第254話
◆神坂冬樹 視点◆
美晴さんが退院し僕らのこどももいよいよ我が家の敷居をまたぐ日がやってきた。
病院への迎えに僕も行きたかったのだけど、送迎をしてくれるお義父さんの車は後部座席にチャイルドシートを2つ装着するとあとは助手席に一人しか乗れない配置のため渋々お義父さんへおまかせして僕は大人しく家で待っていることにした。
実は美晴さんが秘密にしていて出産まで知らなかったのだけど、僕のこどもは双子で二卵性の男女と僕とハルと同じ様な関係になっている。
しょうがないことではあるのだけど、戸籍上は美晴さんが未婚での出産になるし、成人していることもあってほぼ一人で全てのことを行っていたので、美晴さんが秘密にしていたら他の誰も知りようがない状況だった。
美晴さんとしては僕に対していきなり二人の子持ちになるとプレッシャーをかけたくなかったと気遣って秘密にしていたとのことで、そうと言われてしまうと流石にそれ以上は何も言えず、一人だと思っていた僕のこどもが二人だったという事実と向き合っている。
「フユ、今からそんな硬い表情してダメじゃん・・・もっと気楽に構えないと」
「そうだよ、春華ちゃんの言うとおりだよ。今日からずっと続く生活の始まりなんだからそんなガチガチになってたらダメだよ」
一緒に美晴さんの帰りを待っているハルと美波から指摘された通り、かなり緊張している。
もちろん病院で何度か見て、抱っこもしているけど病院という非日常的な空間でのことなので実感が希薄だったけれど、美晴さんが帰ってきて自分の生活になると考えたら急に意識が現実感を帯びて柄にもなくこんな状況になってる。
「そうは言うけどさ・・・やっぱり心構えをしていたつもりでもいざ状況が目前になるとね」
「さすがの冬樹も緊張するんだな。
まぁ、そうひとりで背負い込もうとするな。
私はもちろん、母さんたちだっているし、今は受験生だけど美波や春華もいるんだから」
「そうですよ冬樹君。夏菜ちゃんの言う通り、おばあちゃん達もいるんだしそんなに身構えなくても大丈夫ですよ」
僕のはっきりしない態度に姉さんと岸元のお義母さんまで気遣う言葉をかけてくれた・・・お義母さんに対しては美晴さんの出産直前に言われた言葉が頭に残っていて、気恥ずかしさと気不味さの間の子の様な気持ちを持っている。
美晴さんの出産からはバタバタしてしまってお義母さんとゆっくり話をする事ができなかったし、そうでなくても家族の何人かが常に一緒にいてお義母さんとふたりきりになる時間がなかった上に、美晴さんとすら二人で話す時間がなくてお義母さんから言われたことを伝えられていない。
伝えて相談するにしても美晴さんがお義母さんからこの話をされているのかもわからないし、聞いていなかったとすると出産を終えたばかりの美晴さんに聞かせて良い話かも悩むところなのでふたりで話す時間があったとしても言えたかどうかわからない。
しばらくはお義母さんから何も言ってこないなら様子見をした方が良いのかもしれないとも考えてしまう。
そう思考を巡らせていたら外から車を駐めた音が聞こえて、それに呼応するようにハルがまず玄関の方へ向かいだして、美波も続き、僕も二人を追う様に玄関へ向かった。
「冬樹くん、ただいま」
玄関を出ると駐車場の車から僕らのこどもの一人目を降ろして抱きかかえているところの美晴さんから帰宅の挨拶をされた。
「おかえりなさい、美晴さん。
その子は僕が連れて入りますね。
それと、光お義父さん、美晴さんのお迎えありがとうございました。
運転でお疲れでしょうから中でゆっくり休んでください」
「いや、気にしないでいいよ。家族なんだから。
でも、せっかくだし少し休ませてもらうね」
「お父さん、お疲れ様。
中にお母さんもいるから、ふたりでゆっくりしてて。
お姉ちゃんもおかえりなさい」
「そうだな。先にお邪魔して休憩させてもらうよ」
「美波も春華ちゃんもお迎えありがとう。
お父さんも本当に今日は仕事を休んでまでありがとうね。
バタバタしちゃって大したお持て成しはできないけどゆっくりしてちょうだい」
玄関先でひとしきりのやり取りを終え、ハルと美波には先に入っていってもらって、僕ら家族だけで・・・僕が男の子を美晴さんが女の子を抱きかかえて家の中へ入った。
迷ったものの、やはり言わないわけにはいかないと思い直し、美晴さんの耳に口を近付けてお義母さんに言われたことを口にした。
「愛美お義母さんから『おしりは良くないと思う』って言われたんだけど、美晴さんは言われた?」
「ええっ!?
お母さんからそんな事を!?!?」
思いのほか大きな声で反応されたけど、幸いこども達は気にしていないみたいだった。




