第159話
◆神坂冬樹 視点◆
放課後になり、僕たちの様子を見に来てくれた高梨先生に梅田さん、新谷君、大山さんが法律研究部へ入部したいと言ってきて既存の部員が了承しているという話をした。明日にでも入部届を用意してくれるという事で請け負ってくれたけど『具体的にはどんな活動をしていくのですか?』と尋ねられた。そもそも美波達への悪意ある生徒達の対策を相談するための場所を作る口実だった経緯だったから出てきた疑問だと思うけど、ハルも他の部員も特に何かを考えている様子ではなかったので『ハルが何かするつもりみたいです』としか返答できなかったものの、先生はそれ以上触れないでくれた。
先生の優しさもあるだろうけれど、ハルが言っていた通り学校側からは黙認されている事もあるのかもしれない。
また、先生からは個人的なことで僕と美晴さんへ話をしたいことがあるので近日中にみゆきさんと二人で僕らの家へ訪問したいと言われ了承した。
先生とみゆきさんがしたい話の内容は想像ができなかったけど、美晴さんも一緒にということからかなり私的なことなのだろうと思う。そんな話をしてもらって良いのだろうかという気持ちもあるけど、先生のためにできることはなんでもしたいので嬉しくも思う。
◆梅田香織 視点◆
放課後になって、担任の塚田先生が困ったことがないかと尋ねてきてくださった。
そのやり取りをしている近くで冬樹さんと高梨先生がお話をしていらっしゃって、昼休みの時に約束してくれていた部活への入部の話をしてくれていて最初の印象の通り自分でやると言ったことはスマートに行う人なのだと嬉しく思っていたのですが、部活の話が終わってからの続きの話が困惑させるものでした。
高梨先生がみゆきさんと仰る方を連れて冬樹さんのお宅へ伺うということで気になってしまいます。
みはるさんと仰る方にも話を聞いて欲しいとの事ですが、冬樹さん達のお母様のお名前でしょうか?
気になることは間違いないのですが、だからと言ってそれを口にしてしまうのは憚られます。
今は心のメモに書き留めておいて折良い時に尋ねてみたいと思います。
◆塚田智 視点◆
最近の高梨先生は雰囲気が変わった上に結婚指輪を外しているので、おそらく離婚したか、していなくても秒読みかといったところではないかと推測できる。
その高梨先生が今日の放課後、僕が転校生の梅田さんに困ったことがないかなど尋ねていたらその近くで神坂君と話をしていた。全部を聞き取れたわけではないものの最初は部活の話をしていてそれは凡そ理解できる内容であったが、最後のやり取りは理解不能だった。
高梨先生が呼び捨てにする『み』なんとかという人物を伴って神坂君の家へ行くという。今の神坂君もらっている情報だと実家から出て一人暮らしを続けているはずで、それでも神坂君以外にも話をしたい人がいるということなので、僕の知らない同居人がいるか、それとも近所に住んでいるかの第三者が関係している様だ。
名前は聞き取れなかったものの敬称は『さん』付けなのである程度年齢が行っているか女性かと思われるが情報が少なすぎる。何者かわからないけれども、プライベートで関係があるというのであれば気になってしまう。
いくらなんでも神坂君が高梨先生と交際するということは考えにくいけれども、高梨先生は高校生男子から見ても魅力的に映るだろうし、15歳くらいの年齢差など世間を見ればいくらでもいる。神坂君は高校生離れした雰囲気もあるし、そう考えていくと何かもが怪しく思えてしまう。
ただ、見方を変えると神坂君が何らかの縁があってたまたまプライベートでも高梨先生と懇意にしているだけなのだとしたら協力してもらうことも選択肢に入ってくるのではないかと思える・・・様子を見て協力を仰げないか見極めていくのも良いかもしれない。
職員室へ戻ったところで教頭先生に声を掛けられた。
話は神坂君と岸元さんがクラスへ復帰したことで当初見込んでいたよりも人数バランスが悪くなってしまっているので、12月から受け入れる予定の転校生と留学生は神坂春華さんと新谷君のそれぞれが元いたクラスへ振り分け直すことにしたという。
元々そうして欲しいと言っていたわけだから謝辞を述べて終わるところだけれども、せっかく高梨先生のサポートを受けられる口実となっている転校生と留学生の受け入れが分散するのは好ましくない。増える負担と高梨先生を天秤に乗せ、受け入れるつもりで準備していたことと、今から突貫で準備の引き継ぎをするくらいなら受け入れた方が良いと説得し、12月から来る転校生と留学生については当初の予定通り僕のクラスで受け入れることになった。
年が明けて1月から来る予定の生徒については別のクラスにするという事になったけど、さすがにそこまで引き受ける理由が作れなかったので仕方がない。贅沢を言い出したらきりがないので、負担が減ったと素直に受け取ろうと思う。




