ていることも化粧の感じで印象が大きく変わることもわかっていたけど、その間の変化を知らない先輩たちは梨子だとは気付けなかったようだ・・・
先輩たちを見送って梨子を見ると表情が苦悶に満ちたものになって立っているのも辛そうな状況だった。
「梨子!
大丈夫!?」
「だ、いじょ、うぶ・・・といい、たいけど、しんど、いか、な」
「ちょっと待って。すぐに休めるところを探すから」
梨子をしゃがませて背中を擦りつつスマホで休ませられそうなところを検索したら少し行ったところにカラオケ店があることを確認した。
「近くにカラオケ店があるので、とりあえずそこで休みましょう」
「わか、ったわ」
カラオケ店へ移動している途中にラブホテルが見えた。
やましい気持ちはないが、せいぜいソファがあるくらいのカラオケよりもベッドがあることが確実なホテルのほうが休ませるには適していると考えた。
「ベッドがあるので、こっちにしますね」




