第256話
◆岸元美波 視点◆
(前話より時間が遡っています)
わたし達が春休みに入り、そして隆史君が東京へ戻って来る日がいよいよやって来た。
隆史君からは来ないで良いと言われていたものの少しでも早く顔を見たくて空港まで迎えに行こうと思っているという話を、凪沙さんと最近凪沙さんや隆史君との関係から交流を持たせてもらっている隆史君のお姉さんの那奈さんにしたところ、二人も付き添ってくれると言ってくれて3人で空港まで迎えに行くことになった。
余裕を持って空港へ着くと、フライトはほぼ定刻通りで行われていて大して待たずに隆史君が乗った飛行機が到着して程なくしてゲートから姿を表した。
「隆史!」
わたしが声を掛けようと思った瞬間、別の場所から隆史君へ呼びかける女性の声がした・・・仲村先輩だ。
そして、わたしがその状況に何もできずに見ていたら仲村先輩は隆史君のもとまで駆け寄って抱きついた。
「梨子!?
どうしてここに!?」
「今日のフライト予定を聞いてたからサプライズで待ってたのよ!」
仲村先輩も隆史君の事が好きだと言っていたし、居ても立っても居られない気持ちだったことも理解できる。
むしろわたしよりも強く隆史君の事を想っているのかもしれない。
とは言え、今の隆史君のカノジョはわたしだ。このまま仲村先輩に好きにさせておくわけにはいかない。
「隆史君、おかえりなさい。それと、仲村先輩こんにちは」
仲村先輩に抱きつかれて周りが見えなくなってしまっている隆史君に声を掛けて意識を向けさせることにした。
「ああ、ただいま、美波・・・これは、その」
「わかってる。仲村先輩も隆史君の事が好きなんだよね?」
隆史君はわたしの方を見ると浮気現場を見られたかのような反応を示したのだけれど、目線を正確に追うとわたしではなく隣りにいた凪沙さんを見て反応していた様に思う。
「そう!私が好きで抱きついたから隆史は悪くないよ!」
「わかってます。でも、さすがにカノジョの前では自重していただけませんか?」
カレシにまとわりつくライバルを牽制するカノジョ的な行動をしているけれど、隆史君が仲村先輩に抱きつかれている姿を凪沙さんに見られた瞬間の動揺が凪沙さんを強く意識していると感じられたし、その事が気になって仕方がない。
「ごめんごめん。カノジョさんの前で悪かったよね」
「そういった気持ちは抑えられない事もありますからしょうがないですよ。
でも、抑える努力はしてもらえるとありがたいです。
あと、せっかくなのでご紹介しますね。こちら、隆史君のお姉さんで鷺ノ宮那奈さん」
気持ちは隆史君の感情が凪沙さんへ強く流れてしまっていることが気になっているものの、無意識の行動で仲村先輩へ隆史君の家族とも仲が良いというアピールをして牽制していた。
「はじめまして、隆史の姉の那奈です。よろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそ!はじめまして!いきなり無作法で失礼しました!私!仲村梨子と申します!」
いきなり隆史君の身内を紹介されてテンパってしまったようで動きが固くなってしまっている。
再会のやりとりを一通り終えるとわたし達5人でまとまって空港を後にして、これから隆史君がお母様と住むアパートへ向かった。
隆史君のアパートへ着くと、お母様も在宅していて迎え入れてくれたものの凪沙さんへの当たりが強く、感情の整理がしきれていない片鱗が垣間見えた。
それに対して隆史君が庇おうとするのだけれど、そのやりとりがまるで交際相手を母親に認めて欲しい男性のやりとりに見えてなんとも消化不良の気持ちになった。
また別に仲村先輩は隆史君の気持ちを気にしていないのか気付いていないのか、或いはそれらを装っているのか表立っては見受けられなかった。




