第251話
◆神坂冬樹 視点◆
今日で今年度が終わりで学校としては修了式があるだけ。
先週行われた学年末テストも僕の周りは赤点を取るような成績で困っている友人たちもおらず、問題らしい問題もなかったし、クラス全体で見ても留年する様な生徒はいなかったので担任である高梨先生は安堵していた。
その高梨先生は学校から次年度も僕が所属するクラスの担任になることが内定していて、それは僕が高梨先生が担任だと良いと校長先生へ言っていたことを実現してくれたという側面が強いのだと思う。
先生は先生で初めての正式なクラス担任にやりがいを感じてくれているみたいで、自分に務まるのかという迷いはあったみたいだけれど『求めてもらったのなら精一杯頑張りたい』とやる気になっているとのこと。
僕の事情で高梨先生のクラスは僕が仲良くしている生徒が中心になっていて、およそ三分の一は今のグループと一部元サッカー部の仲が良かったメンバーが配属される予定になっている。
姉さんは僕以上に美晴さんを気遣ってくれていて僕が学校でいない時は家に来たり一緒に出掛けたりしてくれている。
美晴さんは『夏菜ちゃんは過保護過ぎるよ』などと言っているけど僕からしたら姉さんの気遣いはありがたい。
その美晴さんはお腹が少し大きくなってきていて、その様に目に見えてくると僕にも実感が湧いてくるし、心配する気持ちも大きくなってきている。
面倒見が良い気質の姉さんも身近な人が妊娠したのが初めてのことなので感覚が掴めず僕と同じ様に気が気でないのかもしれない。
大学入学までだけでなく、入学してからも美晴さんと一緒にいられる時はできるだけ一緒にいるようにと考えてくれている。
春休みに入った僕は当然のこと、ハルと美波も美晴さんをひとりにしないようにと意気込んでいて、気が付いたら美晴さんを中心に神坂と岸元のメッセージグループで互いの予定を共有し合う状況になってた。
さすがにやりすぎかと思って美晴さんと二人きりの時に尋ねたら『そんなに気を使わないでも大丈夫なのに申し訳ないかな?でも気持ちは嬉しいよ』と言ってくれたので『本当に嫌だったらちゃんと言ってね』とお願いして了承してくれたので大丈夫だと思う。
それと、最近では姉さんと二人きりの時間が多くて一人暮らししていた間の自分が知らない話をできて楽しいので、ハルや美波ともそういった空白を埋められるような話ができたらとも言ってくれている。
美晴さんを心配しているという意味では津島さんもよく様子を見に来てくれていて、同じ大学の後輩になる姉さんともよく話をしていて仲良くなっているそうだ。津島さんは交友関係が広いらしいので、姉さんにとって出会いの機会が多くなるように思う。
松本さんも津島さんほどではないけどうちに来てくれているそうで、美晴さんを気に掛けてくれているのは恋人として嬉しい。
ハルは恋愛について考える様になったみたいで、積極的に好意を見せているローラン君や新谷君とのやりとりがぎこちないのが傍目にはよくわかる。
もちろん当事者以外はだいたい察していて美波や他の友人たちもハルの異変には思うところがあるみたいだ。
ただ、その変化を察せられない当事者であるローラン君と新谷君は困惑しているようで、特に新谷君は嫌われてしまっているのではないかと相談を持ちかけてきたので『そんな事はないから、嫌でなかったらこれからも気に掛けてもらえると兄として嬉しい』と伝えておいた。
でも、あと数日で幸博君が居候するために上京してくるし、新谷君にとっては益々厳しい状況が待っているようにも思う。
新谷君もローラン君も幸博君もみんないい人たちなので、ハルが選ぶなら誰が相手でも問題ないと思うけど、ハルはどうするだろう?




